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テレビ番組ガイド・レビュー

日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

BBC地球伝説「キリスト3つの名画の謎~その誕生に隠された真実~」
(三夜連続、3回シリーズ)

2010/12/22・23・24(水-金)各日とも20:00~20:54 BS朝日
キーワード
キリスト教美術、ルネサンス、レオナルド・ダ・ヴィンチ、カトリック、世界遺産
参考
番組公式
キリスト3つの名画の謎 ~その誕生に隠された真実~
第1部 レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」(12月22日放送分)
 「キリスト3つの名画の謎 ~その誕生に隠された真実~」と題した全3回のシリーズ。レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」、サルバドール・ダリ「十字架の聖ヨハネのキリスト」、 ピエロ・デッラ・フランチェスカ「キリストの復活」、これら3つの絵画は、いずれもキリストという伝統的なモチーフを描きながら、革新的な手法が用いられている。今回はその第1部。

 レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」は、「モナ・リザ」とともに、世界で最も知られた絵画のひとつである。
 自然科学の研究や、数々の発明的なスケッチで有名なダ・ヴィンチだが、その探究心は「最後の晩餐」の制作にも発揮された。彼は壁画としては異例のテンペラ技法(*1)を用い、一般的なフレスコ壁画(*2)に比べ、時間をかけて製作することを可能にした。これによって画面を綿密に検討することができ、静止した絵画のなかにも、豊かな時間の流れを感じさせることに成功した。また、修道院の空間と一体になった遠近法の利用は、聖書の光景が目の前で繰り広げられているようなリアリティをもたらした。
 しかし、その実験的な技法ゆえに、完成後わずか20年余で絵は傷み始めてしまう。その後も侵略や戦争、不適切な修復によって絵は損傷を受け続けたにも関わらず、作品は奇跡的に現存している。
 ダ・ヴィンチは敬虔なキリスト教徒ではなかったものの、その文化には多大な関心を寄せていた。そうした深い知識に基づいて配置されたであろう、キリストと弟子の姿は、キリストを裏切ったユダを他の弟子と同じ側に描くなど、斬新なもので、多くの推察・論争を生んできた。近年ではヨハネとされた人物が実はマグダラのマリアであったとする、小説および映画「ダ・ヴィンチ・コード」が世界中で話題となった。
 番組では、「最後の晩餐」が完成以来約500年間、時に無残な姿で放置され、またある時は激賞されてきた歴史が紹介される。また、制作当時、作品自体が神聖な存在だったが、西洋における神の権威の失墜と共に、パロディーの対象になり、広告に利用されるようにもなった。最後の晩餐をめぐるそうした歴史は、西洋世界における宗教上、芸術上の価値観の変遷を物語るものであるのかもしれない。現在、最後の晩餐は20年にわたる修復を終え、世界遺産として多くの観光客を集めているが、そうした在り方も決して普遍的なものではないことを思わせる番組であった。
 用語解説
*1.テンペラ技法:顔料を油で練る油絵具に対し、テンペラ絵具は、顔料を水性と油性両方の成分をもつ(エマルション)黄卵・カゼインなどで練ったもの。油絵の具のように顔料を油で覆うことがないため、発色に優れる。油彩との併用も行われる。多く板などに描かれ、壁画には不向き。
*2.フレスコ技法:フレスコは英語のフレッシュ(新鮮な)と同義のイタリア語で、その日の作業部分のみに塗った漆喰が乾かないうちに、顔料で描く技法。完成後は顔料と漆喰が一体となるため、耐久性に優れる。教会などの壁画では一般的な技法。