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日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

日曜美術館「みちのくの仏像~木に託した人々の祈り~」

2015/1/18 (Sun) 9:00~9:45 NHKEテレ
キーワード
一木造、仏と神への信仰、土着の文化、個人的な祈り、仏像
参考
番組公式
 司会の井浦新をはじめ、クリエーティブ・ディレクターの箭内道彦、彫刻家の三沢厚彦といった現代のクリエーター達が冬の東北を訪ね、あらゆる仏像の魅力とそこに込められた祈りに迫る。
 福島・大蔵寺には、重文である千手観音菩薩立像や厳しい気候にさらされボロボロに朽ち果てた仏像群があった。東北地方では、都で複雑な造形を可能とする寄木造*が主流になっても、絶えず一木造**が大切にされてきた。それは、仏像がカヤの木という(神が宿るとされる)霊木を用いて作られ、都の仏像のように美しく造るよりもいかに自然な形を残すかが重視されたからであり、東北の地の力強さや仏と地域の神への両方の信仰を表している。
 他にも、険しい表情で蝦夷の地の戦乱の歴史が刻まれた薬師如来座像や、鉈彫り***という技法で、霊木に宿った神が仏の姿となって現れるその瞬間を表現した聖観音菩薩立像など、仏像がその地域特有の土着の文化を形作っていた。
 また、昔はよく仏像づくりが本職ではない人によって仏像が作られ、全国あらゆる人が個人的な祈りとともに傍に置いていたものだが、そのような像は青森や岩手を除いて全国にはもうほとんど残っていないようだ。そんな東北の仏像群は、いわゆる仏の装いや伝統、神々しさや慈悲の顔といった形に当てはまらず、もっと素朴で人間のリアルに近いものであった。かわいい顔をした鬼には、生まれてすぐに亡くなってしまった我が子を想う親の気持ちが、近しい人をモデルにしたような六観音立像には、大事なものは些細なことの中にあるごく個人的な濃いエッセンスであるということが込められているようにも見える。仏像は人々の個人的な深い悲しみを癒すために必要とされていたのだと考えられる。
 祈りの形も理由も様々に、東北の人々は一本の木から造った仏像一体一体にそれを込めてきたのである。
 
*寄木造:
仏像を造る際に、像を細かいパーツで分解し、複数の部材を組んで仕上げる方法。複雑な造形や小木で巨像を造ること、複数の仏師による制作を可能にした。
**一木造:
本来は一本の木材から仏像全身を丸彫りしたものをいうが、頭部と胴部が一本の木で造られているものも含む。大きな仏像は作れないが、一人の仏師の制作であるため仏師の理想が込めやすい。
***鉈彫り:
ノミで削った跡を残し、大まかな彫刻をする技法。特に、像身表面に丸ノミの彫り跡を縞模様に残した像を鉈彫像という。