研究員レポート
2014/01/26
インドでの「市民社会と防災」会議に参加 |
こころと社会 |
葛西賢太(宗教情報センター研究員)
2014年1月17日-18日、ニューデリー(インド)で、『市民社会の役割と災害管理 Role of Civil Society and Disaster Management』 という国際会議が行われました。私・葛西は、市民社会の一員としての宗教について、日本の事例を語るよう、宗教学者として招かれました。 この会議を招集したのは、デリー大学東アジア学部のランジャナ・ムコパディヤーヤ准教授です。Samutthan Foundation(サムッタン財団)と国際交流基金Japan Foundationの共催によるものでした。 このすばらしい会議について、インドの共和国記念日にあわせ、報告致します。 |
参加者の顔ぶれ
二日間の会議は大きく6つのセッションに分かれ、10時からの1時間半、ティーブレイクと軽食、二つ目のセッション、昼食、三つ目のセッションが17時に終わる、という形をとり、ほぼこのスケジュール通り展開しました。
ボランティア団体、地理学者や災害学者、インドの政府機関、国際連携機関が発表を行いました。
オープニングのセッションでは、主催したランジャナ先生、JICAの江島真也氏(インド事務所長)、国立防災局のムザッファ・アフマド氏、アジア太平洋防災連合のファイサル・ディヤラール、国際交流基金の田中洋二郎氏が、日本の防災の事例や、市民社会と防災というテーマを掲げて抽象的でない交流をする意義などを指摘されました。
第一セッションでは、インドでのコミュニテイを基盤とした防災方法の分析、減災のために市民社会を活用する取り組み(シャプラニールの白幡利雄氏によるバングラデシュとネパールの事例)、オリッサでの災害で人々のリジリエンスを支援した事例(タタ社会科学研究所のRohit Patil氏)、NGOなどを活かしての災害予防と減災(Tushar氏)の発表がありました。
第二セッションでは、東日本大震災でのフードバンクの経験(支援物資の食品の残余を必要な施設へと分配する!)と災害時に援助を遠慮するような日本的心理(セコンドハーベストジャパンのチャールズ・マクジルトン氏)、子どもたちや家族への災害後の脅威を取り除くためのNGOの役割(Save the Childrenのプラディープ・クマール氏)、ビハーラの洪水で市民団体が減災に取り組んだ事例(シュウェタ・ラニ氏、デリー大の地理学者)、ムンバイの鉄道爆発事故と人々の助け合い(アルカ・パリク氏)という四つを聴けました。なお、司会をされたデリー大の人類学者Joshi先生の采配ぶりも、コメントも、そして英語もすばらしく、聞き惚れてしまいました。
2日目の第三セッションでは、リスクをかえる子どもの力を育てること(Save the Children、ムクル・クマール氏)、災害時の女性のジェンダーによる不利を日印比較(カルカッタ大女性学研究センター、バスワティ・タクルタ氏)、防災と市民社会の役割(アクションエイドのシャケブ・ナビ氏)、コシ洪水後の女性の精神衛生(デリー大学のミナクシ・ジョシ氏)と続きました。
第四セッションでは、アジア太平洋レベルでの防災のための連合をどう草の根の小団体と提携して進めるか(ファイサル・ディヤラール氏)、インドでの政府系団体と非政府系団体とが防災のためにどう連繋するか(プラナヤ・パリダ氏)、日本における市民社会と防災(諸宗教の事例、私・葛西賢太)、安全な学校で安全なコミュニティをつくる(SEEDS、イェズナニ・ラフマン氏)の四人が語りました。
最後の第五セッションでは、減災努力をもり立てる(サストリ氏)、日本のNGOが地域の力を引き出すために「場作り」すること(シャンティボランティア協会、木村まり子氏)、リスク地図をつくる情報学(アクションエイドのパラバッサナ・クリシュナン氏)が発表され、ついで、国立インド防災局長(現職と前職)がそれぞれインドでの取り組みをスピーチし、これを受けるかたちで、シャプラニールの白幡氏と菅原伸忠氏が、世界的な文脈の中での日本のNGO/NPOの歴史とその災害救援・支援への取り組みを数枚のスライドでわかりやすく語ってくださいました。そして会議は締めくくられました。
発表題目のこんな荒っぽい訳でも、会議がとても希望と熱い思いに満ちたものであったことが感じ取って頂けると思います。
ボランティアのマインドセット
私・葛西は、日本の宗教界のボランティアがServantというMindsetで特徴づけられること、社会福祉協議会やボランティアセンターやNGO/NPOとのコラボがとても大切になること、そこからどんな選択肢が開かれているかを、阪神淡路大震災・東日本大震災・大島台風被害(規模的に全体像が見やすい)仏教系ボランティア団体SeRVの活動事例を主に、他の団体との比較の中で取り上げました。阪大の災救マップ、東北大の臨床宗教師、宗援連などの連携活動、学者による民俗芸能の支援など、宗教と学術界のが行われていることも日本の文脈としてお話ししました。
会議をふりかえって
もっとも印象深かったのは、災害が多いのは日本だけではなく、東アジアから東南アジア、南アジアへとつづく太平洋沿いの国々は日本同様に地震や洪水などの災害にひんぱんに見舞われている、ということでした。そして対応のための国際連携は、少なくとも情報交換や国際会議はずいぶん進んでいるという事実でした。
以前、サウジアラビアで、東日本震災直後に日本での震災復興支援ボランティアについて語る機会を二度いただいたことがあって、このテーマはいろいろ情報を集めてきたのですが、今回は、会議そのもののテーマがそこに集約されていて、日本でのフードバンクの活動、南アジア・東南アジア・東アジアにかけての国際連携の話、セイブザチルドレンやシャプラニールやシャンティなどの国際NGOの話、バングラデシュやネパールや印度国内、フィリピンでの震災・河川氾濫と洪水と治水、列車事故、子どもをいかに守るだけでなく防災の決め手とするか(釜石小学校の話など思いだしますね)、鉄道事故への対応、災害時に女性や子どもをどう守るか、そして災害後のトラウマや飲酒量増大などの精神衛生問題など、実践的な取り組みです。私も、被災地でのアルコール関連問題や、JR福知山線列車事故のあとのJR西日本の取り組みなどを話題として紹介しました。
昼休みには、インド国立防災局の若手たちによる、負傷者を道具なしでどう運び出すか、という実演などもありました。JICAとJFの方が初日にされたスピーチも、災害の経験を受け入れて直視しながらどうやって市民として(一人ではできないことを)やるかを話しましょう、と、熱いものでした。ただし、皆さんの話を詳しくうかがうと、インド(および南、東南アジア諸国)での防災の取り組みはほぼまだこれから、ということでした。政府の理解など、さまざまな壁がありますが、一つは、防災はビジネスとしても重要という認識が十分に広がっておらず、またそこに割く経済的余地が十分でない、ということもあるのだと思います(経済的要因を無視した「純粋な善意」というのは限界のあるものだと感じます)。
インドの人たちは、災害への心構えdisaster preparednessとかDisaster risk reductionとかいったさまざまな概念--完全無血な防災というのはあり得ないとしても、災害のさなかの適切な介入interventionあるいは事後の手当てpostventionをいかにするか、そうした関心を背景に持つ概念です--を使いながら、でも抽象にとどまらず、抽象から具体へと自由に舞踏する、という印象でした。
今回お招きいただいたことに感謝申し上げるとともに、私も、市民がそれぞれ社会に参与していくことの大切さを伝えてまいります。