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2010/02/01

『宗教と現代がわかる本2010』(1)
渡辺直樹(責任編集) 平凡社 2010年 1600円(税別)

メディアに見識を持つことが大事!

  『宗教と現代がわかる本』シリーズは2007年以降毎年出版され、今回2010年の発行をもって第四回を数えます。社会から注目される時事ネタはもちろ ん、諸学会で今まさに議論されている旬のテーマまで、幅広い読者層の興味関心に応えるトピックが盛りだくさんです。例えば、「中国共産党によるチベット仏 教弾圧の歴史」と題した石濱さんの解説では、一般的には北京オリンピック前後に世界的注目を集めたチベット問題に対して、中国とチベットの関係から歴史を 遡ってわかりやすく解説しています。どのテーマも約4頁にまとめられており、移動の電車や空いた時間で手軽に読めるのも本書の特徴です。
 
 また今回2010年版で注目すべきは、特集「宗教と映像メディア」です。テレビや映画といった映像メディアの登場から今ではインターネット上に動画情報 があふれていますが、映像メディアがもたらす宗教と社会との関係はいかなるものでしょうか。宗教の側からは、映像メディアを布教手段と位置付け利用する姿 勢もしばしばみられますが、一方でメディアの報道は、宗教関連のネガティブな情報に偏重しがちであることは否めません。また近年におけるメディアの動向と しては、スピリチュアルという言葉をこぞって取り上げ、今はそのニュアンスを含意した「癒し」や「パワー」という言葉が世間のブームになっています。そこ で同特集では、社会に対するメディアの影響力についての議論から始まり、多様な情報から私たち視聴者が正しいモノを選択するための知識、いわゆる「メディ ア・リテラシー」を改めて読者に提示しています。
 さらに同書の最後には、「データ集」として2009年に起こった宗教に関する様々なジャンルの出来事がコンパクトに紹介されています。本書の「テーマ」 や「特集」は社会から注目を集めた宗教問題をもとに組まれているので、「データ集」を辞書代わり使うことも、本書の理解を深めることにつながるでしょう。
 これまで、「テーマ」と「特集」、そして「データ集」という、大きく3つの部分に分けて紹介しました。しかし、それらを相互に関連させて読み進めていく ことで、宗教についてより深い洞察と理解を身につけられるのではないでしょうか。本書には、身近な社会の仕組みから国際社会の問題まで、宗教という視点か ら見つめ直すことで解る新たな「発見」がたくさん詰まっています。
蔵人