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日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

NHKスペシャル 中国激動「“さまよえる”人民のこころ」

2013/10/13 (Sun) 21:00~22:00 NHK総合
キーワード
中国、儒学、宗教、キリスト教、拝金主義
参考
番組公式
 「先に豊かになれるものから豊かになれ」というスローガンのもと、熾烈な競争を戦ってきた人々が自らの生き方に疑問を抱き始めている。
 建国以来、神の存在を認めない無神論を堅持してきた中国共産党。かつては宗教や思想に弾圧を加えてきた。しかしいま、政府はその姿勢を大きく変化させている。儒学を教育に取り入れ、社会の安定のために宗教を利用する方針を打ち出したのである。
 
 豊かさにあこがれ農村から出稼ぎにきた人々。その多くが経済成長の恩恵から取り残された。そんな彼らが最後の拠り所としているのが、個人の自宅、職場の集会所などでひらかれる家庭教会である。人々は毎晩密かに集まり、神に祈りをささげる。
 家庭教会は当局に届けを出していない非公認の教会である。しかし、その数は急速に増加している。そのため、当局も実態を把握しきれておらず、その活動は黙認されている。
 一方で、当局に活動をみとめられた公認の教会も存在する。牧師の陳さんは、中国が豊かさを求めた結果、拝金主義が蔓延し、人間関係が希薄になったと考える。そして、次のような事件が起きた。
 車にひき逃げされた2歳の少女。路上に放置された少女を18人が見て見ぬふりをして通り過ぎたのである。結局、少女は死亡した。陳さんは「キリスト教の教えでもある、人を思いやるという気持ちがいまの中国社会にはなくなった」と主張する。
 
 急激な広がりをみせるキリスト教であるが、これに対して中国生まれの思想にこころの拠り所を求めようとする動きもある。その思想が、孔子のはじめた儒学である。
 中国各地で、儒学を専門に学ぶ学校は1万を超える。人気の背景には一人っ子政策で増加したわがままな子供、いわゆる「小皇帝」の問題がある。常に競争にさらされてき子どもたちは、他人を思いやる心を知らない。学校では2人で1冊の教科書を使うなどしてその心を養ってゆく。
 さらに、共産党の幹部候補が通う最高養成機関の中央党校でも、6年前から儒学が取り入れられている。中央党校の関係者は「幹部である前に立派な人間でなければならない。もし共産主義が儒学などの伝統思想と結びつくことが出来なければ、このまま発展を続けることは難しいだろう」と語った。
 国が儒学を推進する姿勢に転換したのは2000年代に入ってからである。格差の拡大や幹部の腐敗などにより求心力にかげりがみえていたためだ。そのため、人々に目上の者を敬うことを説き、道徳的なふるまいを求める儒学が新たな求心力になると考えたのである。
 
 「完全なる私利私欲社会」において、拝金主義に対する憂いを口にする人々。牧師の陳さんは「中国の人々はいつの間にかお金を信仰するようになった。しかし、それだけでは幸せになれないことに多くの人が気づき始めている」と話す。
 人々は経済成長に代わる、新たな拠り所を求めて祈りをささげた。中国のキリスト教徒の数はいまや1億人にも迫る。その数はもはや共産党員の数を超えている。
 社会が抱える問題の解決に宗教や伝統思想を利用しようとする中国。さまよいはじめた人々のこころをつかみ、国を安定へと導くことはできるのか。その行方はいかに、として番組は締めくくられる。