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テレビ番組ガイド・レビュー

日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

FNSドキュメンタリー大賞「高橋さんと山田さん~故郷の白秋に生きる~」

2014/10/06 (Mon) 25:45~26:40 フジテレビ
キーワード
墓、無縁、墓じまい
参考
番組公式
 今回番組の舞台となっていたのは福井県の奥越と呼ばれる地域である。奥越には日本の古いしきたりと信仰がいまも生きついている。番組では福井県の大野市で暮らす高橋俊彦さん(66)と勝山市で暮らす山田勝一郎さん(64)への取材を通して、地方における墓問題の実情が紹介されていた。しかし、定年退職後も自らの人生に目的を見出し、いきいきと暮らす高齢者の姿も描かれていた。本レビューではこの2点に注目して番組内容を振り返ってゆく。
 
○地方における墓問題――墓の無縁化について
 
 高橋さんは大学卒業後に大阪の企業に就職し、定年退職を機に故郷の大野市へと戻ってきた。いまは母と妻と3人で穏やかに暮らしている。
 大野市には浄土真宗・最勝寺というお寺があり、高橋さんも最勝寺の檀家の一人である。かつて最勝寺は多くの人々が集う場であり、学びの場であったという。しかし、現在550ほどの檀家をかかえる最勝寺の墓地には、無縁となった墓がずらりと並んでいる。
 また、勝山市にある臨済宗・開善寺でも墓の無縁化は深刻な問題である。開善寺は8年前から、住職のいない「無住の寺」であり、現在は山田さんが檀家総代として日頃の管理を任されている。開善寺にも100基ほどの墓があるが、そのうちの8割近くが無縁の墓であるという。
 このような無縁化の原因として、「都市への人口流出」や「少子高齢化」が挙げられる。特に、福井県の場合、「県外への進学者のうち故郷に戻るのは4分の1ほど」であるという。ほとんどの人が県外で就職し、そのまま故郷に戻ることなく一生を過ごすのだ。最勝寺住職の藤兼量さんは「つながりを意識せずに生活するスタイルが定着してしまったのではないか」とコメントした。
 こうした問題を受けて、自分の代で墓を閉じる「墓じまい」を考える人も少なくない。高橋さんもそのうちの一人である。しかし、「墓じまい」の実現に際しては、経済的な負担に加え、家族に同意を得ることなどが大きな障壁となる。特に、必要な費用は230万円以上とも言われており、この高額な費用も墓の無縁化に拍車をかけているのではないだろうか。
 
○「白秋」――人生の実りを収穫するために
 
 古来中国では60代以降の晩年を白い秋、「白秋」と例える。高橋さん、山田さんの2人もこの白秋を有意義な時間にしようとしていた。
 高橋さんは故郷に戻り、母へ親孝行するとともに、残されていく子どもたちのことを考えて、「人生の整理整頓」すなわち「終活」に粛々と取り組んでいる。また、穏やかな毎日のなかで自分の趣味を楽しむことも大切だという。
 一方で山田さんは、寺を栄えさせるために「会員制のレストラン」を計画。定年退職後すぐに専門学校へ入学し、調理師免許を獲得した。さらに現在は4年生大学に入学し、管理栄養士の資格を目指して勉強を続けているという。
 高橋さんは「考えようによっては60代以降が人生の実りを収穫する一番いい時期なのではないか」と語った。
 
 自分が先祖から受け継ぎ、人生で獲得した実りを、子孫へ、故郷へ、そして未来へ伝えるため、もう一度自分自身を見つめなおす、「白秋」はそんな人に与えられた大切な時間なのである、として番組は締めくくられる。