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日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

ETV特集「臨床宗教師~限られた命とともに~」

2014/11/29 (Sat) 23:00~0:00 NHKEテレ
キーワード
死、宗教、臨床宗教師
参考
番組公式
 番組では臨床宗教師・高橋悦堂さん(34)ヘの取材を通して、死と向き合う人々に寄り添い、その心をケアしようとする「宗教者」の姿が描かれていた。
 
 いまから2年前、宮城県仙台市にある東北大学で臨床宗教師の養成講座は始まった。仏教、キリスト教、神道など、講座には様々な宗教者が集まる。宗教者たちは、それぞれの宗教における死生観を学ぶとともに、病院実習を通して余命宣告を受けた患者たちと対話を重ねる。こうして、これまでに80名ほどが臨床宗教師の認定を受けてきたという。
 実際の医療現場において臨床宗教師は、医師や看護師、ケアマネージャーと患者の情報を共有しながら心のケアにあたっていく。悦堂さんも在宅緩和医療が専門のクリニックで臨床宗教師としての仕事をスタートさせた。患者の話に真摯に耳を傾けたり、リクエストされて経を読んだりと、少しでも相手の心に寄り添おうとする姿が印象的であった。
 また、ある患者は、夢の中に両親が出てきた話をし、「この話が通じるんだよね。普通の人には通じないんだよ」と言いながら、悦堂さんに死に向き合う自らの心境を語っていた。
 
 悦堂さんが臨床宗教師を志したきっかけには、ある医師との出会いがある。2011年、東日本大震災の後に、悦堂さんは現地の火葬場で遺体を供養するボランティアをしていた。そこで臨床宗教師の提唱者である岡部健医師に出会ったのである。
 岡部医師は在宅緩和医療専門のクリニックを創設し、2000人以上もの患者を看取ってきた経験から、「患者が死と向き合う現場に宗教者がいないこと」を疑問に感じていた。そして、「医療だけでは人の死について答えることができない」、「死と直面する患者の心を受け止めるには専門の宗教者が必要なのではないか」という想いから、「臨床宗教師」の必要性を提唱していたのである。
 そして、岡部医師は、自身が胃がんによって余命宣告をされた後にも、震災ボランティアで知り合った悦堂さんを呼び寄せた。そこで二人は次のような会話を交わしたという。
 
岡部医師「お前は人間が死に行く姿を見たことがあるのか」
悦堂さん「いや、ありません」
岡部医師「僧侶っていうものはそんなんじゃダメなんだ。お前は俺の死を観察しろ」
 
 そして、岡部医師は悦堂さんを自宅に泊まらせ、少しずつ弱っていく自分の姿を見つめさせた。悦堂さんは、いまも臨床宗教師として患者と向き合うとき、心には岡部医師と過ごした濃密な時間が思い出されると語る。

 岡部医師の志を継いで、臨床宗教師のすがたを模索し続ける悦堂さん。ときには患者の言葉を聞いて、自分の中にわき起こってくる感情を表現できず、言葉に詰まることもあるという。しかし、臨床宗教師として、いかに患者の心に寄り添っていくことができるのか。死に臨む人々に寄り添い、その心をケアしていくために何ができるのか。悦堂さんの出会いと対話の日々は続いてゆく。

○参考URL
番組HP「ETV特集」
http://www.nhk.or.jp/etv21c/file/2014/1129.html