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日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

新日本風土記「仏像の京都」

2011/11/18(金)20:00~21:00 NHK BSプレミアム
キーワード
京都、仏像、石仏、地蔵菩薩、観音菩薩、民俗信仰
参考
番組公式
 名所・祭事・食文化・産業などといった日本各地の風土をシリーズ形式で紹介している番組。「仏像の京都」と題された今回は、観光地としても人気を集める有名寺院の仏像の他、地域の中で人々に信仰されている地蔵菩薩や観音菩薩といった仏像にスポットを当てていることが注目される。

 番組からはこれら仏像の信仰は子供に関わりをもつものが多いことがわかる。
 昭和のはじめまで花の産地であった左京区北白川地域には、かつて花売りの行商に出た女性「白川女(しらかわめ)」が多くいたが現在は数人が残るのみだという。子供を家に残して仕事に行かなければならない白川女たちは、街道の道端に立つ大きな石仏・子安観音(こやすかんのん)を子供の守り神として篤く信仰してきたという。番組に登場する、現在も月2回150軒の家に花を届けているという現役白川女の女性は、車で通りかかりる際にも子安観音に一礼を欠かさないほか、配達の最後にはいつも自ら大きな花束を手向けるのだという。
西陣地域で年に一度行われる「地蔵盆」では、町内中の地蔵菩薩が町内会長の手で集められる。地蔵盆は子供を守る地蔵菩薩を祀る行事であり、子供のための祭りでもあるという。また、この町では、「ふごおろし」と呼ばれる一風変わった行事が20年ぶりに復活した。人形が括り付けられた「ふご」と呼ばれる籠に景品が入れられたものを家の2階からロープを伝わせて、路上の子供たちが受け取る。「ふご」は、かつて農作業の間に乳呑児を寝かせた籠であり、人形は子供の無事を託した地蔵菩薩の遣いだという。NHKは昭和48年に制作した「新日本紀行」でこの行事を取材しており、当時の映像の一部もあわせて放映されている。

 病気や災難から逃れたいという切実な想いを仏像に託す人も多いようだ。
 「六地蔵めぐり」は、京都の主要な街道沿いに祭られた6つの地蔵を参拝する行事。8月末の2日間、6か所を続けて参拝することで1年間無事に暮らせるという。これらの地蔵は平安時代末期、疫病や戦乱の渦中にあり「餓鬼が出る」と言われた京都を守るため、平清盛の命で都の各入口におかれたものだという。
 上京区の石像寺(しゃくじょうじ)の秘仏である地蔵菩薩はもと「苦抜地蔵(くぬきじぞう)」という名であったが、いつしか心に刺さった釘(=苦しみ)を抜くという意味で「釘抜地蔵(くぎぬきじぞう)」と呼ばれるようになったという。本堂の壁の一面に、願いが叶った人が奉納してゆく釘抜きと釘がくくりつけられた独特の絵馬が並ぶ。今も地元の人々が多く訪れるが、願いをかなえてもらうためには、本堂の周りを歳の数だけ周らなければならないという。50代の男性は周り終えるのに1時間以上かかりながらも「病気を治すために必死で周りました」と話していた。

 番組では、文化財として指定される仏像の数々が、寺院や専門家らの尽力によって維持される一方、また多くの仏像が地域のコミュニティーによって守られている様子が紹介される。
 京都では街中のいたるところに地蔵菩薩などを祀った祠(ほこら)がある。その数は1万以上にのぼるといい、町の人々が交代で世話をしている。番組には、家のしきたりとして帰宅すると必ず玄関先の祠にお参りをする男性、街角の地蔵菩薩のよだれ掛けを手作りする女性らが登場し、仏像が人々の生活の中にあることがわかる。
 左京区大原で地域の守り神とされてきた菩薩半跏像と十一面観音立像。集会所のような建物内のシャッターが降りる祭壇に安置され秘仏となっている。大原は平安貴族が余生を送った地として知られ、今も三千院などの寺院が建つ。この仏像はかつて大原に隠遁した百人一首の歌人でもある僧、良暹(りょうぜん)が住んだ山中の庵にあったが、手入れが行き届かなくなり昭和12年、里に移したのだという。現在は近隣の人々が定期的に世話をしている。もと庵があったと思われる場所を案内する男性は「(里へと移動する際は)当時の区長さんがおぶってきたと聞いている」といい、「(仏像は)空気のように無くてはならない我々の守り神。神様や地蔵様の前で手を合わすといったことは自然に覚えていった」と話していた。

 番組では今日の京都に根付いた仏像信仰を紹介する一方、明治時代の神仏分離令に伴った「廃仏毀釈」による排斥の過去にも触れ、清水寺に安置された千体以上の石仏「千体石仏」が紹介されている。混乱の中かろうじて勢力を保っていた清水寺に人々が持ち寄ったものだというが、現在ここを訪れる人はほとんどいない、と説明される(清水寺のホームページによれば現在有志の手で前垂れの新調、架け替えが行われているという)。

 このように本番組では、名だたる大寺院のみならず市中に無数に存在する仏像のそれぞれが人々の心の支えを担っている様子が映し出され、京都における仏教文化の層の厚さが感じられた。前出の大原地区の仏像を守る男性に対し、番組スタッフが「(そうした文化が)また次の世代にも受け継がれて・・」と言いかけると、男性がそんな大仰なことではないといった様子で「いいわ、そんなことは。廃れへん。日本の国では」と答えていたシーンが印象的であった。