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日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

趣味Do楽 籔内佐斗司流 仏像拝観手引 日本列島巡礼編 第7回「なにわ 庶民信仰のほとけさま」

2013/05/14 (Tue) 21:30~21:55 NHK Eテレ
キーワード
法善寺、水掛不動、四天王寺、葛井寺、道明寺
参考
番組公式
 この番組では、東京藝術大学大学院教授・籔内佐斗司氏を講師にむかえて、日本各地の仏像を巡っていく。シリーズ全9回中、第7回目の今回は「なにわのほとけさま」と称して、人々に親しまれている大阪の仏様が紹介された。
 はじめに訪れたのは天龍山法善寺である。法善寺の伽藍は第二次世界大戦の際、空襲によってすべて焼失したが、ある仏像だけが残った。それは表面全体が苔に覆われている不動明王像である。「水掛不動」の愛称で親しまれているこの不動明王像は、人々が願掛けとして水をかけていくうちに現在の姿になったという。
 この水かけは、昭和のはじめに、ある女性がすがる想いで水をかけたのがはじまりとされている。そして、その願掛けが評判となり、参拝する人は皆、この不動明王像に水をかけるようになった。そのご利益は縁結び、芸事の成就、商売繁盛と幅広く、水掛不動はいまも庶民の信仰を集めている。
 次に、飛鳥時代に聖徳太子が建立したともいわれている「四天王寺」を訪ねた。四天王寺の伽藍も戦災によって全焼したが、昭和38年に再建された。そのため、建物のほとんどが鉄筋コンクリート造である。しかし、五重塔、金堂、講堂が一直線に並ぶ伽藍配置は、日本で最も古い飛鳥時代の建築様式を忠実に再現している。
 四天王寺の中央に建つ金堂には、本尊「救世観世音菩薩半跏像」が祀られている。こちらの仏像は聖徳太子の化身ともいわれており、アーモンド型の目、細長い顔など飛鳥時代の様式を模して昭和38年頃につくられた新しい仏像である。制作を指導したのは近代彫刻の巨匠・平櫛田中である。
 また、救世観世音菩薩の四方を守る四天王像は、昭和の仏師・松久朋琳とその息子である松久宗琳が手がけた。独特の表情をした四天王像は、飛鳥時代の仏像様式を参考にしながら現代風にアレンジされている。
 最後に、大阪の郊外に位置する藤井寺市を訪ねた。ここには戦災を免れた貴重な仏像が残っている。そのひとつが奈良時代に創建された葛井寺の本尊、国宝「十一面千手千眼観音菩薩座像」である。合掌している2本の手と、両脇に張り出された小さな脇手をあわせて1043本もの手をもつ仏像である。
 さらに、藤井寺市には学問の神様・菅原道真ゆかりの寺として知られている道明寺もある。道明寺の本尊、国宝「十一面観音菩薩立像」は平安時代の作で、はっきりとした作者はわかっていないが、寺の縁起では菅原道真作と伝わる。足元の台座から頭部まで1本のかやの木から彫りだされた一木造の仏像であり、精緻でありながら、やわらかさを感じさせるその造形から、平安彫刻の最高傑作ともいわれている。
 大阪は戦災による古寺の焼失という困難にぶつかったが、番組で紹介された仏様は、いずれも人々によって親しまれ、愛されていた。番組を通して、寺が焼失すれども、その信仰は変わることなく受け継がれ、いまもなお大阪の人々の間で生き続けていることが感じられた。