文字サイズ: 標準

日本国内で刊行された宗教関連書籍のレビューです。
約一ヶ月、さまざまな分野の書籍からピックアップしてご紹介します。毎月25日頃に更新します。
興味深い本を見逃さないよう、ぜひとも、毎月チェックしてみてください。
メールでの更新通知を希望される方は、letter@circam.jpまでご連絡ください。

最新の書評  2013/04/12

『宗教と現代がわかる本2013』 渡邊直樹(責任編集) 平凡社

2013年3月 1600円(税別)
 
 『宗教と現代がわかる本』シリーズは今回2013年の発行をもって第7回を数える。本年、伊勢神宮が62回目の式年遷宮を迎えるにあたり、本書にもそれに関連する内容が並ぶ。
 冒頭のカラーグラビアでは、式年遷宮に向けて行われてきた上棟祭までの諸祭儀を写真とともにたどっていく。荘厳で神秘的な雰囲気をまとったその様子からは、日本人が守り継承してきた伝統の美しさが窺える。
 しかし、伊勢での式年遷宮が現代に果たす役割とは一体何なのだろうか。本書に掲載されている論考「式年遷宮の意義」では、式年遷宮が「循環再生型文明のモデル」であると紹介されている。生まれ変わることで「永遠の美」を保ち続ける伊勢神宮。高齢化や震災によって疲弊した日本社会が、古くから伝わる先人たちの知恵に学ぶ意義は大きいであろう。関連する他の論考とあわせて、ぜひご一読いただきたい。
 また、特集「宗教者ニューウェーブ」では、大阪の釜ヶ崎が取り上げられている。日本の無縁社会、格差社会の典型ともいわれている同地域は、全国最大規模のホームレスと生活保護受給者が暮らす場である。今回はそんな釜ヶ崎において人々の救済に取り組む7人の宗教者たちが紹介されていた。
 釜ヶ崎には布教伝道を直接の目的とせず、社会状況の改善に重きを置く団体や、韓国から来日したキリスト教会を中心に「ホームレス伝道」を積極的に行う団体など、様々なキリスト系団体が存在する。しかし、いずれの団体も、地域の人々に寄り添うかたちで支援を行うことが大切だと主張する。信者集団形成の難しさから活動の継続が困難となる団体も見受けられるが、今回の特集では、そうした苦難にぶつかりながらも、日雇い労働者たちの心に寄り添い、「伴走的な支援」を行う宗教者たちの姿が如実に写し出されていた。こうした無縁社会で活躍する宗教のあり方は、今後の「日本社会における宗教のありよう」を考えていく上でもよい参考となるであろう。
 さらに、同特集では、インターネット寺院「虚空山彼岸寺」など、メディアを駆使することで多くの人が宗教に触れられる機会をつくろうとする若き宗教者たちの活躍も取り上げられている。あわせて読まれることで、現代の宗教界で起こりはじめている新たな革命の波を実感していただきたい。
 最後に、本書の内容を深めるためにも、巻末のデータ集をぜひチェックしていただきたい。話題の用語や新語はもちろん、2012年の国内外における宗教ニュースや「気になる数字・データ集」など、役立つトピックが盛りだくさんとなっている。本書は、宗教と現代を考えるためのエッセンスがたくさん詰まった、まさに宗教と現代がわかる一冊であると言えよう。
 
参考URL: http://heibonshatoday.blogspot.jp/2013/03/2013.html