文字サイズ: 標準

宗教情報PickUp

テレビ番組ガイド・レビュー

日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

BBC地球伝説「地中海 6つの旅 ~大地の歴史をさぐる~」

2011/11/07(月)20:00~20:55
キーワード
地中海、古代エジプト、古代ギリシャ、古代ローマ、ピラミッド、自然、ルネサンス、科学、地質学、建築、芸術
参考
番組公式
 地中海沿岸の歴史、芸術、文化は大陸プレートの移動やその土地の地質など地質学的要素が密接に関係しているという。
「BBC地球伝説 地中海6つの旅~大地の歴史をさぐる~」と題されたこのシリーズは地質学者であるキャスターが地中海の都市や歴史的建造物を周りながら、地質学的関係性を紐解いていく。
 キャスターが、身近な物を利用し、また道行く旅行者に協力してもらうなどして、視聴者に分かりやすく地質学の要素を解説していく。
 以下、各回の番組内容についてレビューを付し、最後にシリーズ全体の総評を述べたい。なお、今回のBS朝日によるシリーズ放送では、第一回は放送されなかったため、第二回からレビューしていく。

第二回「石と建築」
 古代エジプト、古代ギリシャ、古代ローマそれぞれの文明の建築物はその素材となった石に大きな特徴があるという。
 今回は、各文明の建築物を紹介すると共に材料となった石に注目し、その石の特徴や生まれる過程を紹介する。
 ピラミッドやアメン神殿など、古代エジプトの建築では石灰岩や砂岩が用いられた。これらは堆積岩と呼ばれる種類の岩石で、水平に積み重ねていくとより頑丈で壊れにくくなる性質を持つ。その為ピラミッドは底部へ向かうほど石が多くなり、今見る四角錐の形となった。しかし、屋根などを支えることには向かず、アメン神殿のような屋根を必要とする建築物は太い柱が何本も建てられたのだという。
 大理石は、石灰岩よりも頑丈で、古代ギリシャの建築に大きな影響を与えた。大理石は重い物を支えられやすい。その為、パルテノン神殿はアメン神殿の柱よりも細く、神殿内に広い空間を作り出すことができている。また大理石は彫刻を彫ることにも向いており、建築が一種の芸術にまで高められていった。
 ローマのパンテオンは石灰と火山灰を混ぜ合わせたコンクリート、レンガを用いて水道橋や浴場、アーチを用いたコロッセウムを造った。中でもパンテオンはコンクリートに玄武岩や凝灰岩、軽石などをそれぞれ混ぜ合わせることでドーム型の屋根を造り出した。

第三回 「色と芸術」
 古来、様々な色が作り出されてきた。この回では、過去の地中海文明の壁画などに用いられた顔料と、各地域の地質の関係性に注目している。
 旧石器時代は、岩場の黄土と水をつなぎで混ぜ合わせることで顔料を作ったと言われている。ラスコー洞窟でも鉱物を用いた世界最古の壁画が見られる。
 エジプトの王家の墓などの壁画に見られる色使いは旧石器時代のものよりもはるかに派手だ。山脈から発見された銅や石黄、鶏冠石から緑、黄色、オレンジなどが作られる。また青を作るために砂漠の砂やクジャク石などを混ぜ合わせた。
 錬金術の過程で朱色を作り出したアラブ人はその後も多様な色を作り出す。その色はヨーロッパでも使われ、中世以後の絵画に影響を与えている。また19世紀には元素が発見されると、ルノワールやモネのような印象派の絵画は色鮮やかな作品となった。

第四回 「信仰と科学」
 古来、ギリシャ神話の中においては、ポセイドンが大地を揺らすものであると言われていた。自然現象は神々の為せるものと考えられていた。古代ローマ時代でも、皇帝コンスタンティヌスが空に輝く十字架を見たと伝えられる。これは神の啓示として神秘的に受け止められ、キリスト教公認の推進力になった。
 番組の前半では信仰が自然現象をどのように受け取ったのかを紹介すると共に、それらの自然現象を科学的に解明していく。
 さらに、後半では、自然現象だけではなく、地球の形成というさらに大きなテーマを、聖書と科学の関係に絡ませる。その解説の中では、ウェゲナーの大陸移動説や隕石による気象の激変説により、幾度もそれまでの定説が覆される程の大きな衝撃が学界に走ったことに注目している。
 それらに関連してキャスターは最後に「現在の定説も、いずれ覆されるかも知れません。地質学は流動的な学問です。つまり地球の営みには謎が尽きないということです。」とまとめている。

第五回 「水と文明」
 地中海沿岸の地域の文明の興亡と水との関係に着目している。
 石器時代、テチス海の水位が大幅に上昇し、現在の黒海となった。その水位上昇により、テチス海沿岸の人々の住居が海底に沈んだことで、大規模な移住が始まる。彼らがアジア、ヨーロッパへ移住したことが、現在各地で使われている言語の類似性から推察され、テチス海に流れた水が、言語に影響をもたらしたことを示唆している。
 水位の上昇は他の地域でも例外ではなく、地中海の水位上昇に追われた。そのような状況の中で、古代ギリシャ人は磁石が南北を指し示すという特徴を発見し、この特徴を利用した航海術を発展させた。またコリントス遺跡には給水場や上下水道の跡が見られ、泉からわき出る水を古代ギリシャ人が上手く活用していたことが窺える。
 古代ローマ人は当時、交易上重要視されていたエフェソスを支配した。
 しかし、伐採で雨をせき止める森林が減り、河口付近まで土砂が流される現象が起こる。この現象で、港が町より遠ざかることで貿易がし辛くなっただけでなく、土砂が流れることで生まれた沼地で発生した蚊がマラリアをもたらした。このマラリアが船乗り達と共に海を渡って地中海全体に広まったことが、古代ローマ帝国の衰退に繋ったと番組では指摘している。

第六回 「塩と文明」
 シリーズ最後のこの回では、有史以来の地中海沿岸の人々と塩との関わりを紹介している。
 番組はまず、氷河時代、人類が塩分をどう摂取していたのかを解説し、加えて氷河期の終了となる地球の温暖化は塩が作り出した海流がもたらしたものであると指摘する。
 次に、番組は温暖化が進んだ後に塩が古代文明に与えた影響の説明に移る。エジプト文明ではミイラとして死体を保存する際に塩分を含んだ砂漠の砂を利用していた。死体を保存する以外にも、塩を用いて食料を保存できることを発見し、飢饉などから飢えを免れたという。
 レバノンの山脈地帯で生活していたフェニキア人は海水を蒸発させることによって塩が得られることを発見した。塩田を作り、地中海中に築いた港で大量の塩を販売し、莫大な財産を得た。
 争いの末に滅んだフェニキア文明の後に、ヴェネチアは地中海の塩田を支配することでアレクサンドリアやコンスタンティノープルとの貿易を独占する。ヴェネチアの人々はアジアのエスニックな産物をヨーロッパに運ぶ担い手となる。番組内である女性は「アジアとの貿易で香辛料がやって来たが、SalaryはSoltが語源であり、また食卓では地位が高い人物の側に塩は置かれるなど、塩は人々の生活に大きく関っている。」と語っている。
 番組の最後では気候、食事、言語や慣習など様々な分野に影響を与えた反面、塩があまりに身近すぎることで我々は塩のそのような関係性を忘れがちになっているのかもしれないという考えがまとめとして述べられている。

<総評>
 有史以来、人類は美術、建築、信仰という形で文明を築き上げてきた。その中で人は岩石を建築物の資財や絵を描くための顔料として採取した。また、地震など人類の手に負えない自然現象は神々の為す業だとし、信仰にも繋っていった。しかし、第四回の中でルネサンス期の科学の発展と共にその考えに変化が訪れたことが指摘されている。
 つまり、人類が自然を自分たちよりも高位、もしくは同等のものとする考えから数式などを用いることで、下位のものと見なす考えに変わったということを言いたいのだろう。
 しかし、この人間本位の思考により、過去に大きな過ちを犯していることを番組では言及している。例えば森林伐採などにより河口付近の土砂が溜まることで、古代ローマ帝国が滅んでいったとする第五回で紹介されたエピソードだ。
 「地球の営みは謎が尽きないのです。」とキャスターが言うように、人は地球が営む自然を完全に理解し、支配することはできないのだろう。それは過去の事例からも明らかであり、その経験を見つめていくことが人々に今、求められているのかもしれない。