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日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

新美の巨人たち 「又吉直樹×『五百羅漢図』芝・増上寺に狩野一信の仏画100幅!」

2019/05/18 (Sat) 22:00~22:30 テレビ東京
キーワード
狩野一信 羅漢
参考
番組公式
 東京港区芝公園にあるお寺・増上寺。4年前本殿の地下にできたギャラリー・増上寺宝物展示室に、今回紹介する作品がある。
 狩野一信作『五百羅漢図』。1863年に亡くなる直前まで描いていた作品で、縦172㎝、横85㎝の掛け軸が100幅で構成されている。主人公は羅漢。羅漢はお釈迦様の弟子の中で最高の位にある存在で、仏に代わり教えを広め、人々を救済する存在だと番組では紹介された。この絵には計500人の羅漢たちが修行を深め、魔物を撃退、人々を苦しみから救い極楽へ旅立つ様子が描かれている。中でも際立つのはその表情である。悟りを開いた尊い存在でありながら、決して人相が良いとは言えない表情をしている。例えば第57幅『神通』の人々を救う場面では、まるで歌舞伎の見得を切るかのようだ。
 一方で、髭を剃ったり爪を切る様子も描かれ、総じて一信の羅漢は人間臭さが滲み出るものになっている。仏画師の川端貴侊さんは「難しい本を読まなければ理解できない世界ではなく、誰が見ても世界観や教えが伝わる描き方をしたかったのだと思います」と話した。たくさんの人に仏の教えを理解してもらいたい。その気持ちがこのような生き生きとした描写を生み出したのだろう。
 作者・狩野一信が生きた江戸時代末期は、大きな地震や黒船来航による鎖国の終焉と不安な出来事が続いた。そこで、お釈迦様に比べて気軽に願いを聞いてくれる羅漢に救いを求める一大ムーヴメントが巻きおこった。増上寺の佐々木励綱さんは「お像に接していると自分自身に似た羅漢様を見つけることができる。親しみやすさがより大きくなったと思います」と話した。増上寺の入り口にそびえる三解脱門(さんげだつもん)に並ぶ人間的なぬくもりのある表情をした16体の羅漢は、この作品のモデルになったと言われている。一信は、学んだ技法を全て注ぎ込み、10年かけてこの作品を描いた。
 中でも作者の器量が際立っているのは、第45幅『十二頭陀・節食之分』だと言われている。表情の立体感を出すために描かれた炎の光が落とす影。18世紀になってから影を意識し出した日本では、まだ珍しい表現だった。それが凛々しさを生み出している。ついにはあと4幅を残して病に倒れてしまうが、妻と弟子が引き継いで完成させた。
 仏を遠い存在に置くのではなく、身近に感じてほしいという思いが込められた狩野一信の『五百羅漢図』には、親しみやすさを存分に感じることができる。ラストシーンで地上に降りた天女を見届け、極楽の世界へ旅立っていく羅漢に一信の人生を重ねてみると、また新たな見方ができるのかもしれない。