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2013/07/15

『NHK趣味Do楽 籔内佐斗司流 仏像拝観手引 日本列島巡礼編』
日本放送協会 NHK出版(編集)


彫刻家・藪内佐斗司流 仏像拝観手引(NHK出版)
2013年4月 1000円(税別)
 
 本書は2013年の4月から5月にかけてNHK Eテレで放送された『趣味Do楽 籔内佐斗司流 仏像拝観手引 日本列島巡礼編』の番組テキスト(NHKテレビテキスト)である。番組では東京藝術大学大学院教授・籔内佐斗司氏を講師に迎え、ゲストの篠原ともえ氏とともに日本全国の仏像を巡った。全9回シリーズで放送された同番組であるが、本書には各回の重要なポイントがまとめられていて、番組を視聴していない方でも拝観の旅に活用していただける一冊となっている。
 まず読者に注目していただきたいのは、各テーマに即して紹介されている仏像である。番組で紹介された仏像以外に、テキストでしか取り上げられていない仏像の写真もあるため、番組の再録以上の楽しみもある。また、その仏像が信仰されるようになった背景や様式などについての記述も詳しい。寺院の本尊となっている仏像のみならず、博物館・美術館に収められている像についての解説や、名作の模刻、震災復興祈念地蔵の制作など、つくる側の視点も公開されている。読者は単なる仏像拝観にとどまらず、普段とは違った視点から仏像を読み解いていくことができるであろう。
 さらに、本書は仏教に関する解説も充実しており「これまであまり仏教には触れてこなかったけれども仏像には興味がある」という方でも楽しめるような配慮がなされている。その他にも、般若心経などについて特集された「なるほど仏教と経典」や、「両部・両界曼荼羅の華麗な世界」、「能に見る役行者」など、たくさんのコラムが掲載されており、様々な視点から仏像拝観を楽しむことができるのも本書の特徴である。
 対談『生かされた命を生きる、山伏の智目行足』では、山伏の智慧の世界「智目」と行の世界「行足」がどのような世界であるのか、聖護院門跡門主・宮城泰年氏と籔内氏が、日本独自の宗教――修験道について語り合う。その中で宮城氏は「自らが山で得てきた宗教的、人間的体験が日々の行動のなかに果徳としてあらわれる」と、自身も命を落としかけたこともある厳しい修行がもたらす験徳について語る。山岳信仰は、仏教とともに日本に古くから伝わる信仰である。ご一読いただくことで、日本人が古来より守り伝えてきた神秘的な世界の一端を感じ取っていただけるであろう。
 本書は、仏像に関心のある方をはじめ、日本各地に伝わり、継承されてきた信仰に興味のある方など、番組とあわせ多くの方に読んでいただきたい一冊である。
 
〇なお、テレビ番組版の各回の内容は、当サイトの【テレビ番組レビュー】に要旨が掲載されている。
『趣味Do楽 籔内佐斗司流 仏像拝観手引 日本列島巡礼編』各回の番組レビューは、以下のリンクからどうぞ。

第1回「ほとけの世界観を知る」
第2回「異形のほとけさま」
第3回「密教のほとけさま」
第4回「西方浄土のほとけさま」
第5回「みちのくのほとけさま」
第6回「山岳のほとけさま」
第7回「なにわ 庶民信仰のほとけさま」
第8回「博物館のほとけさま」
第9回「総集編」
※第9回は第1回~8回までのダイジェストのため、レビューは掲載しない。