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日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

ETV特集「仏教に何ができるか~奈良・薬師寺 被災地を巡る僧侶たち~」

2013/05/11 (Sat) 23:00~24:00 NHK Eテレ
キーワード
弱い心、写経、お経の言葉、覚悟
参考
番組公式
 仏の教えを学ぶ学問寺として1300年の歴史を持つ奈良・薬師寺。僧侶達はそこで、日々修行を積み人々に法を説いている。東日本大震災から一年後、薬師寺は、被災地を巡り、写経を通じて仏の教えを伝えていくことを決断する。本番組は、被災地を巡った薬師寺の僧侶が模索し続けた1年の記録を綴る。
 薬師寺の僧侶達は、般若心経をたずさえて、被災した人々に写経を勧め、仏教の教えを伝える。写経によって、自らの心と向き合いこれからの行き方を見つめ直せるからだ。しかし、現実を目の当たりにした僧侶達は法を説くことに戸惑いを抱いていた。薬師寺僧侶の大谷徹奨氏も、そのひとりである。震災の一ヵ月後、彼は自ら被災地を訪れるが、現地の光景を前に足がすくんでしまい、自分の正直で弱く身勝手な心に打ちのめされ、また、被災者同士の溝や苦しみをも知った。そして、家も家族も失った人達を前にいったい何を説くことができるのか、戸惑い、怖くなってしまったという。それでも、現地への訪問を重ね、数多くの人と出会ううちに、気づかせてもらったことがあった。それは、自分にも被災した人々にも覚悟が求められていると。相手を慰めるよりも相手の生きるスイッチが入ることのほうが大事であると。
 そして、仏教は何ができるのか、自分たちには何ができるのか。それを知るため、薬師寺の原点に立ち戻って仏教を考え直すことにする。そうして、「困難に直面したときに光となるお経の言葉には、大きな力がある。相手だけではなくて、説いている無力な自分までもが救われる。」そう感じることができたのであった。
 悟りというのは、何か特別な修行をしたところからではなく、自分のいのちをこれに捧げようと覚悟すること自体が悟りなのではないか、そして、与えられた場所で、すべての人たちに悟りがあり、覚悟を持って生きることを説くのが僧侶ではないか、と大谷氏は語る。
 薬師寺では東日本大震災三回忌法要が行われ、一万巻にのぼる写経が積まれていた。それは、人々が苦しみの中生き抜こうとしている覚悟そのものであった。