研究員レポート
2010/08/03
外国イメージとメディア --リビアに関して--(2) |
宗教情報 |
藤山みどり(宗教情報センター研究員)
< リビア=危険? 米国との対立の歴史>
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< AMERICAN AGGRESSION(米国の侵略)>
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▼1996年発行の記念切手
▼2001年発行の記念切手
< 利害関係で変動する国家の評価と報道>
米英がそろってリビアを非難した1989年のパンナム機爆破事件だが、2009年8月、米英の歩調の乱れがあった。英スコットランド当局が、同事件で有罪判決を受けたリビア人元情報機関員の受刑者を釈放したのだ。末期ガンにかかっていた受刑者は、リビアへの帰国時に数千人の市民の歓迎を受けた。これに対し、米国のオバマ大統領や遺族らは猛反発した。
英国が一転して釈放を決めた背景には、リビアの石油権益を狙う政府の意向が反映したという疑惑が当時からあった。英国側は否定しているが、カダフィ大佐の後継者と目される次男のセイフ氏が「英国の石油権益などと関連したものだ」という発言をしている(2009年8月22日『日本経済新聞』)。この疑惑は2010年4月にメキシコ湾原油流出事故を起こした英国の国際石油資本BPへの批判とともに蒸し返され、BPは「受刑者引き渡し協定」の実現を急ぐように2007年に英政府に働きかけたことを2010年7月15日に出した声明で認めた。
リビアの石油埋蔵量はアフリカ大陸で最大とされ、経済開放が進む現在、各国の石油資本が資源獲得のためリビアへの進出を競い合っている。英国が受刑者を釈放した直後に、イタリアのベルルスコーニ首相がリビアを訪問したのも、原油資源獲得のためと見られている。
2009年9月に行われたリビア革命40周年記念式典には、受刑者釈放に反発した主要国の首脳は出席しなかったものの、イタリアやフランスは閣僚級を派遣し、関係維持を図った。この直後の『日本経済新聞』(2009年9月7日)の社説は、「他の主要国と比べて遅れ気味の要人訪問がリビアへの対応で日本の課題になろう」と経済効果を踏まえたうえでリビアとの関係強化を促している。石油資源確保のために関係強化が進めば、「リビア=危険」という報道も少なくなるだろう。
他国の位置付けは国家間の利害関係に基づいて変化し、メディアは自国のスタンスに基づいて報道する。メディアとは、そのような特性を持ったものであるということを認識しておく必要があるのだ。
※レポートの企画設定は執筆者個人によるものであり、内容も執筆者個人の見解です。
(ふじやま みどり)