文字サイズ: 標準

研究員レポート

2026/08/20

CIR・DB ニュースレポート 2026年5月 イスラム

宗教情報

荒木 亮

宗教情報データベースを用いて、検索したいワードの欄に「イスラム ムスリム」と入力、期間を2026年5月1日~2026年5月31日と設定し、「類義語を含む」にチェックを入れて検索したところ244件の記事が抽出された。さらに絞り込み条件として地域のカテゴリの「日本」にチェックを入れたところ72件の記事が該当した。前月と比較すると2026年4月では記事の総数が418件、絞り込み条件に「日本」を加えた結果が91件であったことから、国外の記事が大幅に減少したと言える。〈2026年8月3日現在〉
 

◆2026年5月の国外の出来事

4月に引き続き今月も米・イスラエルとイランとの戦争関連の記事が多く、今月の全記事数244件のうち、絞り込み条件で「イラン」という言葉を含む記事を抽出したところ104件に上った。ただし開戦当初にあたる3月では「イラン」という言葉を含む記事数が226件、4月の記事数では233件であったことに比べると報道数が減少してきた印象がある。今月の記事としては、アリー・ハメネイ師の死亡に伴い最高指導者となったイスラム法学者でもあるモジタバ・ハメネイ師が米国やイスラエルとの戦闘継続へ向けた新たな指示を与えたことを伝える報道(読売・東京 5/12ほか)や、対する米国とイスラエルのイラン軍事作戦の動向を伝える報道(毎日・東京 5/22ほか)などが見られた。またイスラエルとシーア派組織ヒズボラが活動するレバノンとの戦闘に関する記事も散見され、具体的には米国の仲介による停戦合意が45日間延長されたことが15日に米国務省により発表されたことに関する報道(朝日・東京 5/17ほか)などがあった。さらに衝突が続くイスラエルとパレスチナをめぐる記事も多数あり、具体的には5月15日に78回目の「ナクバの日」(1948年のイスラエル建国時に約70万人以上のパレスチナ人が故郷を追われ難民となった悲劇を記念して、同5月14日のイスラエル建国宣言の日の翌日に設定された)を迎えたことと関連して現地の様子を伝える報道(毎日・東京 5/14ほか)などが見られた。
その他、米国のトランプ大統領が15日、米軍とナイジェリア軍がイスラム過激派組織「イスラム国」のナンバー2にあたる幹部を殺害したと自身のSNSで発表したことを報じる記事(読売・東京 5/17ほか)、イスラム教シーア派が多数を占めるイラクにて新政権が発足し首相に実業家のアリ・ザイディ氏が就任したことを報じる記事(東京・東京・夕 5/18ほか)、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが18日、2025年の世界の死刑件数を発表し、イランでの増加について政治的に抑圧する手段として死刑が利用されていると指摘したことを報じる記事 (東京・東京 5/19ほか)、米国西部カリフォルニア州で18日、モスクが襲われ3人が死亡した銃撃事件が発生し、イスラム教徒を狙ったヘイトクライムの可能性があり地元警察が動機や経緯を調べていることを報じる記事(毎日・東京・夕 5/20ほか)などがあった。
また、今月の中旬から6月初旬にかけてサウジアラビアのメッカでは大巡礼(ハッジ)が行われており[→ 大巡礼(ハッジ)]、インドネシアから参加する家族のインタビューなどを紹介しながら現地の様子を報じる記事(日経・東京 5/25)があった。
 

◆2026年5月の国内の出来事

日本国内におけるイスラム教徒の増加に伴い必要とされる土葬墓地の新設を巡って、政府が全国の主要自治体を対象に実態調査に乗り出したことを報道する記事(産経・東京 5/8ほか)、「4人に1人が「外国人受刑者」という府中刑務所の実態」というタイトルの記事の中で刑務所でのイスラム教徒の受刑者の過ごし方やそこでの宗教的な配慮のされ方が記載された記事(週刊新潮 5月7日・14日合併号)、また福祉機器などを手がける岡山県総社市のメーカー「オーエム機器」が観光地や企業でのイスラム教徒の受け入れに活用してもらおうと狭いスペースでも簡易設置できる礼拝室「プレイヤースペース」を開発したことを報じる記事(読売・岡山 5/10)やオリジナルウェアの販売・制作を行う山梨県甲斐市のフォーカス社がイスラム教徒の社員が入社したことを受け、職場内に礼拝のためのスペースを設置したことを報じる記事(山梨日日・甲府 5/28)などがあった。
その他にも、神戸ムスリムモスク初の日本人イマームとなった藤谷勇介氏に、イスラム教徒へのヘイトなど日本社会のイスラムをめぐる状況をインタビューした記事(神戸・神戸 5/3)や、パレスチナをめぐる過去・現在・未来について小学生向けにわかりやすく書かれた『もしも君の町がガザだったら』(ポプラ社、2025年)が第73回産経児童出版文化賞を受賞したことを記念して著者である高橋真樹氏のインタビューが掲載された記事(産経・東京 5/5)もあった。加えて、北海道江別市でパキスタン人が所有する中古車解体施設内の建物に放火しようとした容疑で男性が逮捕され、同地域にて本年2月に発生した倉庫とイスラム教の礼拝施設での火災事件(朝日・札幌 3/1産経・東京 3/4)との関連を江別署が調べているという報道(産経・東京 5/28)があった。
 

◆記事のピックアップとコメント

✓「市川・行徳モスク 犠牲祭で集団礼拝、600人参加 長年会場の公園、使用不許可」[千葉日報・千葉 5/28ほか]
千葉県市川市の通称「行徳モスク」で27日朝、犠牲祭の日の集団礼拝が行われ、県北西部などに住むイスラム教徒を中心に約600~700人が集まり祈りを捧げた。ただし今年は、例年通り向かいにある市川市立南沖公園で礼拝をするのではなく、行徳モスクにて集団礼拝が行われた。というのも、開催間近になって市が公園の使用を許可しないと決めたからだ。その結果、会場となるモスクが狹いことから、午前6時半から参加者を入れ替えるかたちで複数回に分けて礼拝が行われた(千葉日報・千葉 5/28朝日・千葉 5/28)。
行徳モスクによると、1997年の設立当初から毎年、断食月明けの祭りと犠牲祭の2回、モスク前の南沖公園の一部を文化交流会の会場として利用し礼拝をしてきたが、今年は公園の使用を申請したところ市から取り下げを求められ、その後の話し合いで、市から公園の利用は認めるものの集団的な礼拝は認めないと要請された、という(毎日・千葉 5/27)。なお、この件について、田中甲市長は29日の定例記者会見で「バランスの取れた多文化共生社会の実現に当たり、不特定多数が集まる公園での集団礼拝には一線を引くべきと市長である私か判断した」と述べ、また方針転換の理由として過去の集団礼拝の映像がSNSで拡散されて批判の対象となるなど社会情勢の変化を挙げたという(千葉日報・千葉 5/30)。
☞ 多くのムスリム社会において、犠牲祭や断食明けの祝祭の朝の集団礼拝はモスク付近の公園や広場にて行われる。地域に住むムスリムが一堂に会するため、モスクには到底、参加者全員が入りきらないからだ。日本においては、公園といった公共空間における宗教的行事の可否や、また宗教行事の様子がSNSなどを通じて拡散された場合の影響に鑑みることはとても重要だが、年に数回程度の宗教的祝祭の日の礼拝を信者が望むかたちで実施することを許容するような寛容さがあってもいいのかもしれない。
 

◆+α 用語ミニ解説

大巡礼(ハッジ):イスラム暦、第12月(巡礼月)の8日から10日を中心にサウジアラビアにある聖地メッカをその周辺で行われる儀礼であり、心身ともに健康で財力のあるすべてのムスリムが、少なくとも一生に1回は行うべき義務(五行の一つ)とされています。2026年は5月24日から29日頃にかけて大巡礼が行われました。中東情勢が緊迫する中、世界中から170万人を超えるムスリムが集まりました。また第12月(巡礼月)の10日には、メッカの巡礼者たちと精神的に一体となるべくイスラム社会では犠牲祭(イード・アル=アドハー)が行われ、この日は早朝に集団礼拝があり、その後に動物を供犠し、犠牲獣をみなで食べながら大巡礼の成功を祝います。関心のある方は、インドネシアの犠牲祭(イード・アル=アドハー)を取り上げた過去の[研究員レポート:インドネシア・ムスリムの犠牲祭の楽しみ方【前篇】]をご覧ください。
 
バックナンバー ⇒ 2026年4月_イスラム(CIR・DB ニュースレポート)