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テレビ番組ガイド・レビュー

日本国内で放送された宗教関連番組のレビューです。

プレミアム8 「世界遺産 一万年の叙事詩 第1シリーズ古代編」 第1回

2010/09/07(火)20:00~21:29 NHKハイビジョン
キーワード
世界遺産、先史時代、古代美術、壁画、古墳、土器、アニミズム
 紀元前1万年から紀元前3千年、文献など、文字による記録が残っていない先史時代に、狩猟採集生活から定住・農耕生活へと移行していった人々の営みを今に伝える世界遺産をたどっていく。番組は主に、約1万年前の南米・カピバラの壁画群(移住・狩猟採集期)、約6千年前の屋久島・縄文遺跡(移住→定住移行期)、約5千2百年前のアイルランド・ニューグレンジ遺跡(定住・農耕期)にそれぞれスポットを当てる構成となっており、文字がなかった時代の人々の思想や社会構造を、遺跡や道具などといった造形物から読みとっていく。
 例えば、カピバラ遺跡に描かれた、植物とそれを祀る人々の姿。狩猟民族が植物を描いた壁画の例は類を見ず、農耕民族的な収穫の対象とはまったく違う、アニミズム信仰の原型のようなものを既にこの時代の人々が見いだしていたことがわかる。約6000年前、活発に海上を移動しながら暮らしていた屋久島の人々は、火山噴火により航路を絶たれ、定住生活への移行を余儀なくされた。定住はここの場所とむこうの場所、という差異の概念を生み出し、そこから商品の希少価値や交換価値、さらには希少品であったものを生産手段の拡大により量産化するという経済活動へと繋る。屋久島から大量に出土した縄文時代の土器からは、外来の土器を輸入、さらにそれコピー、量産して再び輸出していた様子が伺える。
 紀元前3200頃アイルランドに造られた古墳、ニューグレンジは当初巨大な墓だと考えられていたが、年に1度冬至の日に内部の通路を照らすという周到な設計がなされ、暦のような機能を果たす建造物であることが分かった。このような巨大建造物を正確に作り上げる作業は、定住、そして農耕生活がもたらした、集団を重視する社会構造と不可分なのである。
 このように番組は、残された遺跡から先史時代の生活、生産(経済)活動の様式の変化と、造形物の変化が相互に、密接に関係しあっていることを明らかにしていく。また、2万2000千年前にシベリアから渡ったモンゴロイドが南米大陸に定着したと言われてきた人類史の定説を覆し、さらに1万年以上も前の時代に、アフリカ大陸から直接大西洋を渡ってきた人々がいた可能性を示唆する痕跡なども紹介しており、先史時代という文字情報の残されていない、いわば広大な暗黒のような時間に光を当てなおす試みとなっている。