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宗教情報PickUp
テレビ番組ガイド・レビュー
日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。
クローズアップ現代「岐路に立つお寺~問われる宗教の役割~」 |
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2011/03/01(土)19:30~20:00 NHK総合
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寺は約1500年にわたって私たちの生活を支えてきたが、最近は多くの人の寺離れが目立ってきている。その主な原因は墓の引っ越しである。墓を寺から引き払い、葬儀会社の運営する割安な霊園に移す人が増えているという。こうしたなか、苦しむ人々を救う宗教本来の姿を取り戻そうと新たな活動を始めた僧侶達に注目が集まっている。今回は寺の現状とその新たな活動をクローズアップした。 現在日本には約7万6千ものお寺が存在する。これはコンビニエンスストアの約2倍の数である。浄土真宗本願寺派が全国の寺にアンケート調査をしたところ、20年後も寺を維持・運営するのが「厳しい」「全くできない」と答えた寺は合計で約60%あった。この背景にあるのが寺離れである。檀家の数が減ったり、僧侶を呼ばずに葬式を済ませる人が増えたりすることで寺の収入が減っているのだという。またお墓を葬儀会社が運営する割安な霊園に引っ越す人が増えていることで、寺はお墓の管理料やお布施を得られなくなっていきている。番組では、名古屋にある葬儀会社が取り上げられた。その葬儀会社が入るビルの2階には最新式の納骨堂がある。そこでは4千のお骨が立体駐車場のように安置されていて、カードをかざすとお骨が収められた墓が出てくるようになっている。永代使用料は80万円。墓の購入者には特典が付き、葬儀代が3割引になり、戒名も無償で付けてもらえる。ここは交通の便も良く、地方のお寺から引っ越してくる人も少なくないという。ここの葬儀会社ではオープンしてから3年で20億円以上もの売り上げを計上している。この最新式の納骨堂に人気が集まり、地方の寺では檀家の流出が防ぎきれず、なかには破産した寺もある。 生きる意味とは何かについて問いた著書『生きる意味』(岩波新書)などで有名な東京工業大学・上田紀行准教授は、講演などでアンケートを取ったところ、仏教に対して良いイメージを持っている人は90% 寺に対して良いイメージを持っている人は25% 僧侶に対しては10%という結果が得られたと言う。これについて上田氏曰く「世間にはお寺とかお坊さん達は仏教をやってないんじゃないかというイメージがある」。上田氏が僧侶達を招いて講演を行ったときに僧侶達と会話をすると僧侶達は「経営が~」とか「檀家が~」とひと言目には言うそうだ。 こうしたなかで苦しむ人々に寄り添う宗教本来の姿を取り戻そうと動き出した僧侶達も番組では取り上げられた。大阪に住む僧侶の川浪剛さんは町の商店などに顔を出して自らが企画した講演の告知などをしたりしている。また、住民の悩み相談にも乗っている。例えば失業中の人に対してはハローワークに掛け合ったりして再就職のサポートをしている。「縁が絶ちきられ、人と人とのつながりが無くなってしまった先行きが不透明と言われる時代に、かえって仏教はその底力を発揮するのではないか。今からが出番なのではないか。」川浪氏はこう語った。 茨城県には宗派を超えた僧侶達の会があった。それは「自殺対策に取り組む僧侶の会」というもので、相談を寄せてきた人に対して手紙でアドバイスを送っている。番組では、両親の介護に疲れ、自殺を図ったことがある50代の女性の手紙とそれに対する僧侶達の会の返信の手紙が紹介された。両親を看取った後、自分はきちんと介護できていなかったのではないだろうかと自分を責め続ける女性に対し、僧侶の会は「今はお二人のご冥福を祈り、ゆっくりお休みになることも必要かと思います」などと相談者に寄り添うような手紙を送っていた。僧侶の井上由美子さんは、この会に属することによって初めて僧侶としての誇りを持てたという。またこの会に対して寄付の申し出も増えているという。 この映像を見た上田氏は、「今の時代は多くの人々が仏教で言う『生、老、病、死、苦』の中の『苦』に直面しているところがあるのではないか。それなのに格差社会のもとで勝ち組、負け組が現われ、負け組は『自己責任』だと言われて切り捨てられる。しかし、そこに『そんなことはないんだ』と言って支えになることが大切なのではないか」と語った。 現在の寺は、心を救済する場所というイメージというよりも、葬式をして墓を建てる場所というイメージが強い。しかし、寺とは本来、仏教を説いて人々の心を救うところだったはずである。この番組は、寺に対して、「苦」が増加してきた社会において、もう一度、仏教という原点に返って人々を救済することを提案しているようだ。 ※番組中で取り上げられた僧侶・川波剛氏、「自殺対策に取り組む僧侶の会」など、仏教に基いて社会活動に取り組む僧侶たちの活動については『ルポ 仏教、貧困・自殺に挑む』 磯村健太郎著においても詳しく紹介されています。 |