• トップ
  • 第八回「ルーマニアにはまだ魔女がいる?」
文字サイズ: 標準

宗教こぼれ話

このコーナーは、宗教情報センターに長年住みついている知恵フクロウ一家の
長老・宗ちゃんと、おちゃめな情報収集家・情ちゃん、そして、
日々面白いネタを追い求めて夜の空を徘徊するセンちゃんが、
交代で、宗教に関わるさまざまなエピソードを紹介します。


第八回「ルーマニアにはまだ魔女がいる?」

2011/02/22 第八回「ルーマニアにはまだ魔女がいる?」 

情ちゃん ルーマニアにはまだ“魔女”がいるのね。
『読売新聞』2011年1月13日によれば、ルーマニアでは1月から“魔女”と呼ばれる呪術師や占い師に16%の所得税を課せられることになったので、呪術師らがバセスク大統領や政府関係者に犬の死骸などで「呪いの魔法をかける」と騒いでいるんですって。
ルーマニアは財政赤字が膨らんでいるので、税収増を狙って、国内に数千人いるとされる呪術師や占い師を「公式な職業」と認めて新たに自営業者に分類して、所得税納付と健康保険・年金制度への加入を義務づけたそうよ。
宗ちゃん ルーマニアでは2010年9月に議員らが、占い師などに課税する法案を提出したけれども、呪われるのが怖くて撤回したという話がありましたが(※1)。結局、法制化されたのですね。
情ちゃん ルーマニアには“魔女狩り”のようなものはなかったのでしょうか? 中世の“魔女狩り”はヨーロッパでは近代にはほぼ終わったそうですが、21世紀に入ってもまだ、この問題を新聞で見ることがありますよね。
例えば、スイスで“欧州最後の魔女”とされて1782年に処刑された女性については、不当な死刑判決だったとして2008年8月に名誉回復決議がなされています(※2)。この“魔女”は、さる名家の使用人で、彼女と性的関係を持ったその家の主人が発覚を恐れて、彼女に“魔女”との濡れ衣を着せたそうよ。
また、イギリスでは、霊媒能力を持っていたとされる女性が第2次世界大戦中に、イギリスの戦艦の沈没を公式発表前に言い当てたために、機密漏洩を恐れた軍部が魔女法違反の罪で彼女を投獄したんですって(※3)。1735年に作られた魔女法は、この事件のあと1951年に廃止されたけれど、彼女の有罪判決は取消されず、孫娘が政府に判決を破棄するよう請願を行っているとか。
センちゃん ルーマニアで“魔女狩り”があったのかどうかは知りませんが、長らく独裁者として君臨し、1989年に処刑されたチャウシェスク大統領(1918~1989)の在任中には、魔法を使ったとして投獄された魔女もいるようですね(※4)。それでも現代のルーマニアでは、魔法や占い、民間療法を行う“魔女”が身近な存在らしいです。先ほどのチャウシェスク大統領にはお抱えの“魔女”がいたそうですし、バセスク現大統領は特定の日には呪いを避けるために紫色の服を着るそうです(※4)。また、ルーマニアでは2006年には、初めて法的に登録された“魔女”が誕生しています(※5)。当時31歳の女性は、政府と数カ月に及ぶ交渉の末、占星術や“精神世界との交流”などを行う会社として登録されたので喜んでいたようですが、今回の件はどう思っているのでしょうね。
情ちゃん “魔女”や呪術師の収入は、相談1件当たり600~800円程度と少ないので、課税しても税収増加には結びつかないと反発する声のほうが大きいみたいだけど、確かに、正式に自営業者になったので、「魔法が公式に認められた」と歓迎する向きも一部にはあるみたいね(※4)。
宗ちゃん ちなみに、ノルウェーでは2003年に、33歳の“魔女”が有害な“魔法”を試さないことを条件に、開業するための補助金約81万円の支給を政府から認められています(※6)。彼女は「社会が魔法に対して寛容になったのは小説『ハリー・ポッター』のおかげ」と語っています。“魔女狩り”のような歴史は繰り返されないほうがよいとは思いますが、呪術や魔法をどう考えるのかということは、難しい問題ですね。
※1 ”Associated Press” Sep.9,2010
※2 『西日本新聞』2008年8月28日
※3 『東京新聞』2007年1月17日
※4 『西日本新聞』2011年1月10日
※5 ”Ananova” Apr. 24,2006
※6 『毎日新聞』2003年10月25日

※補追:その後、ルーマニアの「魔女税」は、手続きが煩雑になることなどを理由に導入が見送られた。
     (『朝日新聞』2012年1月10日)