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CIRの活動

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活動報告

宗教情報センターの研究員による、講義や講演、論文、書籍刊行などの活動を報告します。
講義・講演・講座などの配付資料、論文などのダウンロードもあります。

CIRの活動最新記事

2024/02/18

立川文化セミナー第一回「宗教を考えるための第一歩」を実施

 2月18日、立川商工会議所の会議室で、藤井健志東京学芸大学名誉教授を講師に立川文化セミナー第一回「宗教を考えるための第一歩」を実施しました。当日は約80名の聴講者が来場し、時折笑いが起きる和やかな雰囲気の中、熱心に講演を聞きました。
 講演でははじめに藤井氏が宗教学を研究してきた自身の経歴を説明し、宗教や宗教を信仰している人に敬意をもっているという話をされるとともに、氏が尊敬する歴史学者・安丸良夫氏の「宗教がなければ死ななくてもよかった人が世界に何百万人もいる。だからこそ私たちは宗教のメカニズムを研究しなければならない」という言葉を引用し、宗教を研究することの大切さを強調されました。同時に「宗教はない方がよいという考えには賛同はできない。宗教から生きる意味や幸せを得ている人が多くいて、その人たちを無視したり、軽蔑したり宗教を放棄させる権利はないと考える」という話もされました。
 次に、メッカに大巡礼で行くイスラム教徒(約200万人)より、初詣や墓参りに行く日本人(6000~7000万人)の方が多いにもかかわらず、自分たちが宗教に無関係、無関心だと考えるのはなぜか、という問題を提起され、多くの日本人が初詣も墓参りも宗教的な行為だと感じていない、というところが大事なポイントであると指摘されました。一方で、子どもの初参りは神社、結婚式はキリスト教、葬式は仏教という日本人が多いとよく指摘されるが、結婚式は仏教、葬式は神道といった組み合わせを選ぶ日本人はいないので、そこには宗教の使い分けのルールが隠されていると考えた方がよいということでした。
 続いて、言葉を使って考えるということは、サングラスをかけて世界を見るようなものであり、言葉があらかじめもっているイメージを前提として世界を見てしまうという話がありました。「宗教」という日本語にも一定のイメージがあって私たちの考えを誘導しているが、それを知ることで宗教のとらえ方を相対化できると述べられました。そして日本語の「宗教」という言葉には怖いものというイメージが付きまとっているが、その言葉には伝統的な寺院や神社が含まれておらず、積極的に勧誘活動をする「宗教団体」を指していることが多いと指摘されました。それは、「宗教」という言葉が明治初期に「religion」の翻訳語として定着したことから、それまで馴染みのあった寺院や神社が「宗教」という新しい日本語のイメージに含まれにくく、初詣や墓参りが「宗教」とは感じられないのもこのためだということでした。
 その他、平安時代末期より仏教式の葬式が定着し、仏教が人の死を連想させるものとなったために、おめでたい場には仏教を持ち込んではならないという隠れたルールが作り出されたことや、江戸時代に檀家制度がはじまり、仏教寺院が戸籍を管理する役所のような機能をもつものとなって地域社会と結び付いたために、そこから離れて新しい宗教団体に入ることが困難となり、キリスト教が広がらなかったことなど、今日の日本人の宗教意識につながる歴史的背景についての話がありました。
 次回、第二回を2025年2月に開催する予定です。