文字サイズ: 標準

宗教情報PickUp

バックナンバー

書評 バックナンバー

2023/03/07

ミュリエル・ジョリヴェ著 鳥取絹子訳『日本最後のシャーマンたち』草思社、2023年、2200円+税。


 

 ベルギー生まれの著者はパリで学び、フランス国籍をもつ、日本在住約50年の日本学者である。著者は、困ったときに日本の友人に相談すると決まって神様と交信できる人のところに行くよう勧められた。異文化で育った研究者の目からみれば、日本人と目に見えない存在の近しさは好奇心をくすぐり、研究対象ともなる。
 ここではシャーマンを広い意味でとらえ、霊媒師だけでなく超感覚や超知覚能力のある人を含めている。著者は、東北のイタコや沖縄で祈祷や霊との交信を行うユタだけでなく、タロット占いや催眠療法、人生相談などの肩書きで仕事をしている人々にインタビューを行い、彼らが特殊能力を発揮するようになった経緯や活動内容を紹介する。
 彼らは悩み相談に応じるだけでなく、西洋医学で治せなかった病気を治したり、神や死者と交信したり、除霊やお祓いをしたり、紛失物を探し出したり、未来を予言したりする。あり得ないような話が満載で、体の一部が消えて写った不思議な写真なども掲載されている。
 神が実在するのか、人は生まれ変わるのか、あの世はあるのか、超能力はあるのか、などを証明することは難しい。彼らの信頼性は、多くの客に支えられて、その仕事を長年継続していることにある。ただ、イタコの口を通した語られる死者と依頼者の間にしかわからない内容や、死者そっくりの語り口調で喋ることなどからは、見えない世界があるとしか思われない。著者自身もイタコに亡くなった祖母の口寄せ(死者との対話)をしてもらって涙し、東京の催眠療法師に骨の異常を透視で的確に当てられる。ただ、そのほかは彼らの言葉をそのまま記載していることが多く、裏付けに乏しいのが難点であろう。何人かは東京オリンピックがうまくいかないことを含めて明るくない未来を予言しているのだが、インタビュー時期が明記されていないのが残念である。
 男性のユタも登場するが、登場するシャーマンは圧倒的に女性が多い。盲目女性の受け皿でもあったイタコのように差別的な扱いを受けてきた女性もいる。困難な状況にあろうとも、というよりも逆境を潜り抜けたゆえか、彼らの精神性は高く、多くの人々の悩みに向きあってきた彼らの言葉は金言でもある。共通しているのは、「人生は自分の思い通りにならないのが普通」であり、「自分の人生を生きるのは自分」で、他人任せにしてはいけないということである。病気になる原因も自分で、彼らにアドバイスを求めたとしても最終的に判断するのは自分であると、彼らへの頼りすぎをも戒めている。
 彼らの金銭欲が低いのも共通であろう。イタコを例にとれば、組合によって、口寄せの場所は自宅か恐山のみで、1回5000円と統一料金が定められている。だから、電話で占い、高額な料金を取るイタコは、偽物とすぐわかるという。また、ある霊能者は、現金を受け取ると病気になるとして、スピリチュアル・カウンセリングでお金を受け取ることを断っている。昨今、「霊感商法」が問題になっているが、高額な支払いは偽物の証明かもしれない。
 登場する不思議な能力をもつ人たちは、幼少期から能力をもっていた人もいれば、能力が突然開花した人もいる。ただ、時間的にも心身的にも犠牲が大きいこの仕事を積極的に誰かに継がせようという人は少ない。タイトルに「最後の」とあるのは、北海道のアイヌのシャーマンもイタコも後継者不在で消滅の危機にあるからである。その点では、本書は貴重な日本文化の記録でもあろう。

(宗教情報センター研究員 藤山みどり