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テレビ番組ガイド・レビュー

日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

ETV特集「ずっと、こころ、重ねて~震災遺児 16年目の約束~」

2011/02/13(日)22:00~23:00 NHK教育
キーワード
震災・家族
参考
番組公式
 阪神淡路大震災のあった1995年から今年で16年が経つ。共に当時12歳だった和徳氏と妻の綾香さんは、今では二人の子どもを持つ親となっていた。しかし、和徳氏は父親を震災の後すぐに亡くしたために、父親とはどういう存在なのかが分からないまま育った。そのため、現在二人の子どもを前にして、これからどのように子どもを育てていったら良いのか、父親とは何なのかを考えながら日々生きている。さらに綾香さんも震災で両親を亡くしており、その辛さを口に出さずに生きてきた。産後に意識がないなか「パパとママに会いたい」と叫び、泣き始めた綾香さん。その時に初めて彼女の心に抱える辛さが、どうしようもなく噴出した。その傷は癒えることなく、未だに綾香さんの心のなかに深い影を落としている。
 父親とは何か分からないまま父親となった和徳氏、震災がもたらした心の傷を抱えながら母親になった綾香さん。番組は、その二人の家族の生活を追ったものであった。

 和徳氏は震災の後すぐに神戸を離れ大阪に移り住んだため、同級生も住みなれた町もすべて失ってしまった。震災の後、同級生の子と震災について話すことはなかったし、聞くことが出来なかったため、和徳氏は震災遺児なのに震災を知らないまま大人になってしまった。それから何年か経った今、テレビの制作会社でディレクターを目指している和徳氏は、震災を体験した同級生に久しぶりに会いに行って話を聞き、自分のカメラで撮影して記録を残しながら、同時に今まで目をそらしてきた事実に向き合おうとしていた。同級生に話を聞いていくなかで、少しずつ空白の16年間を埋めようとしていたのだ。同級生との話のなかで、今まで知らなかった震災現場での出来事、その当時の気持ちを少しずつ確認することができた。とりわけ「震災の時、そこでまだ生きていたし声が聞こえていたが助けられなかった、ということがずっと心に残っていてとてもつらい」という話を聞き、そこに自分が体験した父親の状況を重ねることで、「これから一生癒えることのない悲しみを抱えて生きていかなくてはならないのだ」ということを強く実感したという。

 さらに和徳氏は妻の綾香さんにも震災後の気持ちを聞くため、きちんと向き合って話を聞いた。真剣に話をするのは震災後初めての事であった。そこで綾香さんは「夫婦とは他人であり血が繋がっていないから家族ではない。だから寄り添って生活していくしかないのではないか。だから夫婦って何?といつも思っている。」と言った。さらに「母親、父親に会うこととは、自分が死ぬということだ、と考えているのでいつも死にたいと考えているけれど、それを口に出して言ったらみんなが悲しむから言わない。みんなの悲しむ顔は見たくない。」と言い、続けて「それに勝るような嬉しいことがあったら生きていて楽しいと思うけど、それがない。だからなんでこんなに辛い思いをしてまで生きているのだろう?」とまで語っている。幸せとは何か。結婚して、子どもができ、家族が出来て、そうしたら幸せだと思っていたが、実際そうではないといった思いが、綾香さんを覆っている。さらに和徳氏に対しては「仕事優先で家族に目を向けないから、パパという肩書きしかない」と口にし、綾香さんがずっと抱えていた和徳氏に対する不満が明らかとなる。

 実際に、和徳氏は震災の情報集めに夢中で、家族のことが部分的におろそかになっていた。そのことも一部原因となり、綾香さんの精神状態が不安定となる。また、和徳氏と子どもとの距離も徐々に出てくるようになっていった。そのようななかで同級生とその父親に、「今大切なことは父親の背中を追うことではなく自分の家族と向き合うことだ」ということを教えられる。これを聞いた和徳氏は、「今までの自分の考えでは家族がダメになってしまう」と考え、ディレクターの仕事をやめて家族との時間が多くとれる仕事を探すことに決めた。父親とは何なのか。震災を体験した同級生からの多くの言葉によって、和徳氏は少しずつ自分なりに答えを見出していく。そして和徳氏は綾香さんと共に人生の新たな一歩を踏み出す覚悟が次第に定まっていく。

 震災を体験した多くの人が、家族や子ども、友人といったかけがえのない存在を亡くしている。子どもの頃に被災し、両親を亡くした多くの方々は、想い半ばで失った「親の姿」を戸惑いながらも模索している。そのなかで「苦しみながらも親として子どもを育てていこう」と心の奥底に秘めた強い想いは、同時に彼らが「親」として生きる人生そのものであるとも感じさせられる。普段なにげなく生活している私たちに、唯一無二の存在である両親のことを、改めて深く考えさせてくれる番組であった。