• トップ
  • 宗教情報PickUp
  • 【書評】森田敬史・打本弘祐・山本佳世子編著『宗教者は病院で何ができるのか 非信者へのケアの諸相』勁草書房
文字サイズ: 標準

日本国内で刊行された宗教関連書籍のレビューです。
約一ヶ月、さまざまな分野の書籍からピックアップしてご紹介します。毎月25日頃に更新します。
興味深い本を見逃さないよう、ぜひとも、毎月チェックしてみてください。
メールでの更新通知を希望される方は、letter@circam.jpまでご連絡ください。

最新の書評  2022/11/24

森田敬史・打本弘祐・山本佳世子編著『宗教者は病院で何ができるのか 非信者へのケアの諸相』勁草書房、2022年、2700円+税。


 

 東日本大震災では宗教者による支援が注目され、臨床宗教師など臨床の場で活躍する宗教者が続々と誕生した。2019~2020年に行われた本書の調査によると、少なくとも国内80の医療施設で約160名の宗教者が働いている。キリスト教と仏教の宗教者がともに約70名だが、新宗教などの宗教者も2桁に上る。宗教者は欧米では病者のケアに欠かせないが、そのような認識は日本ではまだ薄い。「無宗教」を自認する日本人に、宗教者のケアはどう受けとめられているのか。宗教者はどのようなケアを行っているのだろうか。
 本書では、「宗教とは何か」「宗教者とは何か」といった定義には触れず、アンケートやインタビューから、宗教者が病院で行うケアの様相を明らかにしていく。調査対象は、キリスト教系病院で働くカトリックとプロテスタントの宗教者や、あそかビハーラ病院(京都府)の本願寺派僧侶、長岡西病院ビハーラ病棟(新潟県)の各宗派僧侶、天理教よろづ相談所病院「憩の家」の天理教教師、立正佼成会附属佼成病院の「心の相談員(立正佼成会会員と非会員)」らである。よく研究対象となる宗教系病院ばかりであるが、本書で初めて明らかにされたケアの実態も多い。とくに「憩の家」では、数量的分析に値する十分な数のアンケート結果がケア対象者から得られており、宗教者への評価を細かく読み取ることができる。これらは、ケアを実践してきた宗教者でもある研究者が編著者ならではの成果であろう。
 多くの病院で宗教者たちは、「宗教色を抑制する」ことに腐心しているようにもみえる。その点、天理教教師たちは自らの信仰に揺るぎない信念をもってケア対象者と接していて潔い。布教目的ではなく、「治ってほしい」という純粋な気持ちから患者に対して、天理教の神が働くように真摯な祈りを捧げるのである。地域に根づいている病院での活動だからともいえるのだが、信頼を築き上げてきた病院と教団の努力の賜物でもあろう。信者ではないケア対象者へのアンケートをみると、天理教教師の「祈り」をちゃっかりと好意的に受けとめている。「無宗教」と言いつつ多様な宗教行事を受容する日本人の特性をみるようである。
 本書を通して、宗教者にとって大切なのは「人として信頼できる」と思われるかどうか、であり、宗教とは「人と人のつながり」なのだと改めて感じられた。さらに、病院側が宗教者たちに期待するケアであって、宗教者たちが共通して行っているケアからすると、宗教とは「人は死んでも生き続ける」という死生観に依って立つものといえるようである。そして、多くの日本人も、そのような死生観を無意識に受け入れているように思われる。そうであれば、宗教者は病院でのケアをもっと積極的に行っていく必要があるのではないだろうか。
 本書の調査は2020年以前に行われた。その後のコロナ禍で、宗教者たちの病院における活動は制限された。だが、コロナ禍で家族との面会が制限された患者にこそ、そして、感染を恐れる心無い人々から中傷を受けた病院関係者にこそ、宗教者たちのケアが必要ではなかったのか。宗教者がエッセンシャルワーカーとして評価されなかったのが残念である。   
 2022年10月には、浄土真宗本願寺派が母体となって2008年に設立した、僧侶が常駐する「あそかビハーラ病院」が財政難から事業譲渡された。幸い、僧侶の研修先かつ常駐先となる病院として存続することが決まったが、今後は「宗教者がいる病院」の評価が欧米並みに高まり、病院で働く宗教者への対価が医療保険制度上にも組み込まれ、病院の経営を圧迫することがないよう祈るばかりである。
 2022年11月現在、7月に起きた安倍晋三元首相銃撃事件の容疑者の犯行動機が「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への恨み」だったことから、宗教に厳しい目が注がれている。そのようなときだからこそ、本書で「宗教とは何か」「宗教者とは何か」を考えてほしい。

 
(宗教情報センター研究員 藤山みどり