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日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

ドキュメント72時間「恐山 死者たちの場所」

2014/06/06 (Fri) 22:55~23:20 NHK総合
キーワード
恐山、霊場、生者、死者
参考
番組公式
 「人は死んだらお山に行く」。日本ではもう何百年もそう信じられてきた。本州の北端、青森県の下北半島に位置する恐山。恐山は古くから東北の人々の信仰を集めてきた。そして、いまも恐山には全国から多くの人々がやってくる。彼らはどんな想いでやってくるのか。5月の大型連休に恐山を訪ねてくる人々。番組ではそうした人々を3日間にわたって取材することで、恐山を訪ねる人の想いに迫った。
 
 番組が取材を行った人物の大半は、家族や大切な人を亡くした人であった。そして、訪問者たちの多くが「亡くなった人がここに来ていると思う」と語った。恐山を訪ねた目的についても、「死者に声を掛けるため」「供養のため」など、やはり死者に関わるものが多かった。中には「ペットの供養のため」と答えた夫婦もいた。死者に自らの想いを寄せ、彼らに声を届けるため、人々は恐山を訪ねるのである。
 
 日本屈指の巨大霊場である恐山は、「イタコ」の存在でも有名である。イタコの口寄せは「死者の言葉を伝える」と昔から信じられてきた。死者と話すため、全国から人々がイタコを訪ねる。去年7月に妻を亡くした主人。彼は「妻が何を思っていたのか聞きたかった」という想いからイタコを訪ねた。そして、イタコの口寄せによって「十分に看護してもらった」という妻からの言葉を聞いたという。恐山は「生者が死者を近くに感じる不思議な場所」なのである。
 
 しかし、恐山を訪ねる人が皆、死者との交流を目的としているわけではない。御朱印をもらうために走る女性(霊場巡りが趣味らしい)や、温泉に入るために早朝から恐山を訪ねる人(恐山の霊場には温泉が4つもある)など、恐山を訪ねる人々の目的は実に多様である。霊場巡りが趣味の霊場ガールは、「ただ来たいから来ているだけ」だと話す。そして、自らについても「山ガールと同じじゃないですか」と笑顔で語った。早朝から温泉につかっている人々もまた満足げな表情で恐山での入浴を愉しんでいた。
 
 番組では、やはり一般的な恐山のイメージ、すなわち、生者が死者に「出会い」、両者が交流できる場としての側面が色濃く描かれていたが、筆者には霊場と呼ばれる場においても死者との交流を目的とせず、恐山での観光を楽しむ人々の存在が印象に残った。
 悲しみや苦しみ、切なさや悔しさなど、生者の死者に対するやるせない気持ちを受け止め、そうした人々の心を癒す場としての機能を恐山が担ってきたことは確かであろう。しかしそれと同時に、人々を楽しませ、生者に「笑顔」を与える場としての恐山の側面も垣間見ることができた。
 
 生者も死者も、そして、喜びも悲しみも、恐山はそうした対をなすものを調和させ、一つにしてくれる「場」であり、そこに恐山が今日においても人々を惹きつけて止まない理由の一端があるのではないであろうか。