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2010/02/01

『宗教と現代がわかる本2010』(2)
渡辺直樹(責任編集) 平凡社 2010年 1600円(税別)

■うしろから読めばわかる本!

  2007年に『わかる本』がはじめて刊行されたときから、私は「この本はうしろから読め」と勧めてきた。一年間の宗教関係データ集のうち、多くの読者が ほっておいても読むであろう章をのぞいて、私が「読め」と申し上げたいのは、国内外のニュース、発言や物故者、数字とデータ、である。

 宗教界の動向は、いっとき私たちが気にはとめても、すぐに、猟奇的な事件、政財界の不祥事や失言、芸能界の色恋沙汰やお笑いタレントの流行らす語に押し 流され、忘れられてしまう。日本の多くの新聞やテレビなどのメディアのほとんどは、宗教を継続的に専門的に担当する記者を持たない。せめてこのデータ集を 押さえて、宗教について考えたい。
 
力の入った特集「宗教と映像メディア」や、貴重な語り手との対談は、もちろん読み応えのあるものだ。特集は、映像をみる研究者と、制作する当事者である想 田監督の記事をあわせて読んでほしい。また、日本人としてはじめて、イスラームの聖地メッカに招かれて写真を撮ってきた、いわば聖地写真家の野町和嘉のグ ラビア「聖地と祈り」は、全体像を捉えるだけでなく、はしっこに写っている小さな人・小さなものも眺めてほしい。聖地の圧倒的な力だけでなく、そこに集ま る人々によっても、聖地は作られているのだと感じられるだろう。「旬」の水木しげるを語る人物ルポは肩の力を抜いて楽しめるはずだ。

 個人的には、イスラームの宗派教育が国際的に人の移動する現代にどうなっているか、臓器移植医療において守られなければならない「弱者」が誰かを考えさ せる章、また、裁判員制度を宗教者がどう受け止めたかの章、薬物が大量に流通してしまう背景を考えた章を興味深く読んだ。一方、浦上天主堂や社寺のたどっ た歴史、「仏教食」の多様さなどについて読者に驚きを与えてくれる章もある。

 10年、20年後に、本書をめくっては、そういえばあのときは!と、宗教界の出来事と個人的な思い出が同時に想起されるのが、楽しみでもある。
(葛西賢太 宗教情報センター研究員)