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宗教情報PickUp
テレビ番組ガイド・レビュー
日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。
シリーズ世界遺産 「一万年の叙事詩<第四回目>」 |
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2011/01/18(火)20:00~21:29 NHKBS hi
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人類史1万年の歴史を世界遺産から辿るシリーズ。全9回シリーズの4回目である今回は、「世界宗教~祈りの力がもたらしたもの~」と題し、紀元500年から1500年までの世界遺産を取り上げる。 この時代、世界には3大宗教と言われるキリスト教、イスラム教、仏教が出揃った。現在残されている世界遺産も、この時代のものは宗教関連の建築物が大半を占めている。地域・民族をこえて伝播した世界宗教は、これら文化を生み出した一方、現在に至る宗教対立をもたらした。 今回は、仏師である吉水快聞氏が韓国の世界遺産、伽耶山(かやさん)海印寺(かいいんじ・ヘインサ)を、またレギュラー出演者の華恵が、かつての十字軍とイスラム勢力の激戦地、シリアのクラック・デ・シュヴァリエを訪ね、宗教が人類にもたらしたものを探る。 韓国の伽耶山海印寺には、700年以上前に彫られた大蔵経の版木およそ6800冊が保存され、世界遺産となっている。北方騎馬民族による侵攻からの国家護持の願いを込め、高麗国を挙げて造られたものだという。大蔵経は、仏陀の死後、地域や時代に対応して様々に変化していった仏教の教えを集大成したもの。この海印寺蔵の大蔵経は誤字等が少なく、正確さに優れているといわれている。また、版木が収められる「蔵経版殿(ぞうきょうはんでん)」という倉庫は、一見吹きさらしのような構造だが、実は巧みな設計により、空調の役目を果たしている。 クラック・デ・シュヴァリエは聖地をめぐるイスラム教徒との200年以上にわたる戦いの舞台となった十字軍の城砦。多重的な防御システムにより鉄壁の守りを誇ったが、1271年に落城し、イスラム軍が占拠した。しかしイスラム教徒は城内礼拝堂の装飾などを破壊することなく、上から塗りつぶすに留まった。壁にはアラビア文字で「すべて各々は自分の仕方で行動する」と刻まれ、これは「各々が自分の信じる宗教で祈ればよい、他の宗教を強制することは誰にもできない」という意味であると説明される。現在も城下の村ではイスラム教徒、キリスト教徒が共存しているのだという。 番組中では、旅人役の吉水氏、華恵の「報告」を受けて、編集者・松岡正剛氏が論考を行う。内容は次のようなものであった。 ・3大宗教の特徴 信仰の集団「教団」が形成されたこと。また、経典の記述が行われたこと。これらによって、広範囲に教義を伝播することが可能になった。 ・インドから東伝した仏教、なぜ西欧には広がらなかったのか? 西欧には古代ギリシアからデカルト、カントの時代にいたるまで、無に対する恐怖「真空恐怖(バキュームホラー)」があり、「空」「無我」などといった仏教思想を受容できなかった。それらはショーペンハウアー、ニーチェの時代にようやく「ニヒリズム(虚無主義)」という形に解釈された。また、多くの僧が経典を求めて、異国へ赴いたが、逆に布教のために積極的に異国へ渡る「宣教師」は存在しなかったことも指摘される。 ・大陸仏教と日本仏教の違い 日本仏教は長らく神仏習合という形を取ってきた。これは日本の国民性、風土性、そして言語性に根ざしている。日本語では、主語を明瞭に示すことなく会話を成立させることができるといわれる。他民族から見れば曖昧とも思われるような日本人独特の宗教観は、こうしたところにも起因する。松岡氏はこれを、強く粗野なものを、ソフトに洗練させていく「ソフィスティケーション(洗練)」と表現する。 ・一神教と多神教の違い 砂漠や荒野という厳しい環境の中で生まれた一神教は、必然的に1人のトップ、二者択一、といった性格を帯びるようになった。多神教は、それが生まれた森林地帯が持つ圧倒的な情報量に対しては、部分的に特化した複数の専門家が必要とされるのと同じように、多くの神仏を生むことになった。 ・宗教建築の特徴と偶像崇拝の有無 キリスト教会では聖歌は天井高くへと昇っていくが、イスラム寺院では読経の声が横方向へゆるやかに広がっていく。キリスト教・仏教いずれもイエス・仏陀の生前には文字による経典は残さなかった。しかしイスラム教はその始原においてコーランという経典、それの読誦とともに出発した。偶像崇拝を禁止したイスラム教の中では、文字や、(音楽のような)読経が重要な役割を果たしており、建築的な特徴にも反映されている。 番組最後では、松岡氏と華恵氏が宗教のありかたについて、世界宗教の次段階として地球・宇宙・生命全体としての思想が生まれるのではないか、また、宗教にみられる、畏れ、畏怖のようなものは人間・国家にとっては不可欠ではないか、といった見解を述べている。このように番組では、世界遺産の歴史的な解説などにとどまらず、3大宗教の特質、文化と宗教の関係などといった問題にも言及しようとしている。その随所で、宗教・民族対立の歴史と対置する形で、宗教の「寛容さ」の面を強調しているように感じられた。とりわけ、厳しい戒律というイメージがあるイスラム教の寛容さ、多神教である仏教、なかでも神仏習合という形をとった日本仏教の寛容さ、といった視点が目立っていた。 |