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テレビ番組ガイド・レビュー

日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

日本美術の1万年~魂の縄文アート 土偶~

2011/09/05(月)21:00~22:00 NHK BSプレミアム
キーワード
土偶、縄文、考古学、祈り、呪術
日本美術に「感じ・作り・使うワークショップを通じ、体で迫る」(NHKネットクラブ)ことをテーマにしている番組で、今回は縄文時代の土偶を扱う。
 主な出演者は以下の通り。
 渡辺篤史(俳優)
 矢島床子(矢島助産院院長)
 小林達雄(國學院大学名誉教授)
 猪風来(縄文造形家)
 
 俳優の渡辺篤史氏と助産師の矢島床子氏は、縄文造形家・猪風来氏が運営する猪風来美術館(岡山県新見市)を訪れ、オリジナルの縄文土偶を制作する。
 一方、猪風来氏は「遮光器土偶」の名で広く知られる青森県亀ヶ岡遺跡出土の土偶(東京国立博物館像)の再現制作にあたり、東京国立博物館の井上洋一考古学室長のもとを訪ねる。井上氏は遮光器土偶のレントゲン写真を示し、内部が空洞になっている土偶の肉厚は5ミリ以下という薄さで、熟練した作り手による制作であることを指摘する。
 3人の手による土偶は、小学校校舎を転用した美術館敷地で野焼きされる。時間の経過とともに、化学変化によって土偶表面の色が黒、赤褐色、と変化していくことがわかる。8時間を経て焼きあがった土偶は猪風来氏のものが均一な黒色であるのに対し、取り出すのが遅れた渡辺氏、矢島氏のものにはムラがみられ、野焼きによる焼成にも技術が必要とされることが見て取れる。
 焼成後、猪風来氏による「遮光器土偶」は、ベンガラ(酸化鉄を主成分とする赤褐色の顔料)で表面を塗られた。現在東京国立博物館で見られる遮光器土偶は黒色だが、井上氏によると頭部にわずかに残る塗料が、当初は全身に塗られていたと考えられるという。全身が赤褐色に彩られた遮光器土偶の姿は、私たちがこれまで図版などで多く目にしてきたイメージと一風異なるものであった。

 縄文学を研究する國學院大学名誉教授・小林達雄氏は、縄文時代土器を第1の道具、第2の道具に分類できる、と説明する。第1の道具は、矢じりや釣り針といった狩猟採集生活のための道具。第2の道具は土偶など、宗教的な目的をもった道具である。小林氏は、前者はもちろん、後者があくまで「実用の道具」であることを強調する。制作に際して費やされたであろう手間の量からは、縄文人にとってそれらが「非実用品」であったとは考えにくいのだという。小林氏は、縄文人がそこに「第1の道具では果たせないような、限界を超えたものを託している」と話す。狩猟採集生活における、人間の力を超えた力や宿命を前に、縄文人はただ諦めるのではなく、「第2の道具」に願いを込めたのではないか、と語る。

 それでは縄文人はどのようにして土偶という道具を「使用」していたのだろうか。各地で発掘された土偶の多くは、頭部や四肢など身体の部位ごとに、故意の破損が見られるという。高速道路の建設地から出土した大量の土偶を保管する釈迦堂遺跡博物館(山梨県甲府市)元館長の小野正文氏によれば、土偶の四肢は薄い粘土で繋がれ、もともと壊れやすいように作られているのだという。

 番組は「感じ・作り・使う」を掲げているだけに、渡辺氏と矢島氏も小林氏に促され、泣く泣く自らの土偶を叩き壊す。手間や情のかかった土偶の破壊という行為にはどのような意味があったのか。小林氏は、縄文人の文化というのは「“祈り”をする文化」だと話す。土偶の破壊には、縄文人が生きていく中での、叶わぬ願いに対する一縷の望みを託す想いの強さが現れているという。そして小林氏は最後に、そこには美とは何か、芸術とは何か、という問いについての重要な鍵があると思う、と話した。