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日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

BS世界のドキュメンタリー「そして、兄はテロリストになった」

2014/09/05 (Fri) 0:00~0:50 NHKBS1
キーワード
過激派、若者、社会、イスラム原理主義
参考
番組公式
「兄はイスラム原理主義者になった」の続編ドキュメント。監督ロブ・リーチの実の兄、リチャード・ダート(サラディーン)がイスラム原理主義者となり、テロリストとして捕まった。ロブは兄を家族として接したい反面、イスラム原理主義に対する怒りの中、困惑していた。本当に責められるべきは誰なのか?何が起きていて、なぜこんなことがおこるのか、どうしたら防げるのかに迫っていくうちに、イスラム過激派の指導者アンジェム・チャウダリーの陰がちらつく。
 

過激派の人々

 ロブの前回の番組をみた博士課程の学生が、自身の研究を解説してくれた。彼が言うに、イスラム原理主義とは本質的にイスラム社会とはかけ離れたイデオロギーだ。リチャード同様、イギリスの若いイスラム教徒の多くは、チャウダリーに話を吹き込まれ、世界各地の紛争に感情移入してしまい、聖戦士として自分が信じる正義のために戦いたいと考えるようになるのだ。ただ、白人改宗者に共通して言えるのが、彼らは人生で最高の時間を満喫しているということ。酒もたばこもやらず、ナイトクラブにもいかない。大概はカフェでたむろし、ジハードや外国の同胞を助けることについて熱く語り合うのだ。
 

チャウダリーという存在

 次に、チャウダリーとの直接取材で、兄をテロ活動へと導いたのではないかと問い詰めるが、話はずっと平行線のまま。チャウダリーはペテン師なのか信念をもった伝道師なのか、まだわからなかった。
 そこで、チャウダリーたちがどういう存在なのかを明らかにするため、イースト・ロンドン・モスクを訪ねた。そこは、イスラム過激派にからんでメディアがよく取り上げる場所で、チャウダリーがメディアで何か挑発的な発言する度に、それに影響された人々がヘイトメールなどの嫌がらせが数多く届く。同じイスラム教者でも違う考え方をもっているのに、一緒くたにされて、イスラム教に問題があるように責めたてられる。だからと言って、過激派たちのように道を外れた人々に考えを改めさせることも中々難しい。
 

誰が過激派になるのか

 彼らの過激さの一方で、驚いたことに、リチャードやその仲間たちはとても親しみやすかったのだ。兄を通じて出会ったアブドラディーンは、ロブが人として好きになれるほどだった。それに、西洋の対イスラム政策での怒りに値する残酷で恥ずべき行為が、映像として事実残っており、これには多くの人が嫌悪感を抱くに違いない。
 では、彼らと私たちとの違いはどこにあるのか。イスラム指導者でもある心理療法家のアリアス・カルマーニは、真っ向から対立する極右とイスラム過激派を比較するとその過程に共通点があるという。怒れる若者が強い不満を抱き、社会に居場所を見失う。何もかもが間違っていると思い、無力感に襲われる。発端の多くはこの無力感だ。それが突然イデオロギーという力を身につける。権威主義の中、カリスマ指導者が、こうした若者の心をつかみ一定の方向へ導き、失った自尊心の回復や過激な運動に加わる一体感が充足をもたらす。イギリスの極右団体イングランド防衛同盟の創設者トミー・ロビンソンも、ぶっきらぼうな言い方で、イスラム原理主義について、皮肉にもアリアスと同じことを口にしていた。主体性も人生の目標もない若者は壮大な思想の押し売りに驚くほど弱いのだ。そしてそれは、人がいとも簡単に過激派になるということであり、怒りや不満、絶望をつつかれ、人格形成の過程でほんのわずかなものが欠けるだけで、人生が変わってしまうことがあるということだ。
 

過激派を身内にもつということ

 また、これまでの例に当てはまらない例もある。ヴィッキー・イブラヒムの息子アンディは、誰かにそそのかされるわけでもなく、インターネットをみて自分で過激派になった。母親であるヴィッキーを含めた家族全員が、未だに苦しんでいるという。この痛みにはロブにも覚えがあった。リチャードの身に起きたことにも、彼が家族にしたことにもうんざりしているという。そして、チャウダリーが若者の人生を弄び、その家族の人生をも翻弄していることにも。
 

その後…

 兄リチャードやほかの若者を言葉巧みに扇動し過激派にした責任を認めさせたくて、再びチャウダリーに会うも、彼がその件を認めることはなく、結局、リチャードの件で同意させることはできなかった。
 リチャード自身は自分のことをジハーディストというかもしれないが、世間から見ればテロリストなのだろうし、実刑もやむを得ないことだったのかもしれない。
 アブドラディーンは7カ月の実刑、トミー・ロビンソンは、同盟脱退後詐欺罪で18カ月の判決、ヴィッキーは今も息子との面会を続けている。そしてアンディは過激な思想を捨てた。


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