文字サイズ: 標準

宗教情報PickUp

テレビ番組ガイド・レビュー

日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

クローズアップ現代+「穏やかな“死”を迎えるために~臨床宗教師~」

2016/08/25 (Thu) 22:00~22:25 NHK総合
キーワード
臨床宗教師 死 患者
参考
番組公式
 2015年1年間で130万人亡くなった日本は多死社会に突入したと言われる。WHO(世界保健機関)は、命を脅かされる患者の痛みとして4種類あると定義している。そのうち、「身体的苦痛」「精神的苦痛」については医療者が、「社会的苦痛」についてはソーシャルワーカーがケアに当たることが出来る。しかし、「スピリチュアルな苦痛」、つまり死の恐怖や死生観の悩みについては、対応できる専門家は国内にはほとんどいなかった。今、全国の病院や介護施設で医療と宗教が協力して穏やかな死へと導く取り組みを見つめる。
 スピリチュアルな苦痛を取り除くのは、特別の訓練を受けた宗教者たる臨床宗教師である。臨床宗教師は、仏教やキリスト教など様々な宗教者が、東北大学をはじめとする養成講座でスキルを習得する。その役割は、特定の宗教を勧めることではなく患者の話を聴くことが中心である。
 医師や看護師などと共にチーム医療の一員として患者のケアに当たる真宗大谷派の僧侶でもある臨床宗教師の野々目月泉さんは、臨床宗教師の役割を「その方がすがりたい何かにつなぐ役目」と語り、患者の言葉を手がかりに理想の死のイメージを探ろうとする。番組によれば患者が死後のイメージを持つことは、穏やかな死につながる重要なプロセスであることが学術的な調査でも明らかになっている。すなわち、天国・極楽に行けるなど死後のイメージがある場合は、死によって命は終わらないのだと考えることで穏やかな死を迎えることが出来る。野々目さんは、患者がお釈迦様や光を夢で見たと言うと、死を迎える準備ができたサインと受け止める。そして、患者が夢で見た世界を手紙によって具体的なイメージとして患者に提示することで死への恐怖をやわらげようとする。
 2016年2月に発足した日本臨床宗教師会の顧問に、医師でありかつ僧侶の資格を持つ田中雅博さんが就任した。若い頃、田中医師はがん治療の最前線で働きながら、死への不安を取り除けない無力感を感じていた。その後、自らの診療所を開設し、仏教の教えをもとに患者に寄り添う取り組みを始めた。田中医師は、臨床宗教師の役割は患者の話に耳を傾け、人生の価値に気付いてもらう事と訴える。その人生の価値については、「自分の“いのちを越えた価値”そういうものがあったらそれがその人の宗教」と語る。
 緩和ケア医である大津秀一さんは、「医療者が聞ききれないところ、支えられていないところというのを支える存在」として臨床宗教師の必要性を語る。そして、スピリチュアルな苦痛、生きる意味の揺らぎということがより認知されることにより、それを支える存在としての臨床宗教師が知られることでその普及につながると考えている。