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テレビ番組ガイド・レビュー

日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

ETV特集 シリーズ こころの新世紀(1) 「人とうまくつきあえない~いじめや虐待と自閉症スペクトラム~」

2013/03/03 (Sun) 22:00~23:00 NHK Eテレ
キーワード
ASD(自閉症スペクトラム障害)、いじめ、不登校、虐待、超早期療育
参考
番組公式
 ETV特集は、社会問題をはじめとし、文化や芸術、科学など様々なテーマを扱うドキュメンタリー番組である。今回はいじめや不登校、虐待に苦しむ子どもたちとASD(自閉症スペクトラム障害)とのつながりが取り上げられていた。このレビューでは、ASDの特徴や、早期から支援を行うことの重要性を紹介していく。
 そもそもASDという診断名のもととなった自閉症は、30年ほど前までめったに見ることのできない病気だとされていた。しかし、1977年に日本がはじめた「1歳6カ月乳幼児健診」によって、一見健常であるにもかかわらず、自閉症と同じ反応を示す子どもが多く存在することが明らかにされたのだ。自閉症は従来よりも裾野の広いものとして捉えられ、そうした子どもたちを治療するために、新たな診断基準が必要とされた。こうして誕生したのがASD(自閉症スペクトラム障害)である。ちなみに、自閉症スペクトラムとは、異なる複数の発達障害(自閉症やアスペルガー症候群、特定不能の広汎性発達障害など)を、自閉症を頂点に一つの連続体としてまとめた概念であり、スペクトラムという言葉は「連続体」を意味する。
 ASDの子どもたちは、知能や言葉に遅れはないが、社会性やコミュニケーションなどに障害があらわれる。そのため、本人に悪気がなくとも周囲との摩擦が起こりやすく、それが原因でいじめや虐待に発展してしまうケースも少なくない。また、いじめなどの迫害体験を受けた子どもが、心に傷を負うだけでなく、鬱病や拒食症、自傷行為といった病気を併発してしまうケースも非常に多いという。ASDと精神科の病気には強い関連があることも判明しており、鬱病などの2次障害を防ぐためにも、ASDの早期発見と適切な治療の積み重ねが重要だとされている。
 また、こうした流れを受けて、ASDを早い段階で発見し、様々な支援を行っていくための機関も登場してきた。そこで行われている支援の一つとして、番組では「超早期療育」が紹介されている。超早期療育は、社会性が一番のびると言われている3歳以前に、人と関わる楽しさを教えるなどして、社会性の向上を目指すものである。社会性の向上は、ASDの子どもが将来、社会で自立してやっていける可能性の拡大にも繋がるという。さらに、児童精神科医の杉山登志朗氏は、適切な治療の積み重ねによって、雰囲気を読むのは苦手だけれど、他者配慮も十分にできる、「ちょっと変わっているが、才能にあふれた普通の子」になっていく、と話していた。
 しかし、適切な支援や治療とあわせて、ASDという病気に対する理解を周囲が進めていくことも大切である。「ちょっと変わった普通の子」をみんなでサポートできる社会、そんな社会を実現していくことが、いま求められているのではないだろうか。

*なお番組HP(NHK Eテレ)によると、同番組は2013年4月13日(土)午後4時から再放送される予定です。