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テレビ番組ガイド・レビュー

日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

BS日テレ開局10周年特別番組
失恋建築家ガウディ ~世界遺産に隠された暗号とは?~

2011/02/13(日)19:00~20:54 BS日テレ
キーワード
アントニオ・ガウディ、世界遺産、宗教建築、キリスト教建築、カトリック
参考
番組公式
アントニオ・ガウディはサクラダ・ファミリア聖堂、グエル公園、カサ・ミラなどの数々の有名な建築作品で知られるスペインの建築家である。番組はガウディの恋にスポットを当て、恋が建築にどのような影響をもたらしたのかを探るというものであった。

番組によるとガウディの恋の遍歴とは、離婚経験のある年上の音楽教師へ求婚するも婚約者がいると断られる、その後、教会で一目惚れした女性に声をかけるが失敗、最後はバカンス先で知り合ったフランス人と懇意になるもやはり既に婚約者がいた、など散々たるものだったらしい。

また番組では恋のみならず、晩年を宗教建築の仕事に費やしたガウディの信仰についても触れられている。1883年、ガウディが31歳の時にサクラダ・ファミリア大聖堂の2代目主任建築家に就任するまで、彼は熱心な信徒だったわけではなかったという。しかし、この時ちょうど2度目の失恋や、兄や母を次々と亡くす不幸の直後であり心の傷が癒えぬ日々を過ごしていたガウディにあって、彼は次第に聖堂建築の仕事に没頭していくようになる。サクラダ・ファミリア大聖へのガウディの想いは、彼の墓がサクラダ・ファミリアの中にあることからも、並大抵のものではなかったことが推測できる。

またガウディの進行と建築の関わりに関して興味深いエピソードが紹介される。それは1905年に着手した住宅「カサ・ミラ」建築の折の話である。建築当初、ガウディは建物の正面に大きなマリア像を設置しようとした。しかし当時バルセロナは、スペイン政府の徴兵に反対し労働者や無政府主義者を中心として起こった暴動が、旧権力の象徴であるカトリック教会の打倒という動きに進展していた(「悲劇の一週間」)という状況であった。このため宗教色の強い建物が標的になることを恐れた注文主によって、ガウディの構想した建築物へのマリア像の取り付けは、果たされないままとなった。そこでガウディは、マリア像の代わりとしてマリアの象徴として石彫の“バラ”とアルファベットの“M”を取り付けたのであった。

ここには、一方で失恋を重ねて出来上がったガウディの女性像と、他方では持病のリウマチに苦しんだガウディの幼少期にあってなんとも頼りの綱であった母の姿が、ガウディのなかで信仰と相まって全女性の頂点である聖母マリアに転写されていくという背景がある。このようにガウディの特別な思い入れを託された「マリア像」は、彼によると「重要な建物には必ず設置すべきもの」として考えられていたようだ。ガウディは「カサ・ミラ」を最後に一般建築からは手を引き、その後ますます宗教建築のみに集中するようになる。また、サクラダ・ファミリア「生誕の門」上に、聖母戴冠、受胎告知などの彫刻とともに飾られたペリカンの像は、ペリカンの母が自らの身を傷つけ、血を子に与えるという伝説に基づくもので、自己犠牲や愛の精神を象徴しているという。

番組は、実はナポリ建築大学で学んだ経験を持つという、タレントのパンテッツァ・ジローラモが、装飾や曲線で満たされたガウディの建築を恋人へのラブレターとして読み解いていくなど、エンターテイメントとして割り切られた点も多い。だがマリア信仰や母親とのエピソードそして恋愛の遍歴から、ガウディの信仰が少なからず「女性的なもの」ないし「母性的なもの」に対する憧れと結びついていることを明らかにし、そのうえで彼の建築を観る新たな視座を与えている点は、非常に興味深い内容であったといえる。