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テレビ番組ガイド・レビュー

日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

THE世界遺産「特集シルクロードを東へ・仏像」

2011/10/23(日)18:00~18:30 TBS
キーワード
世界遺産、仏像、大仏、北伝仏教、ヘレニズム、アレクサンダー大王、ガンダーラ、ギリシア、ローマ帝国、雲崗石窟、バーミヤン、パルティア
参考
番組公式
 高画質の映像で記録された世界遺産を紹介する番組。10月23日、30日の放送分では2回連続で「シルクロード」の世界遺産を取り上げている。前編である今回は「ヴィーナスから大仏が生まれた」と題し、西はギリシアからシルクロードの東端と言われる日本の奈良まで、以下の7ヵ所の世界遺産を辿る構成になっている。

デルフィ(ギリシア)
イスタンブール歴史地区(トルコ)
ネムルッド・ダウ(トルコ)
ニサの要塞(トルクメニスタン)
タキシラ(パキスタン)
バーミヤン渓谷(アフガニスタン)
雲崗石窟(中国)
古都奈良の文化財(日本) 

 ヨーロッパとアジア大陸を繋ぐ交易路・通称シルクロードを行来する商人などによって、ギリシア・ローマの文化は中国や日本へと伝達された。本番組ではギリシア・ローマの彫刻の東伝が、やがて日本での大仏建立へと繋る道筋を紹介している。
 番組内でも説明されるよう、仏教においては偶像崇拝を禁じた仏陀の入滅後500年間、その肖像は作られることがなかった。仏塔の崇拝がそれにかわるものであった。しかし1世紀末頃、現在のパキスタン・アフガニスタン国境付近にあたるガンダーラ地域において、シルクロード交易によるギリシア神像の伝達に触発される形で、最初の仏像が生まれた。
 
 本編冒頭では古代ギリシアで「世界のへそ」と信じられていた聖地・デルフィの遺跡と共にミロのヴィーナスなど、人間の姿でつくられたギリシアの神々の像が示される。ここでは、人間中心に世界を捉えた古代ギリシアでは神もまた完璧な肉体美を備えた人間の姿として表現されたことが説明される。
 今回の放送は、このように「理想の美」を託されたギリシア・ローマの神像がシルクロードを伝わるなかで仏像となり、祈りの対象、さらに鎮護国家という役割を帯びていく過程を捉えようとするものとなっている。
取り上げられる世界遺産からは、シルクロ-ド上における東西文化の混合を視覚的に理解することができる。2000年前トルコ東部に存在した王国、コンマゲネの墳墓遺跡ネムルッド・ダウの胴から転げ落ちた神像の頭部はペルシア風の帽子をかぶっているが、顔立ちにはギリシア彫刻の影響が色濃い。ギリシア・ローマとペルシアという東西の大国の間に位置するこの地で双方の文化が混じり合ったものだという。
 さらに東方へと伝わったギリシア彫刻は、ガンダーラにおいて仏教美術と融合し仏像が誕生した。番組ではガンダーラ文化の中心地であったタキシラの仏教遺跡や、彫りが深く西洋風の顔立ちをした仏像のいくつかが紹介される。
北西インドで生まれた仏像は東アジアに渡り大きな変化をむかえる。番組ではそれが仏像の担う役割の変化によるものでもあったことが説明されている。5世紀の中国では、仏教は国を一つにまとめるために利用され皇帝から手厚い保護をうけた。北魏時代に造営された石窟寺院、雲崗石窟で仏像は皇帝の姿を映したものとなった。巨大化すると同時にギリシア的な面立ちが影を潜めた仏像や、壁画と小像が壁一面を埋め尽くす壮麗な石窟内部が映し出される。
 
 シルクロードの東の終着点は海を越えた奈良・平城京といわれる。仏教とともに、中国において国を護るという新たな役割を与えられた仏像が日本へと伝えられた。番組最後は奈良・東大寺が取り上げられている。
番組ナレーションでは、シルクロードがもたらした仏像の誕生を「新たな祈りの形が生まれた」と表現していた。前述のように、元々仏教において人の姿としてあらわされた仏陀像を崇拝する習慣は存在していなかった。一方で「理想の美」を追及して作られたギリシアの神像も、仏像とは性格を異にするものだっただろう。
 登場する世界遺産の個々は全て過去に本番組で放送された場所であり、今回はそれらを新たなテーマからみることのできるダイジェスト版といえる内容になっている。