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BSフジLIVE PRIME NEWS『宗教は個人化の時代? スピリチュアルの流行』

2010/08/13(金)20:00~21:55 BSフジ
キーワード
宗教・日本人・スピリチュアル
 今回は「宗教と日本人」というテーマに沿って話し合われた。具体的には、パワースポットに代表されるスピリチュアル・ブームと、仏像拝観や座禅を好む若者が増えているという仏教ブームについて取り上げられた。

<スピリチュアル・ブームの背景>
 まずはスピリチュアルについて。慶應義塾大学准教授の樫尾直樹氏は、スピリチュアルとは「霊性」のことで、「自然や宇宙と一体になった感覚」のようなことだという。
 スピリチュアル・ブームの背景について、東京大学先端科学技術センター客員教授の島田裕巳氏は、都市化によって「イエ」制度が衰退したからだと分析する。イエや先祖の霊を意識しなくなっただけで、超越的なものを求める気持ちに変わりはなく、そこでスピリチュアルが注目され始めたのだという。
 一方、樫尾氏は、自己責任という考えが根付いてきて、今までのように将来への不安を家族や地域のつながりで解決するのではなく、自分で対価を払って救いや癒しを手に入れるのが当たり前になってきたからだと見ている。
 また、最近、流行しているパワースポットについては次のような意見だった。パワースポットとは、樫尾氏によれば、そこに行くと気分がリフレッシュするようなところで、人間の作為に冒されていない場所だという。パワースポットには「気の流れ」のようなものがあり、そのエネルギーを浴びて体に循環させるのだという。
 しかし、島田氏は靖国神社を例に挙げて、「作為に冒されていない場所」という樫尾氏の意見に反論した。靖国神社には、10代の若者が多く集う。彼らは戦没者を意識していないが、パワースポットだとして靖国神社に集まるのは、歴史もあり、人為的な面もある場所だからだという。
 いずれにせよ、パワースポットに関して確実に言えることは、現代の若者も心の依り所を求めているが、どこにあるのか分からず、とりあえずパワースポットと呼ばれる場所に行ってみる若者が増えているということのようだ。

<仏教ブームの背景>
 次は仏教ブームについてである。その背景について樫尾氏は、仏教にハマることで「生きる意味」を求めていると推測する。樫尾氏が仏像を好む若い女性達に調査をしたところ、彼女たちは仏像の凛々しい顔に「肉食系」のイメージを持っていることが分かった。それは「生きる力」を求めているとも解釈できる。
 一方、島田氏は、仏像とは自分を見つめるためのひとつの装置だという。仏像に相対したときに湧く気持ちを大切にすることで、自分というものに触れることができるから仏教ブームが来ているのではないかという見解だ。

<宗教とスピリチュアル・ブームは両立するか?>
 しかし、仏教ブームについて、島田氏は信仰が増えたとは見ていない。信仰とは絶対的に崇めることを指すが、現代人はそういうものではなく、「いかに心を豊かにするか」を求めており、だからこそ「宗教」と言わずに「スピリチュアル」と言うのだと主張する。
では、既存の宗教団体とスピリチュアルは対立することになるのか。
 樫尾氏は次のような見解を述べた。「スピリチュアルにはまっている人たちは基本的に個人行動を好む人が多いが、宗教団体では集団行動が基本であるため、そういうニーズに応えられない。また、宗教団体では専門用語が多く、普通の人には近づきがたい」。
 島田氏も同様に、「日本人は昔から組織で動くことが多かったが、最近は解放されたいと思う人たちが増えてきている」と述べた。また、昔は宗教を求めた人の動機は、貧・病・争と言われたが、最近は生活水準が高くなったのでそういうものから救われたい人が減ったことにも言及した。

<今後の宗教のキーワードは?>
 最後のまとめで、島田氏は、今後のキーワードは「フリー」だと指摘した。パワースポットは無料だし宗教団体と違って開かれたものである。また、単に無料なのではなく、いろいろな人が集まって支えているから成り立つ。そういうものが今後の宗教のあり方を示すと述べた。
 一方、樫尾氏は「宗教の学校化」を挙げた。時代のニーズに応えられていないとはいえ、宗教には瞑想など良い資産がたくさんあるので、多くの人に広めていくために学校化が有効である。そして、卒業後に普段の生活にもそれを活かさせることも大切なのだという。
 最近の人たちは心の依り所を求めはするが、それを団体で行わず、趣味のように個人で追求する傾向にあるという見解や、宗教団体における専門用語などが普通の人たちを近づきがたいものにしているという見解は的を射ているように思えた。