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2012/03/12

『宗教と現代がわかる本2012』
渡邊直樹(責任編集) 平凡社 2012年2月 1600円(税別)

 2011年3月11日から一年が過ぎた。各種メディアや書籍において震災を振り返る特集が組まれる中、今年も『宗教と現代がわかる本』が発刊された。

 宗教年鑑としての特性を活かし、様々な宗教者たちの震災時の取り組みをまとめているところが本書の強みである。「大震災後の日本人の生き方」と題された特集では、死者数が多かったゆえに発生した弔いの問題と読経ボランティア活動、宗教者たちによるこころのケアや社会支援といった具体的な取り組み、被災地における寺社の当時の動きと役割といった内容についての報告が詳しい。また、宗教と震災後の社会との関わりを大きな視点で考えさせる二つの対談に加えて、個人的な経験や記憶を通じた視点も提示されている。この特集を通して、個々人の内面から社会全体の思想にまで関わりうる宗教の姿やその意義を、新たに学ばされることとなろう。

 冒頭の特集の他にも、充実した多種多様なテーマが並ぶ。とりわけ、「アラブの春」と呼ばれる2011年の大きな動きを背景にした論考が興味深い。イスラームと民主主義について、またアフリカの民族紛争や宗教対立について本書から得られる知見は、今後の世界情勢を考える上で不可欠なものであろう。また、震災に端を発した原発事故に関する論考も見逃せない。茨城県東海村の臨界事故に巻き込まれた母親の体験を述べたレポート「核という呪い」は、核と個人の関係を徹底的に見つめた視点だからこそ、実感を伴った核の存在を伝えている。続くフランスの原発に関するレポートや、特集内の論考「原発と科学者の責任」、そして対談「脱原発の思想と宗教」も併せて読まれることをすすめたい。さらに今年から新たに加わった人物評伝においては、宗教を持って時代を生きた二人の生涯がつづられている。信仰心を宿した個人の生き方は、現代人の生き方にも大きな示唆を与えてくれるであろう。

 そして、本書の大きな特徴でもある巻末のデータ集も健在である。用語解説や2011年の国内外の宗教関係のニュース、気になる人物の発言集や物故者、加えて宗教に関する書籍の書評や映画から読み解く宗教など、今年も充実した内容となっている。また詳しい索引もついているため、普段気に留めていた用語や出来事などから本書を読み進めていくことも可能だ。

 本書は多くの出来事が巻き起こった2011年を整理し、新たな年へ向かうための助けとなる一冊である。

 

 (玲)