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日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

BBC地球伝説 「古代文明のルーツを求めて ギリシャ文明」

2011/02/09(水)20:00~20:54 BS朝日
キーワード
古代文明・古代ギリシア・ポリス・民主主義・ペルシア戦争
参考
番組公式
 人類文明のルーツを探り、メソポタミア文明誕生からローマ帝国の崩壊までを全6回で辿るシリーズの第3回目。神話、哲学、政治制度、建築、美術といった文明を産み出した、古代ギリシアを取り上げる。
 ギリシア人は、「文明的」なものを指すとき、「ギリシア的」という意味の「ト・ヘレニコン」という言葉を用いたという。この概念の範囲は、しきたり、血縁などといったものにまで及んだ。また、輝かしい文明を築き上げた一方で、同じギリシア人のポリス(都市国家)同士での戦争も絶えなかった。番組では、良くも悪くも古代ギリシアを突き動かす原動力となった「ギリシア的」なるものとは何なのか、ポリス政治の試行錯誤、外部世界との戦争、ポリス間抗争による終焉という歴史を辿ることで探っていくものである。
 古代ギリシアの文明を、他から大きく隔てる特徴は、1人の絶対的な君主が権力を握る君主制を廃止したことだ。以降は市民階級による政治的共同体「ポリス」が複数並存し、ポリスごとに寡頭政(少数の人々が政治的権力を掌握する)、直接民主政、僭主政(古代ギリシアにおいては、民衆の支持を背景にした独裁)といった、様々な政治形態がしかれた。概して、男性はポリスを守る戦いのため戦場に赴き、勇敢な兵士として活躍することが美徳とされていたようだ。アテネで発祥したオリンピックも、そこでの成績は戦場における能力に直結すると考えられた。当時の戦争は、大量の歩兵力が必要とされる密集戦術によるもので、戦争に参加した民衆は次第に、政治的な発言力も増していった。このことは結果的にポリス内で政治のパワーバランスを不安定にすることにもなった。
 各ポリスの政治形態の変遷からは、人々が常に矛盾を抱え、失敗を繰り返しながら、必死で社会秩序を保とうとしてきたことが分かる。スパルタではすべての成人男性を平等とし、階級間の差別の無い「ユートピア」を維持する代償として、様々な禁止と義務で社会を縛り上げた。やがてスパルタは、ポリス全体が軍事訓練キャンプの様相を帯びることになる。スパルタと並んで強力なポリスであったアテネでは、一部の人々が貿易等によって個人資産を増大させる自由主義的な経済が加速した結果、貧富の差が広がった。このとき、アテネでは社会改革によって、暴動などを防ごうとしたが、人々の不満は、やがて民衆に支持される形での独裁者である、僭主の登場を招くこととなった。
 ペルシアとの戦争において、それまで抗争を続けていたポリス同士は、初めて一つとなって戦った。しかし、この戦いにおけるギリシア連合軍の勝利は、ポリス間の均衡に破綻をもたらし、戦後ますます力を増したアテナイとスパルタを中心に、それぞれの同盟国を巻き込んだギリシア人同士の滅ぼし合いに陥ってしまう。結果的にポリス社会は終焉を迎えることとなった。
 民主政の発祥として語られること多い古代ギリシアの政治制度だが、番組では民主政を目指しながらも、多くの奴隷を酷使し、結局同一民族内での抗争の末、崩壊した「ギリシア的なるもの」から、我々は大いに教訓を得るべきである、という視点から描かれている。この番組で語られる「ギリシア的」なものとは、残酷なまでの「強さ」の肯定と、不正や不平等に対する倫理的な怒り、という時に相反するような感情の爆発的な発露といえるのではないだろうか。番組中では度々、現代ギリシアの、デモ隊が警官隊と激しく衝突する映像や、サッカー場で発煙筒を投げ込むギリシア人サポーターの映像が映し出される。やや意図的な演出ではあるが、古代ギリシアにおけるポリス内外での抗争史と相俟って、民主主義とは本来、絶対的な権力を欠いた世界における、人々のぶつかり合いと調停という、厳しさの中から産み出されてきた制度なのだ、と改めて思わされた。