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テレビ番組ガイド・レビュー

日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

歴史秘話ヒストリア「空海からの贈りもの~天空の聖地・高野山~」

2013/02/20 (Wed) 22:00~22:45 NHK総合
キーワード
密教、絆、哀しみ、願い、受け継ぐ
参考
番組公式
 この番組では、2004年には世界遺産にも登録されて海外にもその魅力が知られるようになった高野山で、今もなお感じることのできる、空海の教えと精神を馴染みやすく、わかりやすく伝える。番組は、アニメーションや現地の住職や専門家の話などを交えながら進む。
 はじめに、高野山の神秘的な魅力について、精進料理や曼陀羅、阿字観や灯籠堂などの数々の見所を取り上げつつ、それらにまつわる空海の逸話や精神に触れる。空海は、「曼陀羅を通して仏の教えを感じとり、正しい修行を行えば、人は誰でも生きているあいだに悟りをひらける」という即身成仏の考え方を伝えたという。曼陀羅とは、密教では重要な意味を持つ二枚一組の絵であり、仏の教えや悟りの境地が象徴的にあらわされている。また、阿字観は密教行者が即身成仏のために行う基本的な修行方法である。手は印を結び、足は半跏坐、心の中いっぱいに大日如来をイメージして、大日如来との一体化を目指す。遍照光院執事の高山泰男氏は「大日如来様と一体となって、自分はこれから仏になるぞという発心があれば、他者も自分と同じように愛せる心が起きてくるのだ」と述べている。
 次に、空海の残した密教の宝について、国宝にも指定された空海の品々のすばらしさとその背景にあったドラマを読み解いていく。空海は仏像や仏具、経典を整えて密教が日本に広まる土台を築いた人物としてだけでなく、書の達人としても知られている。書き言葉が中国語しかなかった当時、日本人の心の世界をうまく書き表せるようにとひらがなの前身となる記号を作り上げたのだ。さらに、空海は日本に初めて不動明王をもたらし、教王護国寺での立体曼荼羅に尽力するなど、書と仏像の世界において私たち日本人に全く新しい考え方をもたらしていた。そして、空海の理知的で前向きに人生に立ち向かう言葉は、人々の心の本質を鋭く突いたものであった。
 終わりに、弟子であった智泉との絆と空海の言葉について取り上げる。唐で密教を学び帰った空海は高野山を開創し、長年の夢であった修行道場を作ることになるが、その途中、幼い頃より弟子となった智泉の死を受け、空海は「哀しい哉 哀しい哉 復(また)哀しい哉…」という言葉を残す。詩的な響きさえあるこの言葉に、空海の深い哀しみと智泉との強い絆がみてとれる。
 空海が高野山で最初に行い、今も続く萬燈会(まんどうえ)という法要には、命あるものすべての幸福を祈る空海の強い願いが込められている。開創から1200年という年月を経てもなお、空海が残した願いと信仰は、衰えることなく大切に受け継がれているとして、番組は締めくくられる。