文字サイズ: 標準

宗教情報PickUp

テレビ番組ガイド・レビュー

日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

BBC地球伝説「世界・建築遺産の旅 死と向き合う」

2010/11/08(月)20:00~20:54 BS朝日
キーワード
建築、死生観、葬祭、墓、古代エジプト、マヤ文明、カトリック、ヒンドゥー教
参考
番組公式
番組は建築遺産を通して世界の人々の死生観をみることができる内容となっている。

エジプト・ナイル川のほとりにあるハトシェプストの葬祭殿には、約3500年前の古代エジプトのファラオ、ハトシェプストが祀られている。葬祭殿は左右対称を強調した外観を持ち、古代エジプト人が重んじた正しさ、秩序といった理想を反映している。ハトシェプストは女性ながら、国家の最高神アメン・ラーの子として男装することで、王になった。葬祭殿内部の壁画にはその誕生の物語が表わされ、ハトシェプストの肖像は男性として描かれた。肖像を描くことで彼女は魂を永遠のものにしようとした。しかしその多くは王位を争ったトトメス3世によって削り取られた。後にそびえる岩山と繋がる、葬祭殿の最奥部には、アメン・ラーが祀られている。その岩山の向こうには歴代の王が眠る王家の谷がある。

古代マヤ文明が栄えた、南米・グアテマラのサンホセには、死者の魂と生者が共に集う「死者の日」と呼ばれる祝日が残っている。頭蓋骨を祀る独特の儀式はスペイン人のもたらしたカトリック信仰と、マヤ固有の信仰が融合したものである。古代マヤ人は、先祖や討ち取った敵の頭蓋骨を保管し、信仰対象としていた。カトリックの「諸聖人の祝日」と同日に催されるこの祝日を、カトリック教会は公式に認めていない。この地の人は「死者は天国には行かず、私たちと一緒にいる。自分もいつ死ぬか分からないから死者の日を祝う」という。儀式は死に対する恐れや暗さを感じさせず、明るい雰囲気で進行する。     
    
古代マヤ文明には、「生贄」という文化も存在した。ヤシャ遺跡は1200年前の都市で、生贄の儀式が行われたピラミッドなどの建築群は、鉄器や荷車が存在しない時代の建造ながら精巧なものである。マヤ文明では血液が尊い物とされた。その血液を神に捧げることで太陽の恵みを願った。ピラミッドの頂上で心臓を神に捧げたのち、生贄の色である青に塗られた体は、人々の前で地上へ投げ落とされた。

イタリア・ジェノバのスタリエーノ墓地は、19世紀、遺体の不十分な埋葬による疫病の蔓延を防ぐため設置された、広大な霊園である。ここには被葬者の生前の姿を表した彫刻が大量に立ち並ぶ。主に当時の中流階級の人々が、魂の永遠を願い、記念碑として作ったものだ。しかし、中には行商を営む女性の巨大な像などもあり、様々な階級の人々が死後の幸福に財を費やしたことがうかがえる。像の表現はやがて独創性を増していき、生死の相克をドラマチックに表現したものが多くみられる。一方、像を建てる富を持たぬ人々は、簡略な墓石の下に土葬される。しかもその墓も10年単位の契約が切れると掘り起こされるというシビアなシステムである。

最後に紹介されるのはヒンドゥー教の聖地、インド・バラナシ。ヒンドゥー教ではインドは世界の中心と考えられ、聖地バラナシは、世界の始まりと終わりの地である。死を司るシヴァ神を信仰するこの街には、年間100万人以上の巡礼者と、火葬を待つ遺体が全国から集まる。またシヴァ神からモクシャ(解脱)を得るため、この地で死を迎える人々もいる。そうした人々が滞在するのが「死者を待つ家」と呼ばれる施設だ。施設家族の集った部屋の中、くつろいだ雰囲気で、死を迎える儀式が行なわれる。バラナシでは死を巡る一連のビジネスによって寺院・その周辺の商店などが成りたっている。死は日常のなかに溶け込み、毎年4万体という火葬は、衆人の目前で行われている。

番組は建築遺産を通して世界の人々の死生観をみることができる内容となっている。死の意味や、死後の魂についての考え方は様々であることがわかる。スタリエーノ墓地にそびえる大理石像と、ガンジス川ほとりの陽の下で営まれる火葬の対比は印象的だった。しかしいずれについても、死は生活の中から隔離されるのではなく、生と表裏一体のものとして捉えられているように感じられた。