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2011/04/11

『宗教と現代がわかる本2011』
渡邊直樹(責任編集) 平凡社 2011年3月 1600円(税別)

宗教から眺める現代社会

 2007年に刊行された『宗教と現代がわかる本』シリーズは、今回2011年の発行をもって第五回を数える。本書をめくるたびに、昨年注目を集めた宗教情報を思い出す。なにより本書の魅力は、メディアによる一時の過熱報道が沈静化したその後の議論も含めて、出来事が詳しくフォロー可能なところである。注目を集めた宗教的出来事を紹介し、さらに現代社会の潮流に位置づけ解説を施す本書の特徴を、書評として紹介してみたい。


 

葬式のお話はどこへいった

 島田裕巳氏の著作『葬式は、要らない』(2010年1月、幻冬舎新書)を発端として、同年春頃には報道番組・週刊誌・ビジネス雑誌各所で「葬儀」特集が組まれ、さらには寺院などの檀家を持つ宗教団体がシンポジウムを開催するまで至った (*1)。この一連の出来事は、一方では既存の宗教団体への批判が展開されつつも、他方では個人の死生観を問う問題として、広く国民の注目を集めた。
 「葬儀」という人生のある一点から出発した議論は、現在では多様な方向へと展開されている。著者の島田氏は、簡略化する葬儀の背景について、都市化や高齢化といった現代日本社会が抱える構造的問題を指摘しつつ、本書では「葬儀」から「墓」へと考察を展開していく。寺檀関係の変化という大きな枠組みのなかで、都市の墓地不足と高級化、また墓守(はかもり)という習慣の衰退をまえに日本の祖先崇拝の行く末を描いた島田氏の一稿、「『葬式は、要らない』から『墓は、造らない』へ」は興味深い。


「無縁社会」に生きる私たちのエンディングとは

 一方、「葬儀」とは異なった切り口で、私たちに人生の末路を想起させた言葉が「無縁社会」であった。同じく2010年1月、NHKスペシャルで放送された「無縁社会」に端を発するこの言葉は、現在に至るまでNHKで幾つもの特集が組まれ、大反響を呼んだ。
 この問題についても、本書では村上興匡氏の一稿、「『無縁社会』における死の問題」にて一連の議論が紹介されている。村上氏は「無縁」について、無縁仏・無縁墓といった祀り手をなくした死者をさす言葉から、次第に実社会に馴染めない若者や家族から孤立する高齢者など生者をも含意する言葉となった、と分析する。そのうえで、血縁・地縁・社縁といった社会の「縁」から切り離され死を迎える現象、つまり「無縁死」という象徴的事象から、現代社会を生きる個人がいかに死を考えるのか、個々人の捉え方を考察している。


個人の信仰と世界観

 これほどまで「死」を意識して生きる人生にあって、私たちは現実の「生」にいかに関わりうるのか。このような問いに対しても、本書はヒントを与えてくれる。
 本書の「特集 信仰と人間の生き方」では、明治から戦中という日本の近代化時代にあって、宗教的な世界観を堅持し激動のさなか自己の人格を創り上げていく知識人の人生が記されている。また「インタビュー・対談」では、日本を代表する女優と経営者らが、自らの歩みと信仰とが密に織り重ねられた人生の軌跡を、明らかにしている。彼らから語られる内容は、ともすればぼんやりと宗教に関わりながら日常を過ごす私たちに対して、信仰と実践から導かれる生の在り方を提示してくれる。


自然崇拝という原点回帰

 現代宗教の諸相を見ると、「宗教」という言葉の負のイメージを解毒するかのようで、別の神秘的ヴェールを纏わせる「スピリチュアル」という言葉に拠り所を求める者もある。他方では、神秘的な場所「パワースポット」なるものを訪れ、現実をサバイブしていくエネルギーを充電しようと試みる。
 本当に「神秘的な力」はあるのだろうか。巻頭グラビア「日本の聖域・霊域」に寄せられた藤田庄市氏の写真は、大自然に潜む神仏が「顕現する瞬間」を収めたものだ。山岳修行ならびに霊域・聖地取材三十年という藤田氏だからこそ感得できる「霊力」があるのだろう。そして神々への真摯な想いから表現される藤田氏の一稿、「ディープなパワースポット『霊域』への誘惑」は読者を霊験灼(あらた)かなる真のパワースポットに誘う。


結びにかえて

 肯定的否定的にせよ「宗教」への関心は、今も昔も私たちにあるのかもしれない。個人の宗教的意識と具体的な信仰との関わりを模索することは、現代社会と宗教との関係を考えるうえで重要である。その点、本書にまとめられている宗教的出来事、論者による分析と解説、個人が語る信仰、それらを横断的に眺めることは――往々にして宗教的諸事に出会う人生にあって――自己の生き方を方向づける一つの羅針盤にもなるはずだ。
 

*1.葬儀の議論については、宗教情報センターのレポート「誰がために弔鐘は鳴る――現代日本の葬儀考」でも取り上げている。ご覧いただき、参考になれば幸いである。

 また「スピリチュアル」や「パワースポット」、「葬式」や「無縁社会」といったキーワードに関しては、2010年の宗教情報をまとめたレポート「2010年 国内の宗教関連の出来事」も併せて参考にされたい。


 (蔵人)