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活動報告

2015/05/24

国際学術文化交流セミナーが開催されました

 2015年5月19日午後、東京広尾にある別院で、戦後日本の死者祭祀、特に戦死者の慰霊とその意味を考える国際セミナーが開催されました。講師としてお話くださったのは、西村明先生(東京大学・宗教学)。参加者は、米国のエモリー大学オックスフォード校の日米学術文化交流プログラムに参加した学生たち9名と、コーディネーターのジル・アダムス先生、マーガレット・マクギヒー先生、南カリフォルニア大学より東大大学院(宗教学)に留学中のビクトリア・モントローズさんでした。

 この学術文化交流プログラムのテーマは、「平和の探求:戦後日本における平和と正義の実現」。参加者らは、5月12日~26日の期間に、東京、大阪、広島、沖縄をめぐり、戦争体験者の話を聴き、平和をテーマとした美術館・博物館を訪問し、また主な神社仏閣の見学を行ないます。東京での交流プログラムの一つとして、現代日本における追悼・慰霊文化を学ぶ機会を持ちました。

 セミナーでは、はじめに、葛西賢太・宗教情報センター研究員から、現代の追悼・慰霊における「灯籠流し」の位置づけや意味についての導入のお話がありました。葛西研究員は、日本仏教思想研究の末木文美士の「死者と生者の共同性」という概念を紹介しながら、祖先供養や法要をともなう現代仏教が、死者や子孫を感じながら生きることの大切さを説き、それを実践していると考えられると述べました。

 続いて西村先生は、長崎の被爆者の追悼・慰霊をケーススタディとして取りあげ、自治体おける追悼・慰霊式典が、神道式の式典から、被爆犠牲者を慰霊し平和を祈る式典へと変遷する様子を整理・紹介しました。また、戦争や災害における多数の死者たちをどのように追悼・慰霊してきたかをめぐり、無名戦士の墓苑や無縁化した死者のための慰霊施設の意味を掘り下げました。そして、死者の霊への供養とそれらとの和解を通し、生者には生きることの意味が喚起される、と結論を述べました。

 講演に続き、参加者全員でのディスカッションも行なわれました。参加学生からは、祖霊との関わりを大切にする祖先崇拝と仏教や神道の追悼・慰霊との関係についての問いかけや、追悼・慰霊の歴史的変遷が興味深いなどの意見も出ました。3時間の交流プログラムは、充実のうちに終了となりました。