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研究員レポート

2023/02/06

2019年の国内の宗教関係の出来事

宗教情報

藤山みどり(宗教情報センター研究員)

 

1月01

比叡山延暦寺が20181231日から初日の出まで除夜の鐘や法要を初めてネット(YouTubeとニコニコ動画)で生中継

1月02

平成最後の新年一般参賀、参賀者が平成最多の約154800

1月13

浄土真宗本願寺派本山本願寺の聞法会館(京都市)に子ども食堂「西本願寺みんなの笑顔食堂」始動

1月22

医薬に依存しない生活を重視するミロクコミュニティ救世神教(津市)、研修会を通じた麻疹(はしか)の集団感染に謝罪文を発表

1月26

池田大作SGI会長、「SGIの日記念提言」でAI兵器禁止条約制定を提言

1月26

福井県警、2018年9月に僧衣で自動車運転をして交通違反とされた僧侶について、書類送検しない方針を発表

2月01

文化庁、盗難などにより所在不明の文化財を紹介する特設サイトを開設

2月08

政府僧衣での運転が道路交通法違反にあたるか「個別に判断すべきで、一概に言えない」とする答弁書を閣議決定

2月15

臨済宗黄檗宗連合各派合議所と曹洞宗宗務庁、中学の歴史教科書で「禅宗」一括表記は不適切と出版社5社に申し入れ書を送付

2月24

LGBTのため建立された性善寺(大阪府守口市)で性同一性障害の柴谷宗叔・住職の晋山式

2月27

建勲神社(京都市)、神社本庁を離脱

3月08

高台寺(京都市)のアンドロイド観音マインダーを一般公開(~5月6日)

3月09

『文藝春秋』3月号で児童養護施設「東京サレジオ学園」におけるカトリック神父の児童性的虐待を告発

4月03

寺院が家族等に代わって弔う「日本弔い委任協会」が発足、第1回講習会開催

4月10

オウム真理教犯罪被害者支援機構が教団の後継団体「アレフ」に被害者への約102900万円の未払い賠償金の支払いを求めた訴訟で、東京地裁はアレフに全額支払いを命じる判決

4月25

幸福実現党、統一地方選挙で19人当選、地方議員計35人に

4月26

妖怪にテーマを絞った公立博物館としては全国初の市営・湯本豪一記念日本妖怪博物館(三次もののけミュージアム・広島県三次市)開館

4月30

天皇陛下「退位礼正殿の儀」、5月1日午前0時に「上皇」に

5月01

皇太子徳仁親王殿下が第126代天皇に即位し「令和」に改元

5月25

神社本庁、役員会で田中恆清総長が異例の4選(任期3年)

6月12

上皇夫妻が明治天皇陵に退位を報告する「親謁の儀」、退位関連儀式完了

6月13

醍醐寺(京都市)が台風21号による被害からの復旧のためクラウドファンディングを世界遺産の寺院としては国内で初めて実施。7月末までに目標額100万円を大きく上回る約500万円を調達

6月26

「幸福の科学」大川隆法総裁の長男・宏洋が『WiLL』8月号で教団批判。宏洋氏は201810月以降、YouTubeなどで教団批判を繰り返していた

6月27

オウム真理教犯罪被害者支援機構、教団による一連の事件の被害者や遺族512人に対して計約3億5000万円の賠償金を配当すると発表。配当は11年ぶり

6月28

京都仏教会、布施などのキャッシュレス化に反対する声明文発表

7月01

茨城県が同性カップル等に「パートナーシップ宣誓制度」導入、都道府県で初

7月03

2014年に「イスラム国」に参加するためシリアへ渡航しようとしたとして、警視庁は北大学生(当時)ら5人を私戦予備の疑いで書類送検。同容疑の適用は全国初。東京地検は22日に5人を不起訴処分に

7月06

ユネスコが百舌鳥・古市古墳群の世界遺産登録を決定。陵墓の登録は初めて

7月19

真宗大谷派が、同派を離脱した大谷暢順氏が理事長を務める本願寺文化興隆財団に東本願寺内の財団事務所・倉庫の明け渡しなどを求めた訴訟で、和解が成立。1975年以来、訴訟が続いていた「お東紛争」の全裁判が終結

7月25

真宗大谷派、教師資格取得課程でグリーフケア研修を必須化と発表

8月07

原爆で倒壊した旧浦上天主堂(長崎市)に飾られていた十字架が米オハイオ州ウィルミントン大学平和資料センターから返還

8月下旬

天台宗が、寺院住職と血縁関係などがない2330歳の男性を全国から公募して指導した教育機関「叡山学寮」(1995年開設、2006年休寮)を廃止

9月04

『浄土真宗聖典全書』完結記念シンポジウムを浄土真宗本願寺派総合研究所が開催

9月05

臨済宗妙心寺派、同派寺院住職による在日韓国・朝鮮人に対するヘイト発言に謝罪声明

9月08

法隆寺に向かう参道沿いにホテル「門前宿『和空 法隆寺』」が開設。

1003

韓国・中国系のカルト情報を発信するサイト「異端カルト110番」が開設

101213

台風19号により、東北・中部・関東・東海の150カ寺以上が被災

1017

靖国神社の秋季例大祭中に衛藤晟一・沖縄北方相が参拝、春秋の例大祭や「終戦の日」の閣僚参拝は2年半ぶり、18日には高市早苗総務相も参拝

1022

天皇陛下が即位を公に宣明する「即位礼正殿の儀」

1024

よりそう(旧みんれび)の僧侶派遣サービス「お坊さん便」がアマゾン撤退

1101

大阪に日本初の寺院山門一体型ビルが開設、4階までが真宗大谷派難波別院(南御堂)で5~17階はホテル

1110

天皇陛下の即位を披露するパレード「祝賀御列の儀」で沿道に約11万9000人、「即位の礼」終了

1113

法相宗大本山興福寺で8年ぶりに法相宗の僧侶が一生に一度だけ受験できる口頭試問「竪義独出身のザイレ暁映氏が合格

111415

大嘗祭の中心的な儀式である「大嘗宮の儀」

1120

外務省、「ローマ法王」の呼称を「ローマ教皇」に変更と発表

1121

最高裁、安倍晋三首相による201312月の靖国参拝は政教分離原則に反するとして、戦没者遺族らが損害賠償と違憲性の確認を求めた訴訟で、二審判決を支持し、原告の上告を棄却

1121

真宗大谷派(東本願寺)と京都市、寺所有地と市道を市民緑地に整備と発表

1122

天皇皇后両陛下、伊勢神宮の外宮で「親謁の儀」、23日に内宮で同儀

1122

アニメ「鬼滅の刃」関連CDでイスラム教に関する音声の不適切な使用があったとして、販売元アニプレックスがCD同梱商品の出荷停止と回収を発表

1123

ローマ教皇フランシスコ訪日、被爆地長崎・広島を訪問、天皇陛下と会見、東京ドームで約5万人の信者を前にミサ(~26日)

1201

遍路の規則を巡って四国八十八ヶ所霊場会と対立し、2017年に脱退した62番札所・宝寿寺(愛媛県西条市)が霊場会に再加入

1204

天皇皇后両陛下、賢所と皇霊殿神殿に「親謁の儀」、「賢所御神楽の儀」に臨み、天皇皇后両陛下が臨席する「即位の礼」関係の儀式が終了

 

 

 

2019年の国内の宗教関係の出来事

 2019年は海外と同じく国家と宗教の関連を考えさせる出来事があった。神道儀式を伴う天皇陛下の代替わりと、バチカン市国の元首でカトリックの頂点に君臨するローマ教皇フランシスコの訪日である。

世界と連動した出来事もあった。2002年以来、各国で発覚したカトリック聖職者による児童性的虐待が日本でも表面化した。被害男性が2001年に修道会やカトリック教会に告発したものの真摯な対応がなされなかった事件が、教皇来日に合わせて2月発行の『文藝春秋』(3月号)で取り上げられた。

5月にはまた、イスラム国(IS)に日本国籍の者が深く関わっていたことが明らかになった。2016年にバングラデシュで死者22人(日本人7人含む)を出したテロへの関与で指名手配されていた、同国出身で日本国籍のモハマド・サイフラ・オザキ立命館大学元准教授がイラク北部で米軍に拘束されていると報じられた。元准教授は日本人の妻や子供とともに2016年ごろシリアに渡り、ISで重要な役割を果たしていたとみられる[1]

このほか報道を中心に2019年の国内の宗教関連の出来事を概観する。

 

(1)   天皇の代替わり儀式と政教分離、ジェンダーの問題                                  

◆代替わり儀式への批判

2019年には光格天皇以来202年ぶりの生前退位があり、4月30日に退位の儀式「退位礼正殿の儀(以下、太字は国事行為)」が国事行為として行われた。新元号「令和」は、改元に伴うシステム改修の準備期間などを鑑みて、4月1日に発表された。出典は日本最古の歌集『万葉集』で、歴史上初めて「国書」を典拠としたと説明された。

5月1日には新天皇の即位に伴う「剣璽等承継の儀」が行われた。これは皇室の祖・天照大神が孫・ニニギノミコトに授けたという神話に基づいて天皇に継承されてきた「三種の神器(鏡・剣・璽(じ=勾玉))」[2]のうち剣璽などを承継する儀式である。そのあと新天皇は、即位後に初めて国民の代表と会う「即位後朝見の儀」で「歴代の天皇のなさりようを心にとどめ、自己の研鑽に励むとともに、常に国民を思い、国民に寄り添いながら」責務を果たすことを誓った。

1022日には天皇陛下が即位を公に宣言する即位礼正殿の儀が行われた。天皇は、天孫降臨の神話を具象化したもの[3]とされる玉座「高御座(たかみくら)」に登壇して皇位継承を表明し、安倍首相が祝意を表して万歳三唱をした。儀式には186の国と5つの地域・機関の代表423人や国内の代表計1999人が参列。夜の祝宴饗宴の儀[4]には、海外の国王や元首らが招かれた。この日に予定されていた祝賀御列(おんれつ)の儀は、台風19号の被災地対応を考慮して1110日に延期された。天皇皇后両陛下は皇居から赤坂御所までオープンカーでパレードを行い、沿道に集まった約119000人から祝福を受けた。

111415日には、大嘗祭の中核となる「大嘗宮(だいじょうきゅう)の儀」が行われた。大嘗祭は宮中祭祀であるが、平成の代替わりをならって「宗教儀式としての性格を有するが、公的性格がある」として公費約27億円の予算が計上された。

12月4日には天皇は皇居・宮中三殿の賢所(かしこどころ)で天照大神に感謝を込めて神楽を奏でる「即位礼及び大嘗祭後賢所御神楽の儀」に臨み、一連の儀式が終了した。

これら代替わりの儀式は平成の代替わりの際に、憲法が定める政教分離の原則などに反しないよう政府が国事行為と宮中祭祀に分けた。それを踏襲し、現憲法下で初めて行われる退位の礼退位礼正殿の儀を含めて6儀式が国事行為(本文中太字)として、天皇が即位後に初めて行う新嘗祭(にいなめさい)である大嘗祭の中核となる「大嘗宮の儀」など23儀式が宮中祭祀として行われた。

だが批判を免れることはできなかった。政教分離に関していえば、儀式に用いられる神話に由来する剣璽や「高御座」などが批判の的となった。

 

国事行為とされた主な儀式に関する憲法遵守のための配慮点と批判点

儀式名・実施日時

太字は国事行為

配慮点と批判点(→)

退位礼正殿の儀

4月30日午後5時~(退位を広く明らかにし、天皇が退位前に最後に国民の代表に会う儀式)

 

・退位を天皇ではなく安倍晋三首相が述べ、天皇が謝意で答える形とした(天皇が自らの意思で退位した=国政関与=と受け取られないため)。

・剣璽(「三種の神器」のうち2つ)を天皇から新天皇に譲ると天皇の国政関与にみられるため、「退位礼正殿の儀」と「剣璽等承継の儀」を別の儀式とし、時間的にも分けて実施。

・剣璽と天皇が国事行為に用いる御璽(天皇の印)と国璽(国印)は、侍従が持って「案(あん=小卓)」の上に置き、儀式後に侍従が持って元の保管場所に戻した(天皇が皇位の象徴を自ら譲った=国政関与=と受け取られないため)。

・内閣法制局長官が「皇位とともに伝わるべき由緒ある剣璽、国璽や御璽の安置に憲法上の問題はない」と表明。

→神話に基づく「三種の神器」を皇位の証とする儀式の国事行為化は政教分離や「信教の自由」に反する。“神器を授けた”天照大神を祀る伊勢神宮に特別な地位を与えかねない[5]

剣璽等承継の儀

5月1日午前10時半~

(即位に伴い、剣璽を承継する儀式)

上記箇条項目の2項目以下と同じ

即位礼正殿の儀

1022日午後1時~

(即位を公に宣明し、内外代表が寿ぐ儀式)

・平成の前例を踏襲し、剣璽等を「高御座」の案の上に配置(平成時に、新憲法下の天皇の国事行為であることを明確にするため、剣璽を皇位の象徴として従来通りに置くだけでなく、併せて公務に使う御璽と国璽も置いた)。

・平成の前例を踏襲し、正殿「松の間」で天皇は床よりも約1.3m高い「高御座」に登壇し、床に立つ首相が万歳三唱をする(平成以前は首相が正殿から庭に降りて万歳をしたが、平成の際には国民代表としてふさわしい形にするため首相は天皇と同じ正殿「松の間」で万歳三唱をした)。

・「高御座」の使用について内閣法制局長官が「歴史上、伝統的皇位継承式で用いられ、皇位と結びついた古式ゆかしい調度品として伝承されてきたもの」で問題ないとの認識を表明。

→神話に基づく剣璽等を「高御座」に置くのは政教分離違反[6]

→天孫降臨の神話に由来する「高御座」に立つ天皇を仰ぎ見て首相らが万歳三唱する形は、国民主権や政教分離に反する[7]

 

◆秋篠宮の異例の発言

「即位の礼」関連儀式の公費支出は一部しか公表されず、東京新聞の調べでは約1331900万円で予算より27億円の減額となった[8]。宮内庁の支出は342000万円で、大嘗祭の儀式後に解体される大嘗宮の造営関係費は予算比約7億円減の125000万円だった。大嘗宮は1回限りしか使用されないが造営に多額の費用がかかる。

平成の代替わりの際には宗教色の強い大嘗祭への巨額の公費支出などが大きな議論を呼んだ。即位の礼・大嘗祭への知事等の参列や公費支出が政教分離に反し「信教の自由」の侵害に当たるとして、計5件の国家賠償請求や住民訴訟が起こされた。だが、いずれも住民側が敗訴した。知事等の参列に関しては、最高裁が知事等の参加は社会的儀礼に過ぎず、特定の宗教に対する助長でないため政教分離違反に当たらない(平成14年7月11日)[9]と判断した。また、大嘗祭等への公費支出に関しては大阪高裁が「即位の礼」と大嘗祭が「ともに憲法の政教分離規定に違反するのではないかとの疑義は一概に否定できない[10]としたが、国費での儀式執行は個人に具体的な負担を課さないため個人の思想等に影響を与えていない(平成7年3月9日)[11]として訴えを却下した。

最高裁の合憲判決を根拠に、議論を深めないまま2018年2月に式典準備委員会が前例踏襲を決定した。だが201811月に秋篠宮が大嘗祭への公費支出に疑問を呈し、内廷会計(天皇家の私費)で行うべきと述べた。代替わり後に皇位継承順位1位の皇嗣(こうし)となる秋篠宮の異例の発言は物議を醸した。皇族の政治関与に規定はないが、憲法4条が禁じる天皇の国政関与に准ずると捉えて批判する識者もいた[12]。また、「国民が有する自由や各種人権は特権階級に抗して獲得された権利だから、発言したいならば皇族を辞して国民と対等になるべき」という憲法学者もいた[13]。週刊誌は、秋篠宮は自邸改修に公費33億円が投じられるのを棚に上げて代替わりの儀式を批判すると報じた[14]。ただし宮内庁は、公費支出は閣議了解済みであるため政治的発言ではないとの見解を示した。

今回も、代替わりの儀式への公費支出は政教分離に反して違憲であるとして、宗教者や市民ら241人が201812月に国を相手に支出の差し止めや「信教の自由」の侵害への損害賠償を求めて東京地裁に提訴した(第1次提訴)。裁判所は訴訟を「差し止め請求」(行政事件)と「損害賠償請求」(民事事件)の2つに分離した。このうち差し止め請求(第1次訴訟)は201910月に最高裁で棄却された[15]。第2次訴訟(2019年3月提訴)も202111月に東京高裁で、「信教の自由の侵害と認めるには、思想の強制などで直接不利益を受けることが必要」で大嘗祭への支出は「個々の国民への皇位ではなく権利侵害は認められない」と却下された[16]

◆平成よりも薄れた問題意識

平成の代替わり時には日本国憲法下で初めて行われる代替わりの儀式に議論が高まり、「即位の礼」・大嘗祭を国事行為・公的行為として行うことへの抗議も目立った。だが今回は議論も反対運動も少なかった。日本キリスト教協議会(NCC)などによる署名活動は、平成時には約5万8000余筆も集まったのに対して今回は6200筆だった[17]1990年9月に大阪で提訴された訴訟は原 告987人で、第3次訴訟までの原告は累計1660人に達した。だが、201812月に東京で起こされた違憲訴訟の原告団は第1次・第2次合わせても317[18]で、高齢者が目立った。また「高御座」を保管場所の京都から東京に移送する際には、平成時には「即位の礼」阻止をねらう過激派対策のため陸上自衛隊がヘリコプターで空輸したが今回は何事もなくトラックで移送された。

国民だけでなく報道も平成よりも祝賀ムードが強かったのは、生前退位であることや、戦争を体験した世代が減少して国家神道への危機感が薄れたこと、インバウンド観光の増加で天皇を含めた日本文化の再評価や「伝統回帰」が強まったこと、保守派である安倍政権への配慮などが挙げられるだろう。

平成の代替わりよりも注目された事項は、女性皇族の問題であろう。「剣璽等承継の儀」に参列する皇族に関して、政府は早々に平成の代替わりを踏襲し、成年男性に限る方針とした。このため平成のときに出席した皇族は6人だったが、今回は秋篠宮と常陸宮の2人だけだった。憲法第14条の「男女平等の原則」に反するともみられる女性皇族の出席制限が議論されなかったのは、男系天皇を維持したい安倍政権が女性天皇や女系天皇(母方が天皇の血筋である天皇)の是非に波及することを警戒したためとみられた[19]

なお、参列者は成年男性皇族のほかは首相と閣僚とされ、片山さつき地方創生担当相が憲政史上初めて女性の参列者となった。

◆キリスト教界と分かれた仏教界の態度

宗教界をみると、大嘗祭への国費支出や三権の長の出席、「即位の礼」などを政教分離の原則や「信教の自由」に反すると捉えて、政府への抗議や反対運動などを主導したのはキリスト教界だった。日本カトリック司教協議会は、国家神道のもとで戦争を行った歴史にふれて、天皇の代替わりの儀式における政教分離の原則の厳守を求めた[20]。一方、「神以外の何ものをも神としてはならない」キリスト者として声明を発表した日本基督教団は、天皇の神格化を推進するなどとして大嘗祭への国の関与に抗議した[21]。カトリックのように神とつながる仲介者として聖職者を信徒の上位に置くことを否定し、万人祭司を説くプロテスタントならではの主張である。このほか日本キリスト改革派教会[22]日本聖公会主教会正義と平和委員会[23]や、日本福音ルーテル教会常議員会[24]日本キリスト教会[25]日本バプテスト連盟[26]なども抗議の声明などを出した。

これに対して伝統仏教界は、奉祝法要を行うところが多かった(下表参照)。皇室とのつながりが深いためであろう。

天台宗と真言宗は鎮護国家のため平安時代に中国から請来された仏教で、天台宗総本山延暦寺では「御修法大法(みしほたいほう)」を、真言宗では真言宗十八本山の山主らが教王護国寺(東寺)「御七日御修法(ごしちにちみしほ)」[27]を修する。この「御修法(みしほ)」とは、ともに天皇陛下の御衣(ぎょえ/ぎょい)を奉安して玉体(天皇陛下の体)安穏、天下泰平などを祈願する法儀である。真言宗の祈禱について永村眞・日本女子大学名誉教授は、日本密教学会で「鎮護国家とは国家ではなく天皇を護ること」と発表した[28]

真言宗御室派総本山仁和寺や浄土宗総本山知恩院などは、出家した皇族男子を門跡(住職)とする寺院「宮門跡(みやもんぜき)」で、真言宗泉涌寺派総本山御寺(みてら)泉涌寺は歴代天皇の菩提寺である。また、臨済宗妙心寺派大本山妙心寺は第95代天皇・花園法皇によって創建された。

主な伝統仏教各宗の開祖は、天皇から諡号(しごう=死後の贈り名)を賜っている。下表記載の開祖のほか、曹洞宗の開祖・道元は承陽大師の、浄土真宗の宗祖・親鸞は見真大師の諡号をともに明治天皇から贈られている。

また、皇室と血縁関係がある宗派もある。浄土真宗本願寺派の前門・大谷光真の父である先々代門主・大谷光照の母は貞明皇后(大正天皇の皇后)の妹で昭和天皇の従兄弟に当たる。また、真宗大谷派の先代門首・大谷暢裕の母は、香淳皇后(昭和天皇の皇后)の妹で上皇の従兄弟に当たる。

ただし、浄土真宗本願寺派では宗内に批判の声もあった。高岡教区と備後教区は大嘗祭を経て新天皇が“神”になるという神道儀式への公費支出を疑問視し、高岡教区は教団の戦争協力への反省という観点から大嘗祭への宗派見解を求め、福岡教区も大嘗祭などへの反対声明を具申した[29]。だが宗派としては見解表明に慎重で、『宗報』(201910月号)に「即位の礼」「大嘗祭」についての<学習資料>を掲載するに留めた。学習資料には、戦争協力した過去をもつ宗門として「国家と特定の宗教が結びつくことの危うさに対して冷静な視点を持つことが大切」と記しつつも、資料作成の意図は「宗門内にもそれぞれの意見や立場があり、それぞれの学びを深めてもらうため」であるとして、中立的な立場を維持している。平成の代替わり時には、見解発表には至らなかったものの「神道儀礼の国家行事化を深く憂慮する」とする見解案をまとめた[30]のと比べると、批判姿勢は後退した。

この傾向は真宗大谷派でも同じだった。平成の代替わりの際には、大嘗祭や元号使用を問題視する声が宗内にあったが[31]、今回は目立った動きはなかった。やはり、戦争の記憶が風化していることが大きいのであろう。

 

主な仏教寺院などの天皇奉祝関連の法要などと天皇との関わり 

※( )内は実施日。記載がない場合は2019年、◎は補足説明

天台宗

総本山延暦寺

・天皇陛下即位奉祝臨時「御修法」(4.285.1

・天皇陛下御即位奉祝法要(11.5

 法要前に出仕者らが桓武天皇陵(京都市)を参拝

御衣を奉安して玉体安穏と鎮護国家を祈る「御修法大法」を毎年実施。

高野山真言宗

総本山金剛峯寺

・即位慶祝「大元大法(だいげんのだいほう)」(2020.11.2330

真言宗醍醐派総本山醍醐寺の理性院に伝わる「太元帥御修法」を2019年に醍醐寺座主が史上初めて真言宗他派にも伝授した。大元大法(太元帥御修法)の金剛峯寺での厳修は1943年以来、77年ぶり。御衣の下賜がなかったため「御修法」の呼称を使わなかった。

真言宗醍醐派総本山醍醐寺

・皇太子殿下御即位御祈願法要(5.1

・「太元帥御修法」(2022.10.39

◎玉体安穏のため「太元帥御修法」を天皇即位の際には宮中などで修してきたが、昭和天皇即位時は真言宗各本山管長総出仕で東寺教王護国寺灌頂院にて、平成の即位の際には敵国降伏祈願などに用いられたことへの世情を考慮して醍醐寺理性院にて奉修し、令和の今回は醍醐寺三宝院にて厳修。

真言宗大覚寺派大覚寺

・天皇陛下御即位奉祝「宝祚無窮祈願法会」(10.1

真言宗智山派大本山成田山新勝寺

・奉祝朝護摩供・奉祝大護摩供(5.131)、大般若転読付奉祝大護摩供(5.15)、奉祝平和大塔大法会(5.67)奉祝大般若会(5.8

 

真言宗御室派総本山仁和寺

・天皇即位慶祝法要(5.1

・天皇即位奉祝法要(10.22

真言宗泉涌寺派総本山泉涌寺

・剣璽等承継の儀と令和改元を記念する真儀楞厳(りょうごん)大会(5.1

・今上陛下の御即位慶祝法要(10.29

・(今上)天皇皇后両陛下は泉涌寺にある孝明天皇陵で「即位の礼」と大嘗祭の終了を報告する「親謁の儀」に臨んだ(11.27

浄土宗

大本山知恩院

・今上天皇御即位慶祝法要(10.22

 

日蓮宗

・新元号奉祝文を発表(5.1

1922年、大正天皇が開祖・日蓮に「立正大師」の諡号。

創価学会

・5月2日『聖教新聞』に天皇陛下の即位を喜ぶ会長「謹話」を掲載

 

(2)   ローマ教皇フランシスコの来日                                                             

 ローマ教皇フランシスコがアジア歴訪の一環で1123日から26日まで来日した。ローマ教皇の来日は、1981年のヨハネ・パウロ2世以来、38年ぶり2回目。

政府は来日前の1120日に、呼称を「法王」から「教皇」に変更すると発表した。バチカンと国交を樹立した1942年当時は、「法王」という呼称が定訳で、バチカン側も「ローマ法王庁大使館」として申請した。だが1981年2月にヨハネ・パウロ2世が来日したときにカトリック中央協議会は、職務をより忠実に表す「教皇」という呼称の使用を決定。以来、「法王」と「教皇」の呼称が混在していたが、これで「教皇」に統一された。

教皇は被爆地2カ所を訪れ、核兵器廃絶を訴えた。24日午前に長崎爆心地公園で「核兵器のない世界は実現可能で、必要であると確信している」[32]、夜には広島平和祈念公園で「原子力の戦争目的の使用は、倫理に反します。これについて、私たちは神の裁きを受けることになります」[33]と演説した。翌25日には、東京における東日本大震災被災者との集いで「原子力の継続的な使用に対する懸念」を示した[34]

同日夕方に東京ドームで行われたミサには約5万人の信徒が参加。ミサには、一家4人が殺害された「袴田事件」の犯人として1966年に逮捕され、1980年に死刑が確定したが2014年に再審開始が決定し、48年ぶりに釈放された袴田巌さんが招待された。袴田さんは1984年に東京拘置所で洗礼を受けていた。教皇フランシスコは、2018年にカトリックの教理を死刑容認から死刑廃止に変更しており、死刑廃止のアピールとも受け取られた。

一方で、聖職者による性的虐待の被害者との面会はなかった。2019年2月発売の『文藝春秋』(3月号)で、1960年代にカトリック系児童養護施設「東京サレジオ学園」で神父による性的虐待を受けたと実名で告発した竹中勝美さんは、23日に羽田空港で「日本にも神父による性的虐待の被害者がいる」とメッセージを掲げて教皇への直訴を試みた[35]。だが、教皇との面会は叶わなかった。竹中さんは2001年に東京サレジオ学園、サレジオ修道会、カトリック中央協議会に文書で自身の被害を訴え、性的虐待の調査と再発防止策を求めたが真摯な対応はされず、ようやく2019年4月の「4・7緊急集会 カトリック神父の子どもへの性虐待!日本でも」(主催:施設内虐待を許さない会)で、日本カトリック司教協議会会長の高見三明大司教から実態解明を行うと伝えられていた[36]

日本カトリック司教協議会は2002年と12年に各地の司教を対象にアンケートを実施し、信徒からの被害申告を5件確認していたが、関係者の処分は行わなかった[37]2019年5月以降に行われた聖職者による未成年者への性的虐待の調査結果は2020年3月に公表された[38]1950年代~2010年代に計16件の訴えがあり、加害を認めた件数が4件、否認が5件、不明が7件。否認5件のうち1件は第三者による調査、1件は教会裁判が実施された。また、加害聖職者は、聖職停止が2件、退会が1件、異動(国内外)が8件、ほか5件が不明で、適切な処分がなされなかったケースが多くみられた。

なお海外の出来事ではあるが、2019年3月にはニューヨーク・タイムズ紙の問い合わせにカトリック教会が、独身を誓ったはずの神父が子供をもうけた場合の対応についてのガイドライン(「隠し子マニュアル」)が内部文書として存在すると回答した。この問題には根深いものがあるようだ。

 

(3)時代と宗教                                                                                          

 このほか、2019年の出来事を簡潔に振り返る。

①御朱印ブーム

寺社参拝の証である「御朱印」集めが約10年前から流行し、寺社も凝った意匠や期間限定の御朱印を発行するようになっていたが、改元が収集熱に拍車をかけた。改元初日の5月1日、東京の明治神宮では最大6時間待ちの行列ができた。寺社に写経を納めた証として受け取る本来の主旨をわきまえない人が散見された。東京の浅草神社では、平成と令和の新旧の元号が入った御朱印を数量限定で配布したところ、入手できなかった人が神職らに罵声を浴びせた[39]。他の寺社でも、参拝せずに御朱印の郵送を求める人や、300円~500円で受け取った御朱印をネットで10万円以上もの高値で転売する人も現れた[40]

寺社への敬意が薄れたように見えるが、(公財)庭野平和財団が1999年~2019年に5年ごとに4回行った調査では、この20年間で宗教的行為や宗教団体との関わりは薄れつつあるのに、神道(神社)と仏教(寺院)への信頼度は継続的に高くなり、特に神道への信頼度は20年前から約23ポイント増加した。國學院大學の石井研士教授は、「2013年に伊勢神宮の式年遷宮と出雲大社の大遷宮が重なったことや、パワースポットブームや御朱印ブームが背景にある」と分析した[41]。御朱印に関するマナーについては、寺社からの情報発信で改善を図るしかないのだろう。

②「除夜の鐘」の騒音問題

「御朱印」は“スタンプラリー”に、「除夜の鐘」は“深夜の騒音”になってしまった。「除夜の鐘」への苦情についての報道は、2016年ごろから増えてきた。そして、「除夜の鐘」を中止する寺院や、鐘撞きを日中に変更する寺院が出てきた。日中に行うと、子供や高齢者が来やすくなる利点がある[42]。騒音問題は、寺院との絆が弱まったことも一因であろう。親しい人が立てる音は気にならないが、見知らぬ他人の騒音には耐えられない。煩悩を消して新年を迎える意義を保っていれば、時代に即した変更はやむを得ないだろう。

③僧衣での運転

僧侶が2018年9月に「僧衣を着て運転していた」として、福井県警に交通反則切符を切られていたことが『読売新聞』(20181229日)に報じられた。僧衣が県の道路交通法施行細則にある「運転操作に支障を及ぼすおそれのある衣服」と判断されたためである。この僧侶は、公共機関が少ない地元で法事に行けなくなるとして、反則金6000円の支払いを拒否した。宗派も「僧侶の活動に関わる問題で、受け入れがたい」[43]と反発した。

この問題が2019年初めに各紙で報じられると、全国の各宗派の僧侶が僧衣で縄跳びやジャグリングなどをする動画を「#僧衣でできるもん」というハッシュタグ(検索目印)をつけてtwitterなど会員制交流サイトに投稿して話題となった。

運転時の服装規定は福井県を含め15[44]にあったが、福井県警は1月26日に「証拠の確保が不十分で違反事実が確認できなかった」[45]として書類送検しない方針を明らかにし、3月7日には県道路交通法施行細則の服装規定の削除を発表した(4月4日施行)。この後、各都道府県で服装規定の見直しが進んだ。一方、浄土真宗本願寺派福井教区では、運転時には作務衣の着用や、たすき掛けをするなどの方策を取るようになった[46]。僧侶たちの結束した動きが規定の見直しにつながったが、安全運転についての議論は僧侶全体としては深まらなかったのが残念である。

④布施のキャッシュレス化問題

日本のキャッシュレス決済の比率は2019年で26.8[47]と、韓国(94.7%*2018年、以下同)[48]、英国(57.0%)、米国(47.0%)など諸外国に比べて低い。だが、政府が推進を図っている。そこで京都仏教会が「布施の原点に還る」と題する布施のキャッシュレス決済に反対する声明を6月28日に発表した。理由として、①信者の個人情報および宗教的活動が第三者に把握される、②信者及び寺院の行動が外部に知られ宗教統制、宗教弾圧に利用される、③手数料が発生し、収益事業として宗教課税をまねく、など「信教の自由」が侵害される危惧が挙げられた。

宗教法人が行う宗教活動(法要・拝観・葬儀など)は非課税だが、収益事業(一般の物品販売や不動産業など)には課税される。キャッシュレス決済を行うと、信者がキャッシュレス事業者(営利企業)に布施の全額を支払い、事業者から手数料を引いた額が数カ月後に寺院の口座に振り込まれることになる。布施が営利企業の利益となるため「宗教活動ではない」とされかねない。ただし、布施の決済の可否は事業者でも異なり、金額が不明確な布施の扱いは不可とするLINEペイなどや、法要など役務の伴う布施は可だが賽銭は不可とするPayPayなどがある[49]

とはいえ、キャッシュレス決済は混雑緩和、外国人観光客への対応、檀信徒が高額な葬儀代を払いやすくなる、などの利点もあり、導入する寺社が増えている。高野山真言宗総本山金剛峯寺は外国人観光客への対応のため東京五輪前の2017年3月にクレジット決済を導入[50]。(真宗大谷派は20201012日に真宗本廟と大谷祖廟で賽銭にスマホ決済とクレジット決済を、10月下旬には読経や納骨の際の懇志(志納金)にクレジット決済を導入した。多額の現金持参を嫌がる門徒への対応が主眼であった[51]。)

京都仏教会には京都府内の約1000の寺院が加盟する。京都市が1985年に導入した古都税(拝観料への課税)の支払いを拒否して拝観停止などを行い、1988年に廃止に追い込んだことでも知られる。そのためか、声明に「現金」への執着を感じた人も少なくない[52]。「布施の原点に還る」のならば、布施は食物など現物でよいのではないか。現物のほうが、外部に宗教活動を把握される危険がより少ないだろう。国家介入を恐れるならば、「宗教者としての原点」に還って、国家が宗教を管理するような事態にならないように信者を増やしていくのが先ではないだろうか。

このあと2020年に入ると、新型コロナウイルスの蔓延でキャッシュレスがさらに推奨されていく。この問題では、古都税のときのようには宗教界側の足並みは揃っていない。京都仏教会の主張が通るのは難しそうである。

⑤外国人僧侶の育成

民間研究機関「日本創成会議」は2014年に、人口減少のため2040年には全国896の市区町村に消滅可能性があると発表した。これに基づいて天台宗が推計したところ、同宗派の295カ寺(10.3%)が「消滅可能性が高い都市」にあり、「消滅可能性都市」にある寺院は747カ寺(261%)で、計1042カ寺(36.44%)が人口減少により危機に瀕することがわかった[53]

また、神社本庁が2016年に全国の神社を調査した結果、6割で年間収入が300万円未満だった。地方を中心に人口減少により氏子が減少し、廃祀が進んでいる[54]

日本では少子高齢化が進み、信者を増やすには外国人への布教が欠かせない。奈良県の法相宗大本山興福寺では、ドイツ出身の僧侶・ザイレ暁映(ぎょうえい)が、一人前の僧侶となるための登竜門である口頭試問「竪義(りゅうぎ)」に1113日に合格した。法相宗の僧侶が一生に1度しか受験できない難関で竪義の実施は8年ぶり、外国人の合格は異例という。仏教研究者として来日し、2011年に興福寺で得度して僧侶となっていた[55]

日蓮宗は、日本語が話せなくても教師(僧侶)資格を得られる教育制度を整備した。教師になるには、得度して「度牒(得度の札)交付」を受け、「改名(襲名)」「僧道林(4泊5日の研修)」「検定試験(教学)」「信行道場入場考査」(順不同)を終えたあと、久遠寺(山梨県身延町)での「信行道場(35日間)」を修了しなければならない。外国人が僧侶になるには、英訳教本が少ないうえ5回は来日する必要があり、負担が大きかった。そこで教学テキストや講義映像も英語版を揃え、「僧道林」「検定試験」「入場考査」を海外でも開催するようにした[56]

7月に初めて海外(米国カリフォルニア州の日蓮宗国際センター)で「僧道林」を開催し、12月には初めて英語で検定試験を実施した。僧道林には米・英・ブラジル・インドネシアから8人が参加し、うち5人が検定試験を受験した。2020年には日本語が話せない教師が初めて誕生するはずだったが、新型コロナウイルス禍で2020年度の信行道場が中止され、実現しなかった[57]

⑥僧侶たちのヘイトスピーチ 

「ヘイトスピーチ解消法」(2016年6月施行)に罰則規定はないが、川崎市は50万円以下の罰金を科す条例を201912月に施行するなど、差別発言への意識は高まっている。そのような中で高野山真言宗総本山金剛峯寺が、同寺の僧侶がツイッターで韓国人への差別発言をしていたとして、1月30日に宗務総長名で謝罪を発表した[58]。9月6日には、臨済宗妙心寺派が、同派僧侶がツイッターで在日韓国人・朝鮮人への差別発言を繰り返していたとして、宗務総長名で謝罪をした[59]。宗門僧侶のヘイトスピーチに対する宗務総長名での謝罪は、時宗も2018年6月27日に行っている[60]。時宗の僧侶もツイッターへの投稿が問題視された。匿名の投稿であっても、ネット住民は実名を調べ上げる。「『仏教界の不祥事=笑えるネタ』扱いにされている」[61]のであって「僧侶は常に『見られている』」[62]。「寺院や僧侶の行いへの社会の関心は思いのほか大きい」[63]ためでもあろう。

⑦浄土宗でのペット往生議論

 浄土宗では、2016年の定期宗議会で「ペットも極楽往生するのか」という質問が出てから、ペットの往生について議論を重ねてきた。この背景には、ペット供養を頼まれ、ペットの死後を聞かれる機会が増えたことがある。だが、宗内の意見は二分された。 

浄土宗学研究所・安達俊英嘱託研究員は、「浄土宗の開祖・法然上人は、畜生(動物=ペット)はそのままでは往生できないと説いた」と述べる。だからペットには「次こそ人間に生まれて、ともに念仏を称えて往生できるように」と回向(供養)するのが大切という[64]。これに対して林田康順・大正大学教授は、ペットでも人々が念仏回向すれば往生できると主張する。法然上人は、念仏回向すれば三悪道(地獄・餓鬼・畜生)にあっても解脱する、つまり往生できると説いているという[65]

 両者を招いて2019年2月19日に浄土宗の教学院が大本山増上寺で開いた公開講座には、僧侶ら約230人が参加して、関心の高さをうかがわせた。ペットの極楽往生に肯定的な意見をもつ僧侶は関東圏に、否定的な意見をもつ僧侶は関西圏に多いという[66]

会場からの「人間とペットが同じ墓に入ってよいのか」という質問に、安達研究員も林田教授も「問題ない」と答えた[67]。だが、これは浄土宗の統一見解ではない。浄土宗は、NHKニュース「おはよう日本」(7月8日放送)が浄土宗総合研究所研究員の映像とともにペットと人間の遺骨をいっしょに埋葬することを浄土宗が肯定しているようなテロップを流したことについて、翌9日に「浄土宗の公式見解ではない」と発表した[68]。地域のニーズや習慣を考慮して検討する必要があるなどとして、今後も議論を続けるという[69]

 なお、ペットの往生・成仏について『仏教タイムス』が2016年に各教団に見解を求めたところ、真言宗智山派の智山伝法院は畜生趣も大日如来であるから「ペットの成仏は可能」、臨済宗妙心寺派は「ペットは坐禅などの修行を積むことができないため自力救済は難しい」、浄土真宗本願寺派の総合研究所は阿弥陀仏の願いから「ペットが除外される理由はない」、真宗大谷派も同様に「ペットも浄土に往生できる」と回答が分かれた[70]

⑧AI兵器への懸念とAIを活用したアンドロイド観音

 創価学会インタナショナル(SGI)池田大作会長の名前で2019年の「SGIの日(1月26日)」に発表された提言では、AI兵器と呼ばれる「自律型致死兵器システム(LAWS)」を全面禁止する条約の制定などが提案された[71]。8月22日には、国連のLAWSに関する政府専門家会合で、AI兵器の運用には国際人道法を順守するなどの指針を含む報告書が全会一致で採択されたが、ロシアや米国の反発を受けて法的拘束力をもつ条約による規制は明記されなかった[72]

 一方でAIを宗教に活用する試みも現れた。2月23日、京都の高台寺で、世界で初めて完成したアンドロイド(人間型ロボット)の観音菩薩像が披露され、約25分間の説法を行った。顔や手はシリコン製で、他は機械のままだが、左目に内蔵したカメラで聴衆と目を合わせることができる。人工音声の日本語で話し、外国人にも対応できるようにプロジェクションマッピングで英語と中国語の字幕を投影する。3月8日から5月6日までの約2カ月間に約6千人が訪れた。同寺が実施したアンケートでは、大半は肯定的な意見だった[73]

 8月9日には、東京の渋谷で“AIが神になった世界”をテーマにしたアートフェスティバル「KaMing SINGULARITY(カミング シンギュラリティ)」が開催された。AIが人間の知能を超える特異点(シンギュラリティ)とされる2045年の世界が展示された。

 1221日には、京都文教大で「ロボットは宗教を持つのか」というシンポジウムが開かれ、宗教学者・山折哲雄氏の「人間は死ぬから宗教が存在する」という発言に、AI・ロボット研究の第一人者である石黒浩・大阪大学大学院教授が「機械にも死はある」ので一種の宗教が必要となるのでは、と応じた[74]

 日本人はロボットに肯定的だが西洋人は否定的であるとみて、中国の『澎湃新聞』(2020年2月20日)が背景を考察している。日本には「万物は魂を宿している」という考え方があり、ロボットも万物の一員なので抵抗がないが、西洋では機械が人類に似すぎると「神の領域に入る」ことで危険なこととみなすようだという[75]2019年4月11日に米国南部バプテスト連盟・倫理宗教自由委員会が出した「人工知能についての声明」をみても、AIへの警戒がうかがえる。「AIは命の創造者としての神に代わるものではない。(略)AIが人間に等しい価値、尊厳、神の似姿になることを認めない。(略)神は全知であり、人間が造ったものは、神の贖いの計画を妨げることはできない。神の似姿としての人間にとって代わることもない」[76]

 スピリチュアルなワークを行っているトム・ケニオンとジュディ・シオン夫妻がチャネリング(異星の存在などと交信すること)をして得た情報では、人間(人類・地球人)は科学的実験の産物である。超銀河文明においてアヌンナキという異星人が、彼らの大気環境を改善させるために金を求めて地球に来た。そしてアフリカの金鉱採掘をする奴隷として、エフェメラルという高い波動の存在が入り込んだ地球上霊長類のDNAと、自らのDNAを交配してホモ・サピエンスと呼ばれる現生人類を誕生させたという[77]。この説を受け入れるならば、人間がAIを用いて奴隷のようなロボットを作ることや、DNA操作をして意のままに存在を創り上げることは、歴史の繰り返しで当たり前のことなのかもしれない。

 

 


[1] 『産経新聞』2019年6月7日

[2] 『毎日新聞』20191022

[3] 『朝日新聞』20191021

[4] 「饗宴の儀」は1025日に2回目、29日に3回目、31日に4回目の計4回行われた。

[5] 島薗進・上智大学特任教授「天照大神を祀る伊勢神宮に特別な国家的地位を与えることにもつながりかねない」『東京新聞』2019年5月2日

[6] 「憲法学者の横田耕一・九大名誉教授は『神話に根ざした高御座や三種の神器の剣璽は、天皇が神の子孫だという正統性を示すもので、天皇の地位は国民の総意に基づく定めた憲法1条に反する。天皇が国民の上位にあるような立ち位置も、国民主権原則に反する』と批判している」『朝日新聞』2019年9月19

[7] 「いちからわかる! 『即位礼正殿の儀』どんな行事なの?」「即位礼正殿の儀では内閣総理大臣らが天皇陛下を見上げる形で万歳三唱をするため、国民主権を定めた日本国憲法に反するという批判もある。」『朝日新聞』20191021

「憲法学者の横田耕一・九大名誉教授は『神話に根ざした高御座や三種の神器の剣璽は、天皇が神の子孫だという正統性を示すもので、天皇の地位は国民の総意に基づく定めた憲法1条に反する。天皇が国民の上位にあるような立ち位置も、国民主権原則に反する』と批判している」『朝日新聞』2019」年9月19

[8] 『東京新聞』2021年7月15

[9] 裁判所「住民訴訟請求事件」最高裁判所第一小法廷平成14年7月11https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/273/052273_hanrei.pdf

[10] 『朝日新聞』1995年3月9日夕刊

[11] 裁判所「即位の礼・大嘗祭国費支出差止等請求控訴事件」大阪高等裁判所平成739https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=16367

[12] 河西秀哉・名古屋大准教授の発言『朝日新聞』20181130

[13] 日本キリスト教会東京告白教会が東京都で2019年2月5日に主催した講演会での笹川紀勝・国際基督教大学名誉教授の発言『キリスト新聞』2019年2月11

[14] 『週刊新潮』2019年1月3・10

[15] 「即位・大嘗祭違憲訴訟の会NEWS05号」20191220日発行

http://sokudai.zhizhi.net/?paged=3

[17] 『朝日新聞』1990年6月9日、『中外日報』20191122

[18] 即位・大嘗祭違憲訴訟の会「即位・大嘗祭違憲訴訟の会NEWS02号」2019年3月29日発行

[19] 「皇位継承のかたち(中) 伝統尊重 女性皇族参列せず」『読売新聞』2019年3月1日における河西秀哉・名古屋大准教授の発言、「皇位継承のかたち 代替わり考7 女性天皇論議を封印か」『東京新聞』2019年1月14日における高森明勅の発言など。

[20] 日本カトリック司教協議会「天皇の退位と即位に際しての政教分離に関する要望書」2018 222

[21] 日本基督教団「天皇の退位および即位の諸行事に関する声明」2018年7月9日

[22] 日本キリスト改革派教会「天皇『代替わり』の諸行事に関して政教分離と国民主権の原則を厳守するよう求める声明」20181010日ほか「即位礼正殿の儀への抗議並びに大嘗祭に国費を使用することに対する反対声明」201910月など。

[23] 日本聖公会主教会正義と平和委員会「天皇の退位と即位に関する声明」「大嘗祭への国の関与は政教分離の原則に反します」2019年2月21

[24] 日本福音ルーテル教会常議員会「天皇代替わり儀式に関する抗議と要望」201910月4日

[25] 日本キリスト教会大会議長「『天皇の代替わり』儀式への抗議声明」20191017

[26] 日本バプテスト連盟第65回定期総会「天皇代替わりに際しての私たちの信仰表明」20191114

[27] 開祖・空海が勅許を得て835年に始めた。宮中の真言院のちに紫宸殿で営まれてきたが、現在は東寺で毎年、1月8日から7日間にわたって営む。

[28] 日本密教学会(201811月9日)における発表『仏教タイムス』20181129

[29] 『文化時報』2019年7月27日、『中外日報』2019年7月26

[30] 『朝日新聞』1990年5月24

[31] 『中外日報』2019年8月9日、『朝日新聞』1990年1月28日、同6月7日、『赤旗』1990年5月17日、『毎日新聞』大阪版19901120日夕刊

[32] 『読売新聞』20191125

[33] 『東京新聞』20191126

[34] 『毎日新聞』20191126

[35] 『毎日新聞』201912月7日夕刊

[36] 『カトリック新聞』2019年4月14

[37] 『日本経済新聞』2019年4月9日

[38] 『カトリック新聞』2020年4月5日

[39] 『朝日新聞』2019年5月21

[40] 『産経新聞』大阪版夕刊2019年5月16

[41] 『朝日新聞』京都版201910月3日

[42] 『日本経済新聞』20181227日夕刊、群馬県桐生市宝徳寺の例など。

[43] 『読売新聞』20181229

[44] 青森、秋田、岩手、山形、宮城、福島、群馬、茨城、栃木、福井、静岡、愛知、滋賀、三重、岡山(『朝日新聞』2019年1月29日)

[45] 『朝日新聞』2019年1月29

[46] 『文化時報』2019年3月6日

[47] 経済産業省 商務・サービスグループキャッシュレス推進室「中間整理を踏まえ、令和3年度検討会で議論いただきたい点」2021年8月27

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/cashless_payment/pdf/2021_001_04_00.pdf

[48] 同上。

[49] 『月刊住職』2019年8月号

[50] 『読売新聞』和歌山県版2017年3月15

[51] 『中外日報』2020年6月5日、20201014

[52] 松本紹圭「お布施とキャッシュレス社会を考える」2019717https://note.com/shoukei/n/n1e0454b87813

[53] 新保祐光・村上興匡「都道府県別人口推計からみた天台宗寺院への影響過疎地寺院問題」『中外日報』201912月4日

[54] 『東京新聞』2019年2月5日夕刊

[55] 『朝日新聞』20191114

[56] 『中外日報』2019年9月6日、『仏教タイムス』2020年1月1日

[57] 『中外日報』2020年6月19

[58]高野山真言宗宗務総長添田隆昭「高野山真言宗僧侶によるヘイトスピーチに関するお詫び」 2019年1月30https://www.koyasan.or.jp/news/2019/01/30/4513/

[59] 「臨済宗妙心寺派僧侶のネット上における差別発言のお詫び」2019年9月6日※2022年6月現在は表示されないhttps://www.myoshinji.or.jp/hp/statement

[60] 時宗宗務総長桑原弘善「インターネット上における差別発言に対するお詫び」2018年6月27http://www.jishu.or.jp/wp/wp-content/uploads/2018/06/dba06ca5f1c39d15cf4ec0b18040f640.pdf 

[61]鵜飼秀徳 「令和の仏教を歩く4 2019年の僧侶の事件 「世界が笑うネタに」自覚を」『中外日報』20191218

[62]鵜飼秀徳 「令和の仏教を歩く4 2019年の僧侶の事件 「世界が笑うネタに」自覚を」『中外日報』20191218

[63] 『月刊住職』2019年3月号

[64] 『中外日報』20171011日、『朝日新聞』2019年4月5日

[65] 『中外日報』20171011

[66] 『中外日報』2019年2月27

[67] 『朝日新聞』2019年4月5日

[68] 『文化時報』2019年7月20

[69] 『中外日報』2019年9月25

[70] 『仏教タイムス』20161027

[71] 池田大作「第44回『SGIの日』記念提言 「平和と軍縮の新しき世紀を」『聖教新聞』2019年1月2627

[72] 『朝日新聞』2019年8月23

[73] 『京都新聞』2019年6月11

[74] 『中外日報』2020年1月3日

[75] Searchina2020年2月23日 http://news.searchina.net/id/1687080?page=1 ※2022年6月19日閲覧

[76] 『クリスチャン新聞』2019年6月16日南部バプテスト連盟の倫理宗教自由委員会の「人工知能についての声明」を武川公氏が訳・要約したもの。

[77] トム・ケニオン&ジュディ・シオン著、紫上はとる訳『アルクトゥルス人より地球人へ』ナチュラルスピリット201611