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2010/08/05

『アメリカ仏教 仏教も変わる、アメリカも変わる』
ケネス・タナカ(著) 武蔵野大学出版会 2010年 2100円(税込)

 著者は日系二世の親のもとアメリカ西海岸で育ち、約10年前までアメリカで活躍していた仏教学者兼浄土真宗の僧侶である。アメリカにおける仏教徒は、1960年代前半には引け目を感じるほど少数だったそうだが、その後、急速に増加して、現在は約300万人の仏教徒がいるという。そして今や仏教の各宗派が世界で最も多く集まっている都市はロサンゼルスだそうである。本書では、日本の伝統仏教の進出という狭い範囲ではなく、チベット仏教やテーラワーダ仏教、瞑想を中心としたアメリカナイズされた仏教までをも含めたアメリカ仏教の特徴とその伸長の背景が、著者の体験を交えて明らかにされている。

 アメリカ仏教を著者は(1)旧アジア系仏教徒、(2)新アジア系仏教徒、(3)瞑想中心の改宗者、(4)題目中心の改宗者の4つに分類する。(1)と(2)はアメリカへの移住者が基本で、日本の伝統宗派や中国など、アジア系移民の仏教徒は(1)で、台湾や韓国、東南アジアなどから来たアメリカでの歴史が浅い仏教徒が(2)に分類される。(3)と(4)は改宗者だが、(3)が信仰する宗教は禅やチベット仏教、テーラワーダ仏教で、(4)はSGI(創価学会インタナショナル)などである。推定人数からすれば(2)が約135万人と最も多く、次に(3)の約120万人となるが、アメリカでの伸びという観点から、(3)を主眼に話が展開される。

 アメリカ人が仏教に惹かれる最大の理由を、著者は瞑想(メディテーション)にあると見る。瞑想を伝えたのは日本の禅、チベット仏教、東南アジアのテーラワーダ仏教で、いずれも日常生活の中での実践=瞑想を重視する。儀式化したキリスト教やユダヤ教に比べて、宗教性を実感できる点が人々を魅了するという。受容された理由としては、他にも平等、個人化、超宗派、参加仏教(エンゲイジド・ブッディズム)など、現代のアメリカ人が好む特性をキーワードとして分析している。さらに、科学や心理学など仏教への入り口となった接点までも追求されている。
 このように見てくると、アメリカで東洋宗教の魅力とされる点は、日本の仏教に欠けているもののようでもある。日本の禅にしても、冠婚葬祭ではなく座禅を中心にしたことや老師の個人的な魅力が人気を博した理由である。チベット仏教の魅力はダライ・ラマ14世のユーモア、そして宗教的な寛容性などである。仏教がアメリカに同化するに当たっては、伝統と相反するなどの問題も生じてはいる。だが、それでもなおアメリカの仏教徒は増え続けている。そういう意味において、日本の伝統仏教の方向性を考えるうえでも、本書は示唆に富んでいる。整理された説明やちりばめられた写真も興味深い。

(宗教情報センター研究員 藤山みどり)