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2016/02/07

世界の諸宗教に出会う 第16回 講演会 報告

世界の諸宗教に出会う 第16回講演会  2016年2月7日(日)
講題:神様とまつり —いまとむかし—
講師:櫻井治男 先生 (皇學館大学特別教授)
 
 世界の宗教文化を知り、多様な生き方を学ぶ「世界の諸宗教に出会う」講演会が、東京・友心院で開催されました。講師は、近代における神道の諸相、神社祭祀を研究なさっている宗教社会学者・櫻井治男先生。 写真・動画資料なども紹介しつつ、 地域の神社祭祀、「まつり」の現代的意味についてお話しくださいました。
 
 「まつり」という言葉には、「祭り」「祀り」「奉る」「まつろ(服・従順)う」などの意味があり、また「大バーゲン祭」「ケーキ祭り」「桜祭り」などいろんな場面・状況で用いられる「まつり」があるとのこと。さらに「あとの祭り」「祭り過ぎての栃麺棒(とちめんぼう)」など、「まつり」に関する諺や、「まつり」のイメージ(=華やか、賑やか、喧噪、ワクワクする雰囲気など)からも、「まつり」の特徴を考えることができると、櫻井先生は解説なさいました。
 
 伊勢・志摩サミットに向けて注目が集まりつつある伊勢神宮。ここで行なわれる祭りは、年間約1500回にも登ります。伊勢神宮の祭りは、次の3つに大別されるとのことです。(1)日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうおおみけさい=神様へ捧げる朝・夕のお食事)、(2)年中恒例祭(農作物の予祝・収穫を祈願・御礼する祭り、夏祭りなど)、(3)式年遷宮(20年に一度の社殿の造り替え)。
 
 伊勢神宮、春日大社、明治神宮などの大きな社だけでなく、地域の村落ごとの神社でもいろいろな祭りが行なわれており、櫻井先生はVSOPという視点で眺めてみれば祭りがよく見えると、とても示唆に富む指摘をなさいました。Vとは祭りの目的の多様性=バラエティ、Sは祭りが行なわれる場所=スペース、Oは祭りが行なわれる時=オケイジョン、Pは祭りを行う人々の姿=ピープルという意味です。
 
 特にPの部分に注目すると、地域社会の日常の活動の際には必ずしも中心を占めていない翁(おきな:老人)や稚児(ちご:子ども)が神聖で尊い存在として顕われ、場の主役となるのも、祭りの大きな特徴だということになります。また祭りには、直会(なおらい)など共食の時に、漏れなく地域共同体の全員に食べものが渡るよう配慮するという慣習もあり、神様も人も大切にする機会にもなっているという側面があります。
 
 櫻井先生によれば、地域の神社を現代社会における資源として捉えると、そこに3つの特徴が見えてくるようです。それらは、(1)地域の由緒・由来や神事芸能の継承・伝承の場として「歴史や文化的な資源」となる神社、(2)氏子組織を一例とする地縁・血縁・社縁の現場として「社会的な資源」となる神社、(3)樹々に囲まれた「自然環境的な資源」としての神社です。こうした場所で行われる「まつり」には、例えば震災に遭った地域の復興(つながりの回復や地域力の高揚など)や、郷土愛や伝統技術の維持・継承といった機能も十分に果たしています。
 
「神社があること」それ自体が、神様と人とのつながり、人と人とのつながりをもたらしているということが、櫻井先生のお話のまとめでした。近著『地域神社の宗教学』(弘文堂 2010)や『日本人と神様—ゆるやかで強いきずなの理由−』(ポプラ社 2014)の中でも先生が示している現代の神道研究の成果に直接ふれることができ、聴講者にとってとても学び豊かなひとときとなりました。
        
                           (宗教情報センター研究員 佐藤壮広)
 
* 「世界の諸宗教に出会う」講演会 記録・報告のバックナンバーは、以下でご覧いただけます。
http://www.circam.jp/essay/bns/