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2018/02/01

『アメリカ創価学会<SGI-USA>の55年』秋庭裕著 新曜社
『アメリカ創価学会における異体同心』川端亮・稲場圭信著 新曜社

2017年11月 1800円+税

2018年1月 1600円+税

 創価学会は、827万世帯の信者をもつ一大新宗教である。その国際組織である創価学会インタナショナル(SGI)は、世界192カ国・地域に1200万人以上の会員数を誇る。日本の宗教団体で、これほど海外で受容された団体はない。アメリカ創価学会(SGI-USA)には2010年の時点で11万人超のメンバーがいる。1997年の調査ではメンバーの4割を白人系が占め、全米の白人比率7割超に比してもアメリカでの浸透度の高さがうかがえる。

 この2冊は、著者らが2005年から2015年までインタビューを中心に現地調査を重ね、SGI-USAの歩みと日蓮仏法の受容のされ方とその変容を追った労作である。創価学会とSGI-USAの大いなる協力を得た賜物であるが、客観的な学術調査の成果である。

 『アメリカ創価学会<SGI-USA>の55年』は、SGI-USAの歩みを一次資料や関係者の証言をもとに綿密に、ほぼ経時的に追っている。この一冊を生み出すために、どれほどの資料を読み込んだかうかがい知れない凝縮された情報量である。55年というタイトルだが、アメリカにおける草創期の創価学会の活動を牽引したジョージ・M・ウィリアムス(改名前は貞永昌靖)SGI-USA(前身のNSA含む)初代理事長の活動期(1960年代初頭~1992年)がメインである。組織運営の変遷については、日本における創価学会の動きにも目を配りながら、彼と池田の運営方針やリーダー論のすれ違いを、両者の著述から浮かび上がらせる。

 1960年代、戦争花嫁として米国に渡った日本人女性が創価学会を広めたことはよく知られている。池田大作(現創価学会名誉会長・SGI会長)が1960年に創価学会会長(当時)就任後すぐにハワイを初めとする北南米の都市を訪問し、彼女たちに現地への適応を促す指針を発表した。以来、日本人からアメリカ人へと教えが広がっていく。

 初期の創価学会の広宣流布スローガンのひとつに随方毘尼(ずいほうびに=仏法の本義に違わない限り、各国・地域の風俗・習慣や、時代の風習に従うべき)という考え方があるが、ウィリアムスに解釈のズレがあったという指摘が哀しい。ウィリアムスは大規模なコンベンション(大量動員型のイベント)を毎年開催し、入会したのはヒッピーが多く退会者も多かったとはいえストリート折伏というキャンペーンでメンバーを増やした。

 だがアメリカ人のメンバーが増えてくると、日本人を中心とした集権的組織による拡大路線と、日蓮仏法と関係がないと思われる日本的慣習や日本文化に対する疑問の声が沸き起こる。不満が蓄積してニューヨークやロサンゼルスに混乱を来たした結果、アメリカの創価学会は路線変更し、1976年に組織的な折伏を停止して民主的な組織運営を行うフェイズ2と呼ばれる時期に入る。だが活動は停滞し、ウィリアムスのコンベンション路線は、1980年の池田訪米を機に復活する。それが1990年の池田訪米で再び方向転換が行われ、ウィリアムスの時代は終焉する。この時期の池田とウィリアムスの動きの背景を、日本における創価学会と日蓮正宗の対立の問題と関連付けて紐解いているのが興味深い。

 折々に挿入されるSGI-USAのメンバーが語る信仰の魅力は、直に接した池田の人柄と唱題の功徳に集約される。従来から、題目を唱えるというシンプルな信仰実践が、創価学会が海外にも広まった一因とされる。この辺りを著者は祖師の言葉などから考察しているが、これは姉妹編への橋渡しのようでもある。次の書籍ではメンバーへのインタビューを宗教社会学における回心論の観点から分析していて、唱題に功徳がある理由が彼らの日常言語による語りから会得できる。

 『アメリカ創価学会における異体同心』は、序章でSGI-USAの55年の要点を、目次を見るだけで一目瞭然というぐらい簡潔かつ十分にまとめていてわかりやすい。そのうえで、SGI-USAが異文化で受容された理由について的を絞って考察している。また、前掲書では紙面が足りなかったと思われる、1990年代以降のアメリカ人を中心としたSGI-USAの再発展の背景についても詳しく分析している。

 その切り口は、①アフリカ系アメリカ人やゲイなどマイノリティのメンバーの信仰理由、②SGI-USAへの入信過程、③SGI-USAの組織の推移、④経典や機関紙誌の翻訳の問題、⑤「師弟不二」という教学上の焦点の受容の5つである。これらは、SGI-USAの成功の秘訣とも言うべきものである。前掲書よりも教学の受け止め方に踏み込んでおり、信仰受容の背景を深く知ることができる。これは、本書で「二段階の英語化」と表現される翻訳の変化によって1990年以降にメンバーの教学理解が進んだこととも関連があるだろう。

 多民族社会であるアメリカにおいては、「異体同心」という教えや、信仰を介して多様な人々と交流できることがマイノリティの心にヒットしたという事実は、外国人の流入が予測される日本の宗教界にも参考になりそうである。1991年に日蓮正宗が創価学会を破門したことが、LGBTグループがSGI-USAに誕生したきっかけであるのが面白い。

 SGI-USAへの入信と回心過程の分析は、メンバー20人への聞き取りをもとにしている。日蓮仏法がアメリカで受容された理由は、端的には現世利益と現世肯定的な「一生成仏」(この世で悟れる)の教え、公正・平等・共存の思想などである。著者(稲場)が「自利」「利他」のキーワードに寄せて描き出したメンバーたちの「人間革命」のダイナミズムは、信仰継続の有用なモデルとなるだろう。難を言えば、SGI-USAとイギリスの2教団との入信過程の比較も行っているが、母集団を反映したサンプルではないうえにサンプル数が少ないため、%数値で表記して数量比較をするのはどうかと思われた。

 SGI-USAの組織の推移に関しては、1994年から1997年にかけてタテ線の組織からヨコ線の組織「ジオリオ制」に再編成された理由とその利点が明らかにされている。

 「師弟不二」という1990年から多用されて2005年ぐらいから浸透した教学用語の受容の背景としては、アメリカでの解釈のされ方や社会的要因がいくつか提示されている。ビデオと書籍を通じてしか池田を知らない青年メンバーでも「師弟不二」の師として池田センセイを崇めているのは、やはり、「師」の概念とその伝え方が成功しているからだろう。
 本書では触れられていないが、アメリカでは日本のように週刊誌などから余計な情報が入らないのもよいのかもしれない。創価学会は巨大組織であるだけに、日本ではタブー視されたり、有象無象の情報が流されたりしていて、なかなか実像を捉えにくい。日本の創価学会とSGI-USAの組織体は異なるものであるが、SGI-USAを通して創価学会や池田を客観的に捉えることができたような気がする。

 本書は宗教団体の活動をテーマにしてはいるが、異文化交流や組織・リーダーの在り方を考えるうえで重要なヒントが詰まっており、宗教関係者だけでなく、海外交流を図る諸団体や産業界の関係者にも一読の価値があるだろう。

(宗教情報センター研究員 藤山みどり)