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宗教情報センターの研究員の研究活動の成果や副産物の一部を、研究レポートの形で公開します。
不定期に掲載されます。


2015/03/06

2014年の国内における宗教関係の出来事

宗教情報

藤山みどり(宗教情報センター研究員)

 2014年は、テニスの全米オープン男子シングルスで錦織圭選手が準優勝し、ノーベル物理学賞が青色LEDを開発した3人の日本人に授与されるなど、日本人の国際的な活躍が光った。だが、国内に目を向けると、災害や事件など重たいニュースが目立った。

 自然災害が連続し、8月に広島市で74人が死亡する土砂災害が発生した後、9月には長野、岐阜県にまたがる御嶽山(おんたけさん)が噴火。登山者57人が死亡、6人が行方不明となる戦後最悪の火山災害となった。また、不正の発覚が相次ぎ、世間を賑わせた。理化学研究所の小保方晴子氏らが作成したと1月に発表した万能細胞“STAP細胞”には論文の改ざん疑惑が浮上し、12月に既存のES細胞だったと結論づけられた。2月には、“全聾の作曲家”佐村河内守氏が、ゴーストライターの作品を自作と発表していたことや聴覚障害でなかったことが発覚した。8月には朝日新聞社が従軍慰安婦に関する1980~1990年代の記事の一部に誤りがあったとして取り消しを発表し、9月には東京電力福島第一原発事故における「吉田調書」に関する5月の誤報について謝罪し、従軍慰安婦に関する記事の訂正が遅きに失したことについても謝罪した。

 政治の状況をみると、7月には集団的自衛権の行使が限定容認された(後述参照)。12月の衆院選では、自民・公明の連立与党が定数の3分の2を超える326議席を獲得。政権の長期化が予測されるなか、安倍首相は憲法改正に意欲を見せている。経済面では、景気回復したとはいえ4月の消費増税や円安による輸入物価の上昇で実質賃金指数は3年連続で減少し、実感は乏しい。大企業と中小企業、都市と地方などの格差は縮まらない。人口減により2040年には全国1800市区町村のうち約半分の896が消滅の危機に陥るという「日本創成会議」による5月の発表は、各方面に衝撃を与えた。

 これらを踏まえて、2014年の国内の宗教関連の出来事をみていく。なお、2014年に起きた国内・海外の宗教関連の出来事の詳細は、3月発売の『宗教と現代がわかる本 2015』(平凡社)をご覧いただきたい。

●2014年の国内の宗教関連の主な出来事

1月28日 東京地裁、統一教会男性信者に脱会を強要した親族に約480万円の賠償命令
2月16日 国内初の「インターフェイス(諸宗教間交流)」駅伝が、京都で開催
3月7日 東京地裁、オウム真理教元幹部・平田信被告に懲役9年の判決
3月8日 キリスト新聞社、聖書カードゲーム「バイブルハンター」発売
3月26日 天皇皇后両陛下、剣璽を携えて式年遷宮を終えた伊勢神宮を参拝
3月31日 浄土宗総合研究所、エンディングノート『縁(えにし)の手帖』発行
4月17日 1995年の警察庁長官銃撃事件を「オウム真理教による組織テロ」と警視庁が発表した件で、都にアレフへ100万円の賠償を命じた2審判決が確定
4月30日 真宗大谷派、大谷暢顕門主のいとこの暢裕氏を次期門主に選定
5月15日 宇佐神宮、世襲家の到津克子さんを権宮司職から解雇
5月16日 創価学会、朝日新聞の取材に回答し、集団的自衛権容認に懸念表明
6月3日 臨済宗建仁寺派大本山建仁寺で臨済宗の祖・栄西禅師800年大遠諱法要
6月5日 曹洞宗の元関係校・旧多々良学園の経営破綻に関する訴訟で、曹洞宗が金融機関5行に解決金10億円を支払うことで和解が成立
6月6日 浄土真宗本願寺派、大谷光淳・第25代門主の法統継承式
6月8日 桂宮宜仁親王殿下、薨去
6月30日 東京地裁、オウム真理教元信者・菊地直子被告に懲役5年の判決
7月1日 集団的自衛権行使容認に全日本仏教会などが懸念を表明
7月31日 祖父の精子提供で体外受精児118人
8月5日 タイで24歳の日本人実業家が代理出産させた子供計9人を保護
9月9日 宮内庁、『昭和天皇実録』全文を公表
9月29日 深夜のトーク番組「お坊さんバラエティ ぶっちゃけ寺」放送開始
10月4日 青蓮院の別院「青龍殿」落慶法要
10月5日 高円宮典子女王殿下と出雲大社の権宮司・千家国麿さんが出雲大社で結婚式
10月6日 警視庁公安部、イスラム国への参加を企てた北大生の関係先を家宅捜索
10月29日 大学設置・学校法人審議会、「幸福の科学大学」に開設不認可の答申
11月7日 創価学会、教義に関する会則を改正し、本尊を変更
11月21日 宮内庁、新嘗祭の「暁の儀」への天皇陛下の拝礼を中止すると発表
12月31日 「大祓の儀」に眞子様内親王殿下が初めて参列

【自然災害と生命倫理】

 噴火を神の意志と捉えた古の人々にとって、火山は畏敬の対象であった。御嶽山は古くから山岳信仰の対象で、長い潔斎期間を経て修験道者が登拝する山だった[1]。だが、江戸時代後期に覚命(かくめい)と普寛(ふかん)の2人の行者によって、御嶽信仰が民衆に広まり、講を作って白装束姿で金剛杖を手に登る信者が増加した。1979年の噴火に伴う入山規制に伴い、登拝する信者は減少したが、平成に入ると車道やロープウェイの整備により、一般登山客が増加した[2]。登拝時期は7月から9月初旬までが主で、9月27日正午近くの噴火時には白装束姿の信者一行約20人が入山していたが下山途中で無事だった[3]。古来の御嶽山信仰とは無縁であるが、17人で登山していた統一教会信者のうち4人が犠牲になった[4]。死者・行方不明者63人もの大災害に、御嶽山を信仰してきた全国各地の御嶽神社や「御嶽教」、「木曽御嶽本教」などの宗教法人は、犠牲者の慰霊や被災地の支援を行った。

 多くの犠牲者が出たため、予知ができず警告が発せられなかったことへの非難もあった。しかし、噴火と犠牲者との因果関係や天譴論は否定しつつも、噴火を「観光化による聖性の冒涜への怒り」「奢れる人間への戒め」と受けとめ、宗教が「自然に対する謙虚さ」を説く必要性を示唆する行者もいる[5]。予知による危険回避という発想も、自然の支配が可能であるという人間の奢りとも言えなくもない。

 自然災害だけでなく、科学技術の発達に伴って浮上してきた生命倫理の問題も、「自然に対する謙虚さ」が失われていることと結びついている。2012年に出生した体外受精児は過去最高の37953人で27人に1人になったと9月に公表された[6]。それほど体外受精は一般的になったが、7月には長野県の諏訪マタニティークリニックが祖父の精子提供による体外受精児が1996年から2013年の間に118人も誕生したと発表[7]。厚生労働省の審議会は、体外受精における精子提供は兄弟からは人間関係が複雑になるとして認めておらず、論議を呼んだ。8月にはタイで20代前半の日本人男性が代理出産させた乳幼児たちが保護され、最終的にその数は16人に上るという前代未聞の事件が起きた[8]

 この辺りは宗教者が率先して地道に説き、約30年前は反応が鈍かった環境問題がいまや世界的な取り組みが必要と認識されているように、人々の意識を変えていく必要があるのではないだろうか。

【宗教界と広報戦略】

 STAP細胞ねつ造事件や、“現代のベートーベン”と称された佐村河内守氏の代作事件は、メディアとその受け手の問題をも提示した。ねつ造事件では、若くておしゃれな“リケジョ(理系女子)”(小保方晴子氏)が、ムーミンなどのシールが貼られた研究室でかっぽう着姿で研究するという演出が相まって、メディアへの露出度が増した。佐村河内氏も、広島県出身の被爆2世で全聾の作曲家という人物背景が曲の評価よりも話題を先行させ、こぞって取り上げたメディアがブームを作り上げた。海外の話題ではあるが、2014年6月に国家樹立を宣言した過激派組織「イスラム国」は、インターネットの動画サイトを利用した広報が秀逸であるだけでなく、既存メディアの動かし方にも長けている。その行為の善悪や中身の問題はさておき、人々への最初のアプローチとして、彼らの広報戦略は宗教界にとって学ぶところがあるのではないか。

 国内の宗教界は特に若者向けの広報を課題としている。そのなかで3月に発売されたキリスト教界初のカードゲーム「バイブルハンター」(キリスト新聞社)は、キリスト界では珍しく若者向けのヒット商品となった。聖書に登場する人物やエピソードがカードになっており、遊びの世界で聖書の世界を知ることができる。アニメ調のイラストが人気を博し、11月までに約3千セットを販売し[9]、2015年3月には第4弾が発売される。寺院や神社でも“萌えキャラ”を宣伝に使って若者を集めているところはあるが、表層的な人気に留まり、教えに触れさせるまでには至らないところが多いなかで、健闘を見せた。

 仏教界では、4月に曹洞宗近畿管区教化センターがスマートフォン(スマホ)で座禅指導が受けられるアプリ「心の鏡」を無料公開し、話題を呼んだ(アンドロイド版が4月、iPhone版は5月に公開)。坐禅や写経を体験できる機能があり、発表後1カ月で9千件のダウンロードがあった[10]。仏教界では若年層のツールであるスマホを利用する動きが2013年から始まっており、2013年5月に真宗大谷派が電子書籍専用ストアをインターネット上に開設し、10月には天台宗が慈覚大師円仁の教えを解説するコンテンツやクイズなどを盛り込んだアプリを無料配信し始めた[11]。なお、ツールの活用ではないが、浄土真宗本願寺派は2014年度(4月)から「子ども・若者ご縁づくり推進室」を設置し、若者層への積極的なアプローチをし始めている。

 9月からテレビ朝日系で始まった深夜番組『お坊さんバラエティ ぶっちゃけ寺』は、僧侶たちのタレント性やトークのうまさが見込まれて、前番組で好評だった企画がレギュラー化されたトークバラエティー番組である。人気のお笑いコンビ「爆笑問題」の司会で、異なる宗派の僧侶5人が内情を打ち明けるなかで、各宗派の修行や読経の違いなども紹介される。意外と知らない仏教の側面を知ることができると話題になり、スペシャル番組が12月には2本放送された。2015年4月からは毎週月曜19時からというゴールデンタイムに進出する。僧侶の個性や説法術が強い武器になることを改めて認識させると同時に、宗派単独ではなく宗派混成での広報の可能性をも示唆したようだ。公共性の高いテレビや新聞では、特定の教団の宣伝となることを避けるため、各宗派の同様の取り組みを並列して1つの記事に仕上げるケースが多い。

 少子化により国内の総人口が減少するなかで、とかく対応が遅れがちな若者向けツールでの情報発信も大切であろう。ただし、さらに小さくなるパイの奪い合いをするのではなく、各団体としての個別性を維持しながらも宗教あるいは仏教、神道などの大きな枠で連帯して発信するほうが、宗教界全体の拡張に貢献できそうだ。

【少子化と後継者問題】

 少子化は、世襲の傾向が強い宗教界にとって影響が大きい。

 皇族の構成は、6月に桂宮宜仁親王殿下が薨去(こうきょ)され、10月に高円宮典子女王殿下が出雲大社の神職を担ってきた出雲国造(こくそう)家第84代の長男・千家国麿氏と結婚して皇籍を離れたことにより、天皇陛下、男性皇族5方、女性皇族14方の計20方となった。6月に宮内庁は「参列可能な男性皇族の実質的な減少」という異例の理由から、6月と12月に皇居で行われる「大祓(おおはらい)の儀」に参列する皇族の範囲を、従来の「成年男性」から「成年女性」に広げると発表した。この儀式は皇族をはじめ国民のために行われるお祓いで、12月に眞子内親王殿下が初めて参列した[12]。宮家の成年男性皇族(親王)は3方のみという現状で、性別よりも血筋を優先する現実的な対応が採択された。

 <宇佐神宮の後継騒動>

 神職は1871年の「太政官布告」によって世襲が禁止されたが、次第に緩和され、戦後1946年に「太政官布告」が廃止されると、また世襲の傾向が強くなった。世襲制では、血筋という先天的な資質だけでなく、幼少期から当該環境におかれた結果としての後天的な能力という2つの要素が求められることが多い。ちなみに女性神職が認められたのは戦後(1946年)で、現在では女性神職は1割を超すが、いまだ男性社会の名残がある。次の例にみられるように、少子化の時代において男子を中心とした世襲制は、後継者と目されていた男子に不測の事態が起きたときに女子による代替が難しく、トラブルが生じやすい。

 全国約4万の八幡神社の総本宮である宇佐神宮(大分県宇佐市)は、14世紀の南北朝時代から到津(いとうづ)家と宮成家の男性が代々宮司を務めてきたが、宮成家が廃絶し、戦後は到津家が単独で世襲してきた。だが78代宮司の長男が事故死し、2004年に宮司の体調が悪化すると、長女の克子氏が会社員を辞めて神職の資格を取り、2005年に同神宮の禰宜(ねぎ)となった。2007年には39歳にして同神宮初の女性権宮司に異例の速さで昇進し、初の女性宮司誕生が期待された。だが、中継ぎとみなされた親戚筋にあたる79代宮司(2006年就任)が2008年に死去すると、騒動が勃発した。

 後任宮司に神宮の責任役員会は克子氏を選任したが、神社本庁は「経験不足」と認めず、2009年に県神社庁長を任期約3年程度の特任宮司に任命した。これに世襲家側が猛反発し、大祭時に宮司席を巡って小競り合いするなど対立が激化。後継宮司の地位確認は訴訟に発展し、2013年5月の最高裁判決で世襲家側の敗訴が確定した。太宰府天満宮や出雲大社など特定の家柄の者を宮司とすることが規則で定められている神社と異なり、宇佐神宮の規則では認められていないと世襲の慣習が否定された[13]。2014年1月には神宮の責任役員会が欠勤過多などから克子氏の免職を神社本庁に具申し、5月に神社本庁が克子氏を権宮司職から免職し、神宮も解雇するという世襲が途絶える結果となった。処分を不服とする世襲家側が法廷闘争に持ち込み、泥沼化した争いが進行中である。

 宮司の一族が争いを繰り広げているのが、江戸勧進相撲発祥の地として知られる富岡八幡宮(東京都江東区)である。同八幡宮では、1995年に富岡興永・前宮司の長男が宮司職を継いだが、女性スキャンダルが報じられたため2001年に辞任し、興永氏が宮司に復帰した。長男は宮司を辞めさせられた恨みから、八幡宮の禰宜である姉(興永氏の長女)に脅迫文を送り付け、2006年に逮捕された[14]。興永氏が体調不良により2010年に退任した後は、宮司不在のまま姉が実質トップの宮司代務者となっているが、その姉が記念碑に宮司の肩書きで刻名したのは職名詐称であるとして、2014年11月に長男の妻が東京地検に告訴した。同八幡宮で働いていた長男の息子が2011年に懲戒解雇されていることも、一族の争いを根深いものにしている[15]

<仏教界における世襲>

 仏教界では神道界ほど世襲の傾向は強くないが、浄土真宗のトップは世襲制である。真宗大谷派(本山・東本願寺)では、宗祖・親鸞の血筋である大谷家の男性が代々継いできた。大谷家と執行部が対立した「お東紛争」の影響で、故・大谷光暢(こうちょう)前門首の4人の息子のうち三男の暢顕(ちょうけん)・現門首を除く3人が宗派を離脱し、現門首に子供がいなかったことから、後継者の決定が遅れていた[16]。だが、2014年4月にようやく、84歳の第25代現門首のいとこで、ブラジル在住の62歳の大谷暢裕(ちょうゆう)氏に決まった。暢裕氏の長男が得度していることから、後継問題は当面ないとみられている。

 浄土真宗本願寺派(本山・通称「西本願寺」)も大谷家の男性による世襲で、6月に大谷光真・第24代門主(68歳)が退任し、長男・光淳氏(36歳)が新門主に就任した。光淳氏には2011年に長男が誕生しており[17]、こちらも当面、後継問題はないとみられている。

 後継者が世襲で男性に限られていると、少子化の時代には後継問題が起きるリスクが高い。浄土真宗十派の1つである真宗興正派(本山・興正寺)は、華園家の長男が原則として門主を世襲してきたが、2001年に「長女」も認める決定をし、2013年には門主を「象徴」と定義し、代表役員を門主から宗務総長に変更した。これは、2001年に就任した31世門主に女子しかいなかったため。このような場合、これまで同宗派では他宗派などの男性を門主に迎えていたが、今の時代には女性の門主を認めるほうが自然と判断したという。このような改正は、世襲の他宗派においても続くと推測される。

【地方消滅と寺院】

 少子化は、地方消滅とも密接な関係がある。2040年には全国にある市区町村のうち約半分が消滅すると発表されたが、石井研士・國學院大學教授は2040年には日本の宗教法人の1割が消滅するという試算を6月に発表した[18]。少子化や都市への流出により、地方の過疎化が進み、地方寺院では檀家制度が崩壊の危機にある。地方では檀家が減少しているが、逆に、都会では寺院が不足している。都会へ転出した人が地方の檀那寺と疎遠になり、最終的に離れていくため、過疎対策と都会での布教強化とは表裏一体と位置づけられている。

 この問題には仏教界も早くから着手している。日蓮宗の付属の研究機関である日蓮宗現代宗教研究所は他に先駆けて1989年に過疎地寺院の実態を報告書にまとめた。2006年には「過疎地域寺院活性化検討委員会」を設立し、2007年には寺院活性化事例を『元気な寺づくり読本』としてまとめた。2012年には過疎化の進む島根県と長崎県に1人ずつ支援員を派遣し、宗務院と協力して県内の寺院の活性化策を考える試みを開始し、2015年度には石川県にも支援制度を実施するとした。寺院活性化のアイデアを一般からも募ろうと、2011年からは公募コンペを実施。2013年には過疎地域部門も設けられた。これらを通して寺院への期待が「学び」と「交流」にあることが浮き彫りになったが、残念ながら2014年3月に発表された第1回過疎地域部門の大賞該当作はなかった[19]

 浄土宗の研究機関である浄土宗総合研究所は2012年に過疎地域寺院に調査を実施。2014年2月に実施されたシンポジウムでは、アンケート結果も発表された。それによると、最近20年間の檀家数の減少については、減少したと回答した寺院が60%で、うち20軒以上が19%だったが、今後20年の予測では、減少すると回答した寺院が79%で、うち20軒以上が38%と、今後はさらなる減少が見込まれる。また、過疎地域にある宗門寺院987カ寺のうち、収入が300万円以下の寺院が43%で、生活のため兼職している寺院が34.9%に上ることも明らかになった[20]

 浄土真宗本願寺派が龍谷大教授らに依頼して実施した1990年の調査結果では、過疎地域の1954カ寺のうち23%が「将来、寺院活動が続けられない」と回答した。特に山陰地方では過疎地寺院が約7割を占め、うち1割が廃寺や吸収・合併などを考えていた[21]。宗派では、2007年と2013年に過疎地域を含めた寺院の活性化事例集を刊行するなどしたが、広島県や島根県では宗門寺院の廃寺が増加。2004年以降2013年末までに仏教系宗教法人が、島根県では24法人(うち浄土真宗各派が20法人)減って1314法人に、広島県では22法人(うち浄土真宗各派が15法人)減って1755法人になった[22]。浄土真宗本願寺派は2012年度に過疎地域対策担当を設置したが、有効な対策はこれからのようである。

 日本の全人口が減少するなかで、政府が外国人労働者の受け入れ強化を検討するほどであるから、檀家制度(氏子制度)の範囲を越えて、外国を含めた他の地域から人を呼び込むことができなければ、廃寺(廃神社)は避けられないだろう。布教、儀式の執行、信者育成を行うなど宗教法人としての根幹は揺るがせにできないが、近代に寺社が行っていたことで、現代では他の法人や収益企業が行っている事業は多い。寺社の事業範囲が縮小したのは否めない。過去の経営基盤だけで生活が成り立てばよいが、兼業に近い収益モデルが、時代に即した形であるかもしれない。

 政府統計をみても、夫が雇用者(非農林業雇用者)の世帯では、共働き世帯と専業主婦世帯の比率をみると1980年には1:1.8と専業主婦のほうが高かったが、バブル崩壊後の1997年ごろには逆転し、2013年には1:0.70と共働き世帯のほうが高くなった[23]。女性の社会進出もあるが賃金の低下が理由とみられている。自営業と雇用者では事情が異なるとはいえ、1カ所からの収入源では暮らしが成り立たない時代になっている。宗教法人も、死守すべきところと変革してもよいところの線引きをして、従来の在り方を大きく変えなくては生きていけない時代がきている。

【集団的自衛権と宗教界】

 中国や韓国との対外関係は改善せず、10月ごろからは大量の中国漁船がサンゴ密漁のため小笠原諸島や伊豆諸島沖に押し寄せ、同じく10月には韓国の検察が朴槿恵(パク・クネ)大統領に関する記事に関して産経新聞前ソウル支局長を名誉毀損の罪で在宅起訴し、出国禁止措置をとるなどした。対外的緊張が高まるなかで、政府は7月に閣議決定で従来の憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を限定的に容認した(後述参照)。

 閣議決定前の5月に、自民党と連立政権を組む公明党の支持母体である創価学会は、護憲派の朝日新聞社の取材に、集団的自衛権の行使容認について「憲法改正手続きを経るべき」と否定的な見解を示した。だが、最終的には公明党が自民党に歩み寄る形で「集団的自衛権の行使が容認された」と多くの人々に受けとめられた[24]。だが公明党は逆に、従来の憲法解釈の基本を守り、自衛権発動の「新3要件」を追加したことで専守防衛を堅持して武力行使に歯止めをかけたと、その役割を強調した[25]。この主張を元外交官で作家の佐藤優氏も肯定し、閣議文を実務家が読むと「閣議決定によって、むしろ『集団的自衛権行使による自衛隊の海外派兵は遠のいた』」と解釈できると、公明党が果たしたブレーキ役としての役割を評価する[26]。だが、「公明党が『平和の党』の看板を下ろした」、あるいは、「公明党(創価学会)と自民党の選挙協力体制が自民党の強硬姿勢を許した」などの意見もあり、評価は分かれる。

 だが「集団的自衛権の容認」と多くのメディアで報じられた閣議決定が、憲法9条の改正、「戦争放棄」を捨てることにつながりかねないと、宗教界からは反対する声明が多数出された(詳しくは『宗教と現代がわかる本2015』所収の島薗進「集団的自衛権と宗教界の反応」をご覧ください)。

 伝統仏教の主要な59派などが加盟する全日本仏教会は、「仏陀の『和の精神』を仰ぐ者として」憂慮を理事長談話で表明し[27]、真宗大谷派の宗務総長は「殺してはならぬ、殺さしめてはならぬ(『法句経』)」という仏陀の言葉をひいて反対声明を出した[28]。このほか、臨済宗妙心寺派と日蓮宗なども危惧する声明を発表した[29]
 新宗教では、閣議決定当日に、立正佼成会が『法句経』の「まことに、怨みは怨みによっては消ゆることなし。慈悲によってのみ消ゆるものなり」との言葉を引いて閣議決定に反対の意を改めて示し、仏教が説く「不殺生」「非暴力」「慈悲」の精神をもとに世界平和を発信していくとの緊急声明を出した[30]

 仏教界だけでなく日本のカトリックの代表である日本カトリック司教協議会も、閣議決定は憲法を踏みにじったと抗議声明を出した[31]

 神道界からは声明は出ていないようである。だが、これまでの神社本庁における研修会テキストでは、軍事力の保持と憲法9条改正の必要性が説かれている[32]ので、集団的自衛権の行使を容認する側と親和性が強いと推測される。

 ただし、第2次安倍内閣が発足して約1年となる2013年12月、天皇陛下は傘寿のお誕生日に際しては、次のように述べられた。「戦後、連合国軍の占領下にあった日本は、平和と民主主義を、守るべき大切なものとして、日本国憲法を作り、様々な改革を行って、今日の日本を築きました」。また、五輪招致活動など皇室と政治との関わりについて回答するなかで「今後とも憲法を遵守する立場に立って、事に当っていくつもりです」。そして2014年のお誕生日には、「先の戦争では300万を超す多くの人が亡くなりました。その人々の死を無にすることがないよう、常により良い日本をつくる努力を続けることが、残された私どもに課された義務であり、後に来る時代への責任であると思います。そしてこれからの日本のつつがない発展を求めていくときに、日本が世界の中で安定した平和で健全な国として、近隣諸国はもとより、できるだけ多くの世界の国々と共に支え合って歩んでいけるよう、切に願っています」と述べられた。天皇陛下は政治には関わる発言はされないうえ、お考えを忖度するのは憚られるが、言外のメッセージが込められているように思われるのは気のせいだろうか。

【2015年に】

 2015年に宗教界では、4月から高野山で開創1200年記念大法会が営まれる。宗教界に限らず日本全体をみると戦後70年の大きな節目で、また1995年の阪神大震災(1月)、オウム真理教による地下鉄サリン事件(3月)から20年にも当たり、犠牲者の慰霊・追悼が各地で行われる。

 天皇陛下は、戦争犠牲者を慰霊し、平和を祈念するため、4月にペリリュー島などの激戦地があるパラオを訪問される。2015年の年頭には、「本年は終戦から70年という節目の年に当たります。多くの人々が亡くなった戦争でした。各戦場で亡くなった人々、広島、長崎の原爆、東京を始めとする各都市の爆撃などにより亡くなった人々の数は誠に多いものでした。この機会に、満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています」とのご感想を述べられた。天皇陛下は平和を祈念するお言葉を常に発せられているが、「満州事変」という具体名を挙げられたのは珍しい。満州事変とは、日本の関東軍が自ら起こした「柳条湖事件」を中国側の犯行であると主張して、満州を占領した事件である。

 このような年に、自公連立与党は新たな安全保障体制の整備に向けて動いている。枠組みを作るのは、武力行使の現場には当事者としては赴かない、関わったとしても安全圏にいて命令を発する側の人間がほとんどである。満州事変を緒とする太平洋戦争は軍部の暴走により勃発したと言われるが、現場を知らない文民が戦争へ突入させることもある。歴史をみればわかるように、侵略のための戦争であっても通りのよい口実が用いられることもある。2015年も引き続き、創価学会を母体とし、「平和の党」を標榜する公明党の真価が問われている。4月には地方統一選挙が行われる。国政ではないが、さまざまな課題に対する国民の意思も問われる年となりそうだ。

宗教情報センター研究員 藤山みどり


[1] 関敦啓「『祈りと救いの山』を信仰」『中外日報』2013年5月9日
[2] 中山郁「『神の山』と今から向き合うために」『月刊住職』2014年11月号
[3] 『毎日新聞』長野版2014年10月21日
[4] http://www.ucjp.org/?p=18131、『読売新聞』2014年9月30日夕刊 http://www.ucjp.org/wp-content/uploads/downloads/2014/10/News-Letter-41.pdf
[5] 藤田庄市「上州武尊山登拝/御嶽行者の噴火考」『仏教タイムス』2014年11月13日
[6] 『読売新聞』2014年9月5日
[7] 『読売新聞』2014年7月28日
[8] 『読売新聞』2014年8月7日、『産経新聞』2014年9月5日
[9] 『中部経済新聞』2014年5月2日、『朝日新聞』2014年11月4日、『キリスト新聞』2014年12月6日
[10] 『中外日報』2014年5月28日
[11] 『産経新聞』京都版2013年5月22日、『文化時報』2013年10月23日
[12] 『産経新聞』2014年6月10日、2014年12月27日
[13] 『大分合同新聞』2014年6月5日
[14] 『産経新聞』2006年1月26日
[15] 『FRIDAY』2015年1月2日
[16] 『読売新聞』2014年5月19日
[17] http://www.hongwanji.or.jp/project/news/n000237.html
[18] 『仏教タイムス』2014年6月26日
[19] 『文化時報』2012年3月31日、『中外日報』2014年3月6日
[20] 『仏教タイムス』2014年3月6日
[21] 『京都新聞』1990年8月8日
[22] 数値には、国や他県への所管替えを含む可能性もある。『中国新聞』2014年11月24日
[23] 独立行政法人労働政策研究・研修機構公式サイトhttp://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/qa/a07-1.html
[24] 佐藤優『創価学会と平和主義』朝日新聞出版社2014年10月、『読売新聞』2014年7月2日、『日本経済新聞』2014年7月2日、『毎日新聞』2014年7月2日、『産経新聞』2014年7月2日、『朝日新聞』2014年7月2日夕刊
[25] 『公明新聞』2014年7月4日、2014年9月14日
[26] 佐藤優『創価学会と平和主義』朝日新聞出版社2014年10月
[27] 全日本仏教会理事長齋藤明聖「集団的自衛権の行使を容認する閣議決定に関する理事長談話」2014年7月1日
[28] 真宗大谷派宗務総長里雄康意「安倍晋三内閣による集団的自衛権行使容認に対する反対声明」2014年7月1日
[29] 臨済宗妙心寺派宗務総長栗原正雄「集団的自衛権の行使容認に関して」2014年7月3日、日蓮宗宗務総長小林順光「集団的自衛権行使容認の閣議決定に関して」2014年7月8日
[30] 立正佼成会「閣議決定『国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について』に対する緊急声明」2014年7月1日
[31] 日本カトリック司教協議会常任司教委員会「集団的自衛権行使容認の閣議決定についての抗議声明」2014年7月3日
[32] 藤山みどり「憲法改正と宗教界――憲法96条改正から憲法9条改正へ」2013年7月1日 http://www.circam.jp/reports/02/detail/id=4253