文字サイズ: 標準

CIRの活動

バックナンバー

活動報告

2015/02/04

世界の諸宗教に出会う 第14回講演会 報告

世界の諸宗教に出会う 第14回講演会  2015年1月11日(日)
講題:聖なる自然 —アンデスの宗教と文化—
講師:実松克義 先生 (立教大学名誉教授)
 
 2015年、新年の賑わいの中、世界の宗教文化を知り、多様な生き方を学ぶ「世界の諸宗教に出会う」講演会が、東京の寺院・応現院で開催されました。講師は、マヤ、アンデスの文明から現在の南米のシャーマニズムの伝統まで広く研究なさっている、人類学者の実松克義先生。 現地調査での写真や貴重な資料も示しつつ、 アンデスの生活とそこにみられる世界観、宗教の営みを紹介・解説くださいました。
 
 南米は地理的には日本から遠いけれども、ペルー、ボリビア、ブラジルなどは多くの日本人が移民として渡った地域です。そのペルーとボリビアにまたがる中央アンデス(アンデス山脈)では、「ヤティリ」、「アマウタ」と呼ばれるシャーマン(民間の宗教的職能者)が、精神生活を支えるだけでなく、治療者として、人々の健康を維持する役割も担ってきたといいます。その他、農業の指導や共同体の守護、雨乞いの儀式なども、シャーマンの仕事と役割です。
 
 シャーマンが活動する社会の基盤・背景には、自然に対する信仰があります。特に大地母神「パチャママ」、そして高山に宿る山の神「アチャチーラ」「アウィーチャ」などへの信仰は篤く、人間はその子孫だと考えられているとのことです。個々人の日常の健康祈願から、農作物の収穫への感謝、そして雨乞いまで、アンデスの自然観、世界観は、この地域の宗教文化の基盤となっています。儀礼で人々は、神々の食糧となる「メサ」と呼ばれる供物を準備し、感謝と祈願を行なうのですが、ここにアンデスの宗教の根本理念があります。実松先生は、「人間は神々の恩恵を受けて生きている。したがって神々に支払わなければならない。メサは象徴としての支払いである」と述べられ、ここに人間と自然との相互依存関係がありそれが「スピリチュアル・エコロジー」と言ってよい智慧として結実していると締めくくりました。
 
 「聖なる自然」としての山、大地といった観念は、日本の「里山の思想」に通じるもの。農ある暮らしに根ざした精神性(スピリチュアリティ)の涵養は、これまでも、そしてこれからも大切なことだと、あらためて考えることができた講演会となりました。
 (宗教情報センター研究員 佐藤壮広)

* 「世界の諸宗教に出会う」講演会 記録・報告のバックナンバーは、以下でご覧いただけます。
www.circam.jp/essay/bns/