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2012/11/12

『韓国はなぜキリスト教国になったか』 鈴木崇巨(著)
            春秋社 2012年9月 2200円(税別)
『韓国とキリスト教』浅見雅一・安廷苑(著)
            中央公論新社 2012年7月 780円(税別) 


 韓国は総人口の約3割がキリスト教徒である。プロテスタントとカトリックの比率は、ほぼ2対1とプロテスタント信者が多い。首都ソウルには信者数100万人とも約75万人とも言われる世界最大のプロテスタント教会があり、李承晩・初代大統領も李明博・現大統領もプロテスタント信者である。韓国にキリスト教が浸透した理由は何なのか。この疑問に答える本が2冊、出版された。今回は読書に誘うための紹介というよりも刊行から時が経った書籍ということで、内容に踏み込んで比較材料として取り上げたい。
 
 『韓国はなぜキリスト教国になったのか』も、「いかにして“国家的宗教”になりえたか」とのサブタイトルを冠する『韓国とキリスト教』も、似たような構成である。韓国の歴史を、仏教を国教とした高麗(918~1392年)時代から1784年のカトリック宣教開始、1884年のプロテスタント宣教開始、プロテスタント信者数が飛躍的に伸びた1970~80年代、そして現代へと辿るなかで、キリスト教が教勢を伸ばした理由を見出していく。しかし、結論は対照的である。
 
 『韓国はなぜ・・・・・』の著者は日本人で40年間牧師を務め、現在は在日大韓キリスト教会に通っているというが、この背景が前面に出ている。ひと口で言えば、韓国プロテスタントの自己分析である。キリスト教のエッセンスを紹介するとともに韓国人気質のポジティブな側面を強調しており、プロテスタントや韓国への思い入れが強く感じられる。信徒急増の要因は、都市化など社会的影響よりも宗教活動の影響が強いとしており、牧師や信徒へのアンケートなどから「キリスト教の魅力」「韓国人の純粋性とキリスト教との合致」など3つに集約する。殉教者を多く出したことが信用につながったともいうが、日本人には理解しがたいものがありそうだ。だが、伝道重視の布教、「ネヴィアス方式」と呼ばれる布教方法、キャンパス伝道、「夜明け前祈祷会」など、韓国のプロテスタント教会の活動の特徴がよくわかる。韓国の聖職者や信者の考え、韓国人の考え方についての考察が多く、受容できるかどうかは別にして、韓国人信者の考え方をよく伝えているようだ。
 
 これに対して、『韓国とキリスト教』はキリスト教史が専門の日韓の学者による共同執筆で、オーソドックスな展開だ。韓国人の安はキリスト教徒だというが、客観的な記述である。当初、2人の間に韓国教会に対する認識の差があったそうだが、その差が上手に埋められているようで、『韓国はなぜ・・・・・・』には覚えるだろう違和感がない。こちらもキリスト教が浸透したのは外部的要因よりも内部的要因が強いとの結論だが、着眼点は異なる。韓国のシャーマニズムや儒教の影響、キリスト教への橋渡しとなった「天道教」の存在など、韓国人の精神性とキリスト教との類似性をいくつか挙げて理論的に考察している。日本ではキリスト教受容のネックとなった祖先崇拝への韓国教会の対応や、宣教師たちが訴えた「選民意識」の効果については、非常に納得いくものがあった。アメリカの影響など外部的要因の仮説については、俎上に載せてから否定しているので、説得力をもつ。1970年代からの急成長については社会的変化によるもので、根本的な浸透要因とは異なる。

 宗教的視点か学術的視点か、あるいはプロテスタント寄りか否かという2冊の書き手のスタンスの相違は、次のような点にも見られる。
 宗教別人口の比率について、前者(『韓国はなぜ・・・・・』)では“仏教徒の数値はあいまいだがキリスト教の数値は精度がかなり高い”というが、後者(『韓国とキリスト教』)では、“プロテスタントについては信者の重複や信者数の誇大報告があり、各教会の公表信者数を合計すると総人口を超えるという話もある”と正反対の見解である。
 世界最大のプロテスタント教会に成長した「ヨイド純福音教会」のチョウ・ヨンギ牧師の成功理由を、前者は“彼自身が熱心に聖書を読み祈り、信徒にも熱心に祈り学び、伝道することを強調したため”と信仰姿勢に見出すが、後者は“韓国が貧しかった時代に彼が神の祝福を説き、現世の富と成功を求めることを肯定したことが大衆の心をつかんだ”と説法内容に見る。
 1907年に平壌で始まった「リバイバル(大復興)」と呼ばれる教会の成長期については、前者は“病気の癒しや異言などの聖霊体験が広がった”と説明するが、後者は、“教会内部の軋轢が顕在化し、抗日運動との結びつきが警戒された時期に集会が拡大した”と社会的な背景から説明する。
 1990年代にカトリック教徒は増加したがプロテスタント教徒はマイナス成長に転じた理由について、前者は“さまざまな活動で忙しいプロテスタントより、安定した静かな祈りを求めてカトリックに転向”など両者の信仰生活の違いを、後者は“カトリック教会が1980年代までの軍事政権に批判的だったことが信頼を得た”など教会の社会的姿勢の違いを理由に挙げる。前者からは、韓国のプロテスタント教会の特性が透けて見えるようだ。
 後者が、韓国教会のアフガニスタン人質事件やカルト、腐敗など問題点にまで目を配っているのに対して、前者ではほとんど触れていない。後者では、韓国教会の特性が、拡大理由にもなれば問題を生じる理由にもなることにまで言及している。後者のほうが、タイトルどおり『韓国とキリスト教』全体を俯瞰して客観視するのには適している。だが、「聖霊体験」など韓国のプロテスタント信仰者の内的事実を理解するためには、前者にも目を通しておく必要があるだろう。もし、韓国にプロテスタント信徒が多い理由を真に理解しようとするならば、併読することをお勧めする。
 
(宗教情報センター研究員 藤山みどり)
 


●2015年10月12日 追記『韓国はなぜキリスト教国になったか』に関して

 同書は、鈴木崇巨(すずき・たかひろ)牧師が、文化人類学者の川喜田二郎がデータをまとめるために開発した「KJ法」により、韓国の牧師と信者へのアンケートを通して、韓国人がみる韓国におけるキリスト教急増の理由をまとめたものである。著者が執筆した『聖霊クリストファー大学社会福祉学部紀要』No.8(2010年)掲載の論文「韓国はなぜ短期間にキリスト教徒多数の国になったか」は、この書籍の土台となった研究報告である。KJ法により把握された、韓国のプロテスタント教徒自身が考える急増の理由が細かく記載されている。興味のある方は参照されたい。
 なお、『韓国はなぜキリスト教国になったか』は、2013年には英語版と韓国語版も出版された(下記参照)。日本からでもインターネット等を通して入手できる。

◀英語版
What Made Korea Become a Christian Country?
2013年9月 PowerMeUp Publishing
Takahiro Suzuki著、Allen Williams, Sulseob Jo訳
ペーパーブック、電子書籍版
 
◀韓国語版
일본인이 놀라운 기독교의 나라 한국

2013年10月 쿰란출판사(クムラン出版社)

스즈키다카히로김인과
※在日大韓基督教会の牧師による翻訳