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日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

NHKスペシャル「いのち 瀬戸内寂聴 密着500日」

2015/11/22 (Sun) 21:00~21:49 NHK総合
キーワード
瀬戸内寂聴、小説、いのち
参考
番組公式
 今回取り上げるのは瀬戸内寂静である。92歳になった今でも、僧侶として悩み苦しむ人がいれば日本中どこへでも飛び回っている。震災後、東北にも度々訪れている。
 しかしその生活は僧侶とはかけ離れている。寂聴は90歳を過ぎても人気の流行作家であり、執筆のためには徹夜も辞さない。さらに大好物は肉で晩酌はほぼ毎日している。
 
 そんな元気いっぱいであった日々が突然暗転してしまう。度重なる病魔が寂聴を襲ったのだ。2014年5月、腰痛圧迫骨折と診断され、コルセットをしないと堪えられないほどの痛みに襲われた。やがて追い打ちをかけるように新たな病が見つかった。胆嚢がんである。手術は全身麻酔を要し、90歳を超えた寂聴には危険なものであった。それでも寂聴は「人生の最後に変わったことをする」といって手術を決めた。差し迫ったこの状況をも書く力に変えようとワクワクしていた。
 
 寂聴は京都市右京区嵯峨野に住まいを定めて42年になる。その住まいは寂聴の仕事と生活の拠点であり、「寂庵(じゃくあん)」と呼ばれている。2014年9月下旬に手術を終えた寂聴は寂庵に戻ってきた。寂聴は退院後、週2回のリハビリテーションに熱心に取り組んでいた。もう一度小説を書きたいという気持ちが寂聴を突き動かしているように見えた。
 
 寂聴は26歳の時、夫と娘を捨て年下の男性と出奔。33歳、瀬戸内晴美として文壇デビューを果たした。愛と自由を求める女性の魂を400冊以上書き続けてきた。出家し寂聴となったのは昭和48年11月。51歳の時である。色欲を絶ち自らを文学へと追い込んだ。
 そして今、寂聴が一番大事としているものは文学である。「私の宗教的な何かを信頼してくれるよりも私の文学を信頼してくれる人の方がありがたいと思う。文学のために出家した」と語ってくれた。
 
 2015年5月10日、寂聴は退院後初となる長編エッセイを執筆し始めた。入院前までは「生き飽きた」と言っていたが退院後、死に対する考え方は大きく変化したようだった。
 その数日後、寂聴の目には輝きがあった。闘病記のタイトルが決まったのだ。『いのち』。新しいタイトルだ。この『いのち』という広い意味のタイトルにすることによって後に引けないものが出てくるようだ。
 
 『いのち』には「与えられた命は生きる」という寂聴の覚悟が綴られていた。自分の力の限界や、もう書けないと思ったことがあるかという質問に「私はない。まだ満足していないから」と答えた。寂聴は未来の自分に期待している。もちろん1日に書ける量は若いときの半分になった。それでも『いのち』を1枚ずつでも書き進めている。今日も寂庵に流れる時間は賑やかだ。人生はまだ進行中。