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研究員レポート

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こころと社会

宗教情報センターの研究活動の成果や副産物の一部を、研究レポートの形で公開します。
不定期に掲載されます。


2015/01/26

「みんぱく公開フォーラム 古代文明の生成過程ーーエジプトとアンデス」に参加して

こころと社会

Roberto

  2015年1月25日。国立民族学博物館による公開フォーラム『古代文明の生成過程 —エジプトとアンデス—』が行われた。同博物館の関雄二教授によれば、『都市の重要性』をあまり意識した文明とはいえないエジプト文明とアンデス文明の関係性について、特に双方の経済面に注目したと言う。
 『経済から見た古代エジプト初期国家の形成』(高宮いづみ・近畿大学教授)が興味深い。高宮教授が研究の焦点を当てた時代は古王国時代(ピラミッド時代、紀元前2700年頃~2200年頃)であり、その目的のために先王朝時代と初期王朝時代(紀元前4000年頃~2700年頃)にも言及した。エジプトにおいて文明が発生した大きな理由として、同教授はナイル河周辺の環境を挙げており、その湿潤な土地が作物の栽培に適していたことがあるという。定期的に起こる洪水によって、土地が痩せることがないという見解に、洪水を危険なものだと決めつけていた私はとても驚いた。そして発展の背景には農耕だけでなく、階級の厳格化やそれによる職業の分担、あるいは交易や埋葬文化の発達があり、それらが後の古王国時代の生活にも影響を与えていたという見解が印象的であった。
 『アンデス文明初期の神殿と経済活動 —クントゥル・ワシ遺跡の調査成果から』(関雄二・国立民族学博物館教授)にも深く考えさせられた。アンデス文明からはその後のインカ文明のような階級を意識させる資料が発見されず、「むしろ人間と建築などの物質の相互作用の中で世界観が形成された場所としてとらえ、人間が物質に作用した結果、社会が変貌していったとする」考え方を新たに提示した。
 『都市の重要性』をあまり意識しない文明とは、どのような文明なのか。当サイトの「聖なる自然:アンデスの宗教と文化」 (実松克義先生講演)とあわせて、考えてみていただきたい。

関連ウェブサイト

公開フォーラム「古代文明の生成過程――エジプトとアンデス」
http://www.minpaku.ac.jp/research/activity/news/rm/20150125

権力の生成と変容から見たアンデス文明史の再構築(2011-2015)
http://www.minpaku.ac.jp/research/activity/project/other/kaken/23222003
(Roberto)