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テレビ番組ガイド・レビュー

日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

番組たまご 「もしも明日…」~家族の葬式をあげることになったら~

2010/08/13(金)22:00~23:14 NHK総合
参考
番組公式
 この番組は、形式的でわかりづらい現代の葬式のあり方に対し、家族や親しかった友人のみの少人数で行う「家族葬」という新しい葬式のあり方を紹介するものである。現代の葬式には問題点が多い。例えば、お布施や葬式の時に必要な棺や祭壇などの費用をいくら払えばよいか分からないことである。多くの人は葬儀屋に任せっきりにして、高い棺を薦める葬儀屋の言う通りにするようだ。また、お布施の金額は寺や住職の格によっても変動し、相場が分かりづらい。価格が明確でない理由は、全日本仏教会によると「お布施は慈しみの心に基づくものなので商品のように定価とすべきではないうえ、お布施をする人ができる範囲で施すものであって『高い』『安い』という概念は存在しないから」である。しかし、これではいくら払えばよいのかという費用の問題は解決しない。
 最近は、この費用の問題点を取り除いた「家族葬」が注目されている。家族葬とは家族と親しい友人だけで故人を見送る葬儀のことで、独自の葬儀形式に変更して好みの演出を行うこともできる。番組内では、家族葬を行った人の体験談をもとにした再現ドラマも放映された。そのドラマとは、夫を亡くした妻が葬儀屋任せの葬式に疑問と寂しさを感じ、親戚の反対を受けながらも自分なりのやり方で夫を送り出そうとするものだった。モデルとなった女性は当時の気持ちを振り返り、「火葬場に行く前に知り合いの人たちが見送りに来てくれたのを見て、すべて自分の思い通りに葬式を済まそうとしたことに恥ずかしさも感じた」と語った。
スタジオに集まった視聴者に家族葬についての経験や意見を語ってもらう場面では、家族で故人に話しかけたりして楽しく見送ることができたという人や、むしろ逆に寂しさが募ってしまったという人、少人数でなくやはり知り合いの人も含めた大勢に見送られる方が良いという人もいて、さまざまだった。
 家族葬にはもちろん、メリットばかりではなくデメリットもある。番組にFAXで寄せられた家族葬経験者の例では、費用を10万円以内で済ますつもりが、やりたいことや用意したいものにこだわった挙げ句、15倍の150万円もかかってしまっていた。また、弔問客の香典がないため自己負担が多かったり、家族葬を済ませた後に故人の知り合いが家に訪れてきて昔話をしていつまでも悲しみを引きずったりすることもある。
 後者の問題を解決するためには、身内だけで家族葬を行った後に、故人と縁のあった人たちを招待してお別れ会を開くという方法がある。北海道札幌市に住む主婦は、夫の家族葬の後にお別れ会を開催して葬儀に呼ばなかった人たちを招待し、夫の生前の写真や遺品を展示するなどして、夫の友人や会社の同僚たちと夫の思い出を語り合ったという。
 葬式のあり方は遺族が決めるものと思われがちだが、札幌にあるNPO法人「葬式を考える市民の会」には、自分の葬式を自分で考える人たちが集まっている。その活動例として、自分の死に装束を自分でデザインしていることなどが紹介された。
 後悔しない葬儀にするためには生前に家族で話し合うことが大切だが、縁起が悪いという理由で話し合うことを嫌がる人も多い。そのような人たちのためには、「エンディングノート」という自分の死後にしてほしいことを書き留めておくノートがある。葬式時に用いる骨壺や棺の種類や、葬式の内容などの希望も具体的に書いておける。これを書いておくことによって、真正面から死後のことについて家族で話し合うのは気まずいという人も、死後にどうしてほしいのか伝えることができる。
 多くの人が「死」を忌むべきものとして捉えて、日ごろから自分の死後について考えないでいるようだ。だから、ある日突然、誰かが死ぬと慌てふためいて葬式の準備をする羽目になり、終わった後に振り返ってみるときちんとお別れできなかったとか、少しお金をかけすぎたと悔やむのではないだろうか。この番組は、家族葬を紹介することを通して「死」というものを考え直す機会を与えてくれている。