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日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

BBC地球伝説 「古代ギリシャ・神話の旅 後編 ギリシャからシチリア~ナポリへ」

2012/09/26 (Wed) 20:00~20:54 BS朝日
キーワード
ギリシャ神話 地中海 トルコ イタリア クレタ島 民間信仰 自然崇拝 ゼウス クロノス エウボイア人 テューポーン
参考
番組公式
※ギリシャ神話の源がエウボイア人にある、というこの番組の主張を支持する学術的情報を他には得られず、またフォックス教授の説明の引用にも不足が感じられるが、ここでは番組が主張したままに要約する。
 
 神々が戦い、沢山の怪物や巨人が暴れ、英雄が活躍するギリシャ神話の成立には、紀元前10世紀頃に地中海を旅したある部族が大きく関わっているという。エーゲ海西部に浮かぶエウボイア島(現エヴィア島)にルーツを持つエウボイア人だ。
 エウボイア人はギリシャ人よりも先に航海技術を発達させ、エウボイア島から地中海の様々な場所に拠点を置いた。その行く先々で見た景色、その地に伝わる伝説が後のギリシャ神話の由来になったという。彼らがどのような風景を見て、またどのような話を聞き、神々に思いを馳せたのだろうか。オックスフォード大学の歴史学者ロビン・レイン・フォックス教授がエウボイア人の足跡をたどる。
 トルコのアルミナ遺跡では、エウボイア人の作った陶器が発見されており、彼らが海を渡りこの地に移り住んだことを証明しているという。アルミナにはジャバル・アグラーという山がそびえ、エウボイア人がいた当時はマウント・ハズィーと呼ばれ、そこにはターフンタという嵐と雷を司る神がいるとされていた。エウボイア人が居住する400年前からヒッタイト人により崇められていた神である。
 前出のターフンタは自分の父であるクムアービから神の王位を奪ったと言われており、またクムアービもアヌという実の父から王位を奪っている。この関係はギリシャ神話における農耕の神クロノスがその父ウラノスを鎌で去勢した伝説や、その後クロノスが息子である全能の神ゼウスに倒される伝説と酷似している。エウボイア人はターフンタの伝説をアルミナ周辺の人々から聞き、自分たちの物語(後のギリシャ神話)に置き換えていったという。
 ギリシャのキプロス島にはアフロディーテが現われたと言われる海岸がある。キプロス島に渡ったエウボイア人は、もともと島に伝わっていた豊穣多産の女神を愛と美の女神アフロディーテとして彼らの神話の中に迎えたという。フォックス教授は「美しい風景は神話の説得力が増す」と述べ、海岸の美しい風景が愛と美の象徴としてのアフロディーテを後世の社会に浸透させる一つのポイントとなったのだと説明する。
 また、クレタ島ではアルミナで生まれたクロノスとゼウスの物語がさらに変化していく。島にあるマウント・イーダという山の中腹にはゼウスが幼少時代に隠れた洞窟がある。ゼウスはこの洞窟に身を潜め、クロノスを倒す機会を待っていたという。しかし、この洞窟はエウボイア人が訪れる以前からクレタ島の人々によって子宝の神コウロスを祀る場となっていた。洞窟の入り口でコウロスに捧げられていた音楽やダンスは、いつしかゼウスの泣き声をクロノスに聞こえないよう、奏でるものとして伝わっていった。キプロス島の農耕の女神のように、クレタ島の洞窟も神話の中に組み込まれていったという。
 後編ではギリシャ神話に登場する怪物や巨人にまつわる土地を巡る。
 トルコのナルルクユにはジュヘンネムという地獄を意味する名前の洞窟がある。ギリシャ神話の蛇の怪物、テューポーンが住んでいたと言われる洞窟だ。ゼウスの腕を千切り、隠したとも伝えられている。洞窟は250mの深さを誇り、エウボイア人が住む以前から儀式の場として利用されていた。また、イタリア・シチリア半島のエトナ火山はテューポーンが封印されたと言われる場所だ。エウボイア人はエトナ火山の噴煙はテューポーンによるものだと考えた。ゼウスと戦い、火山の下に封印されたテューポーンが暴れもだえるたびに火山は噴火するのだという。
 そして、フォックス教授はテューポーンと同じくゼウスに立ちはだかる巨人たちの痕跡を探し、ハルキディキ半島に足を進める。半島は古代にはカルキディケ半島と呼ばれており、「巨人たちの住処」を意味するプレグライという名の地域があった。しかし、テューポーンの洞窟やエトナ火山といった厳しい環境と違い、巨人の住処とは思えない落ち着いた土地だ。フォックス教授はエウボイア人が穏やかな環境であるその地をプレグライと呼んだ理由が、ここから発掘される化石にあるのではないかと考える。近年、半島では古代生物の大きな骨が発掘されており、フォックス教授は「エウボイア人はそのような古代生物の骨を巨人たちのものだと考え、ここが巨人の住処なのだと確信したのだろう」という自説を唱えている。
 最後に、フォックス教授は番組の総括として「ギリシャ神話は何もないところから生まれてきたのではない。エウボイア人たちが様々な場所を旅し、実際に経験した様々なことから生まれたのだ。彼らは旅の途中でギリシャ神話の源となる場所に出会っていた。そうやって物語は少しずつ進化を遂げてきたのである」と結んだ。