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- 『バラエティ化する宗教』 石井研士(著)
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書評 バックナンバー
2011/01/16
『バラエティ化する宗教』
石井研士(編著) 青弓社 2010年 2000円
インターネットなど多くの情報発信源が乱立する現在でも、テレビ番組やテレビ報道が人々に与える影響は大きい。それは宗教についても同様であり、無自覚で 見ているテレビに無意識のうちに「宗教」像が作られてしまう。そして、宗教はもはやエンターテインメントとして、バラエティ番組で取り上げられるまでに なっている。このような由々しき事態をみて、宗教とメディアの関係を長年研究している國學院大学教授の石井研士氏が中心となって、中堅・若手の宗教学者た ちと宗教とテレビとの関係を考察したのが本書である。テレビにおける宗教のバラエティ化については、「ステレオタイプ化する宗教的リアリティ」の章において石井氏がデータから検証している。
それを宗教と呼ぶべきかどうかはさておき、一時期は社会現象にまでなった“スピリチュアル・カウンセラー”の江原啓之氏が登場する『オーラの泉』(テレ ビ朝日系列、2005年4月~2009年9月)は、オーラや霊視、前世などを肯定的に扱った点で物議を醸した番組である。これについては、これまでも多く の学者やジャーナリストが分析を施し、本書でも多くの執筆者が検証している。超常番組の経時的な変化やスピリチュアル番組の日米比較などもあるが、「放送 コードと霊能者」と題した菅直子氏(國學院大學大学院文学研究科博士課程)の論考には、類例のない面白さがあった。テレビ番組は制作者側と視聴者側の相互 作用によって成り立つもので、批判されるべき番組があったとしても、それを受容する視聴者がいれば存続する。この当たり前のことを深く掘り下げ、「霊能等 を肯定的に取り扱わない」という放送基準がありながら『オーラの泉』のような番組が成立した背景を、制作者と視聴者のテレビ観から語っている。テレビが世 間に浸透し、制作者と視聴者双方にある意味成熟したテレビ観が存在していたことが、このような番組を成立させた背景にあると指摘している。放送基準の現状 について興味を持たれた方は、石井研士氏の『テレビと宗教――オウム以後を問い直す』(中公新書ラクレ、2008年)をも参照されるとよいだろう。 |
現在、一大ブームを築き上げた江原啓之氏や細木数子氏はテレビから姿を消したが、その後も占い師やユタ、陰陽師などがアドバイスを与える『うわさ体感バ
ラエティ くちこみっ!』(フジテレビ系列、2010年4~9月)や、占いや透視、スピリチュアルカウンセリングで悩みを解決する『金曜日のキセキ』(フ
ジテレビ系列、2010年10月~)など同様の番組は放映され続けている。同様に「スピリチュアル」は鳴りを潜めたが、「パワースポット」はテレビで頻繁
に取り上げられている。これも“エンターテイメント”と割り切って番組を作る制作者・放送局側と、それを暗黙のうちに了解している“大人となった視聴者”
の関係性故なのだろう。 (宗教情報センター研究員 藤山みどり) |